Doc:Radiation/Pregnancy

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もくじ 基礎知識 自然放射線 人体への影響 胎児と子供 ファイトレメディエーション 土壌汚染 移行係数 食品汚染 家畜汚染 Q&A とリンク

文責: 有田正規 (東大・理・生物化学)   質問、コメント、誤り指摘、リクエスト等は arita@bi.s.u-tokyo.ac.jpまで


Contents

胎児に対する影響

まとめ

以下は国際放射線防護委員会 (ICRP) の勧告84のサマリーです。

  • 胎児の被曝量が 100 mSv 以下の場合は、放射線の影響は認められません
  • 胎児の被曝量が 100 mSv 以下の場合に、妊娠中絶などを検討すべきではありません
  • 妊娠前の被曝はその後生まれてくる胎児に影響しません

ICRPの勧告はグレイ (Gy) という単位ですが、β線の場合シーベルト (Sv) と同値なので、福島地域にあわせて Sv 表記します。上の内容は、年間 100 mSv 以下の被曝を受ける妊婦が統計的に明らかなほどにセシウム被害を被ることは、考えにくいことを意味します。

注意および参考情報

  • このページで記述する放射線量は、胎児が受ける線量であり、母体が受ける線量ではありません。
  • 医療放射線の場合、盲目的に放射線検査を避けるのは望ましくありません。担当医師からメリットとリスクのバランスについてよく説明を受けてください。
  • CTスキャンでは子宮のスキャンに限り、胎児が 10-40 mGy の放射線を浴びます。
  • バリウム注腸検査の場合、上手にやれば胎児は 3-7 mGy の被曝ですみます。二重造影バリウム注腸の場合は、単一コントラストの2倍の放射線を浴びます。特に蛍光透視法(フルオロスコピ- fluoroscopy)の観察時間を把握することは重要です。胎児が 50 mGy の影響を受ける域に近い7分間を超えないようにします。
イギリスの一般的医療検査における胎児の被曝量 (参考
Protection of Pregnant Patients during Diagnostic Medical Exposures to Ionising Radiation RCE 9)
検査 平均 (mGy) 最大 (mGy)
通常のx線
1.4 4.2
< 0.01 < 0.01
静脈尿管造影 1.7 10
腰椎 1.7 10
骨盤 1.1 4
頭蓋 < 0.01 < 0.01
胸椎 < 0.01 < 0.01
検査 平均 (mGy) 最大 (mGy)
蛍光検査
バリウム食 (UGI) 1.1 5.8
バリウム注腸 6.8 24
CTスキャン
8.0 49
0.06 0.96
< 0.005 < 0.005
腰椎 2.4 8.6
骨盤 25 79


胎児に対する影響の詳細

妊娠前から初期

妊娠前

両親が放射線を浴びたことにより、その後妊娠した子供に影響が出た例はありません。

ただし、予防的な措置として、500 mGy 以上の照射を受けた場合は、妊娠を少なくとも2ヶ月待つべきと考える研究者もいます。

8週目までにおける放射線の影響

妊娠初期から数週間以内に 100 mGy を超える放射線を受けた場合でも、奇形などはほぼ起こりません(ほぼ、というのは自然に奇形が生じる場合があり原因を特定できないからです)。 過度の放射線を浴びた場合は、流産してしまいます。 主要臓器が形成される3-8週よりも影響が大きいのが、中央神経系が形成される8-25週内です。

8-25週目における放射線の影響

知的障碍

知的障碍とされるのはIQが70以下の場合で、自然に出生する子供の3%が該当します。また、自分の世話ができない重篤な知的障碍児も自然に0.5%出生します。

知られている放射線の影響
    • 100 mGy (ミリグレイ) 未満: 広島、長崎の被爆者データによると、週齢に関係なく、放射線の影響による知的障碍は発見できない(自然に発生するものと区別できない)
    • 100 mGy 以上: 中央神経系 (Central Nervous System) に障碍が出る可能性がある
    • 500 mGy: 広島、長崎の被爆者データによると、IQが大きく低下する現象が見られるのは 500 mGy 以上の被曝のみ
    • 1000 mGy: IQが30ポイント低下。8-15週目の場合、自分の世話もできない知的障碍を引き起こす確率が 40% 。16週目以降で被曝した場合、その確率は低下

白血病、小児がん

0-15歳において、自然に小児がん、白血病になる確率は0.2-0.3%です。

知られている放射線の影響
  • 10 mGy: 相対的なリスクが1.4になる、つまり小児がん、白血病になる確率が0.28-0.42%になるという報告があります
  • 1000 mGy: 絶対リスクの推定によると 6% が小児がん、白血病になります。放射線量とガンのリスクが正比例すると考えると、100 mGy 浴びたときのリスクは0.6%で、自然に発症する率の2倍になります。


子供への影響

福島市や郡山市の場合

福島市や郡山市では、平成23年(2011年)まで 1 μ Sv / 時の空間線量率が観測されており、平成24年(2012年)以降は少しずつ低下しているようです。各市の空間放射線量は以下のサイト等を参考にしてください。

福島市の累積空間放射線量は、事故後2年半で 20 m Sv に到達します。今後、空間放射線量が少しずつ下がっていくとして累積の空間放射線量が 100 m Sv に達するのは 20 年後かそれ以降でしょう。

個人が実際に浴びる線量はガラスバッジによる個人線量測定から推定でき、現在は様々な情報が手に入ります。[1]

上記のサイト等をみる限り、実際の個人の年間被曝線量は多くて数 m Sv と考えられます。[2] バッジをつけている人は「気をつけて」生活していると思うのですが、そのスタイルを続けていれば被曝線量は日本国内の地域差程度であることがわかります。線量が気になる方は、ぜひバッジによる計測等を続けられることをお薦めします。


コメント
  1. 個人の線量計測結果や線量マップについては崎浜直子さんより情報提供をして頂きました。ありがとうございます。
  2. データを見ると 5 m Sv を超えるような測定結果も見られますが、こうした異常値は不適切な測定状況にあった可能性が高いと思います。具体的には首掛け式のバッジをつけたままレントゲン撮影をしたりするケースが二本松市の測定結果PDF には詳細に記されています。こうした内容を見る限り、個人の年間被曝線量は殆どが 1 m Sv 以下、多くて数 m Sv でしょう。

セシウムの体内分布

体内に取り込まれたセシウムは全身に分布し、特に筋肉細胞中に移動します。(脂肪細胞にはあまり含まれません。)ベラルーシ・Gomel州で10歳までに死亡した52例の子供の臓器におけるセシウム137の蓄積量平均値が発表されています[1]。大人と子供を比較すると、子供の蓄積量は心筋と甲状腺において大人の3倍、他の臓器ではおおよそ2倍になります。

成長が早い子供のほうが大人よりも多く取り込み、内部被ばくも大きくなることが示唆されますが、同時に子供はセシウムの排出も早い可能性があります[2]。これはセシウムの挙動がカリウムに同じことからも推測されます。(子供のほうが循環が早いと考えてください。)

臓器 Bq/kg
甲状腺 2054 ± 288
副腎 1576 ± 290
膵臓 1359 ± 350
胸腺 930 ± 278
骨格筋 902 ± 234
小腸 880 ± 140
大腸 758 ± 182
腎臓  645 ± 135
脾臓 608 ± 109
心臓 478 ± 106
肺臓 429 ± 83
385 ± 72
肝臓 347 ± 61

「おしっこからセシウム」と膀胱がん

福島市内の子供10人の尿から、1リットルあたりおよそ 1 ベクレルのセシウムが検出されたことが大きく報道されました。 1リットルの尿には 30mEq/L (およそ 1g/L) のカリウムが含まれています。つまり、天然のカリウム40による放射線量が少なくとも 30 ベクレルあります(自然放射線の項参照)。 放射性セシウムによる体への影響は放射性カリウム40より大きいのですが、おしっこから出たセシウムによるベクレル数は、天然のカリウムによるベクレル数と比較しても 1 桁以上小さい量である点は認識しておくべきだと思います。

セシウムを摂取した時点は非常に高濃度で、次第に排出量が減って 1 Bq/L になったという考え方もできます。しかし、同じ10人の子供の追跡調査によると9人は県外に引っ越し、県内にとどまった1人は 1 Bq/L 程度の検出値が続いているそうです。この検出量から逆算される生涯換算の実効線量はおおよそ 20 μSv なので 1 年間同じ生活をし続けた場合の影響は

365 x 20 = 7.3 mSv

となります。だいたいCTスキャン1回分と考えてください。CTスキャンを受ける人は世界中に多くいますが、発ガン率が上がったという話を聞いたことはありません。

膀胱がんとセシウム

東大の児玉龍彦教授が「子どもと妊婦を守るため」の除染を国会答弁で訴えて有名になりましたが、その中で「セシウムは尿管上皮、膀胱に集まる」と発言している点は、(カリウム同様に)尿中のセシウム濃度が高まるからと思われます(蓄積するわけではありません)。カリウムは体内の濃度を一定に保つために過剰摂取された分が尿中に排出されます。このとき、セシウムをカリウムと同様に排出します。血液中濃度のおおよそ10倍が尿に含まれます。つまり、カリウムを多く摂取することで体内のセシウムを効率よく排出することができるはずです。

児玉教授は疫学的調査結果が出るまで待つのでは不十分、および「チェルノブイリ膀胱炎」を低線量被曝の例としてあげていますが、放射線医学総合研究所がその見解に対して苦言を呈しています。

「チェルノブイリ事故では小児甲状腺癌以外の放射線被ばくによる健康影響のエビデンスはないと結論付けられており、これが現在の世界的なコンセンサスである。」(放射線医学総合研究所が2011年9月27日に公表した見解 PDF)


参考文献
  1. さきやまひさこ「放射性セシウム汚染と子どもの被ばく」岩波科学 7月号0695-0698, 2011年; TA IInuma et al. Health Phys 20, 11 (1971)
  2. 原子力百科事典 人体中の放射能 (09-01-01-07)
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