Doc:Radiation/Clay Minerals
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文責: 有田正規 (東大・理・生物化学) 質問、コメント、誤り指摘、リクエスト等は arita@bi.s.u-tokyo.ac.jpまで
まだ調査中ではありますが、今後重要になる土壌の浄化に役立つ情報を記していきます。
セシウム吸着の程度は土壌によって異なる
- まとめ
- 雲母を含む花崗岩質の土壌では、雲母の末端破壊部 (FES: frayed-edge sites) が極めて強固にセシウムを吸着する
- バーミキュライトなどのスメクタイト粘土を含む土壌では、ケイ酸塩の層間にセシウムが強固に吸着される
- 粘土鉱物を含まない土壌(泥炭土など)は、セシウムを固定しにくい(植物がセシウムを吸収しやすい)
土壌におけるセシウム固定には、粘土鉱物 (clay minerals) と呼ばれる成分が大きな役割を果たします。粘土鉱物は金属イオンとケイ酸が連結したシート(二次元)からなる構造を特徴とし、層状ケイ酸塩 (phyllosilicate) とも呼ばれます[1]。具体的には、珪素 (Si) とアルミニウム (Al) が四面体をとる層と八面体を取る層の繰り返しからなり、四面体層:八面体層比が 1:1 の粘土(カオリナイト)と、2:1 の粘土(イライト、スメクタイト)に分けられます。
最近話題に上がるゼオライト(沸石)というのは多孔質のアルミノケイ酸塩で、構造が三次元です。つまり粘土というより(石英などに同じ)石の部類になります。
総称 | 代表的名称 | 性質 | 層比 | X線回折のピーク |
---|---|---|---|---|
カオリナイト (kaolinite) | カオリナイト (kaolinate)、ディッカイト (dickite) など | 様々な構造をとりうる | 1:1 | 0.7 nm |
スメクタイト (smectite) | バーミキュライト (vermiculite) 、滑石 (talc) など | 膨張性の場合とそうでない場合がある | 2:1 | 1.4 nm[2] |
イライト (illite) | 雲母 (mica) | カリウムなど金属イオンを強固に吸着。とりわけセシウムを吸着[3] | 2:1 | 1.0 nm |
クロライト (chlorite) | 様々 | 粘土鉱物に入れない場合もある、雑多なグループ | -- | 1.4 nm |
日本には火山性の酸性土壌が多く、花崗岩などの雲母(イライト)がスメクタイトを経由してカオリナイトに風化します。こうしたスメクタイトは負に大きく帯電しており、濃度依存的に金属イオンを吸着します。ここにセシウムが固定されます[4]。 これに対しチェルノブイリ事故があったウクライナの土壌は、スメクタイト成分でも電荷を持たない特徴があり、セシウムをあまり吸着しません。またタイの土壌はスメクタイトが少なくカオリナイトが非常に多いという特徴を持ちます[4]。ただしウクライナの土壌でも、雲母が土壌に含まれるとセシウムを極めて強固に固定します。雲母の末端破壊部 (FES: frayed-edge sites) に堅く結びついたセシウムはスメクタイトに固定された場合よりも溶出しにくくなります。
スウェーデンなどにおける粘土鉱物を含まない泥炭質 (peat) の土壌では、植物におけるセシウム吸収が時間とともに減少し難いことが観測されています。こうした土壌 (peat) にゼオライトを混ぜるとセシウムを吸着して植物による吸収を抑えられます[5]。
福島の土壌にゼオライトは効かない
福島県の代表的土壌は、花崗岩質、灰色低地および黒ボクです。(自分の住む地域の土壌を知りたい方は、農業環境技術研究所の土壌情報閲覧システムで調べることができます。おおまかな様子はジオテック株式会社の福島県の地形・地盤にも記述があります。) このうち花崗岩質土壌と灰色低地土は鉱質でセシウムを吸着しやすく、とりわけ雲母 (mica) に吸着したセシウムはほとんど溶出しません。その吸着度合いはゼオライトよりも強固なため、ゼオライトを混入させるよりも雲母と結合させるほうが植物による吸収を妨げるのに適しています[3]。
こうした土壌にゼオライトを土壌改良剤として入れても (0-50 g/kg)、ゼオライトに固定されたセシウムは雲母により固定されたものより塩化アンモニア等で溶出しやすくなり、土壌に固定する目的を果たさないことが報告されています[6]。
- 参考文献
- ↑ ウィキペディア英語版 Clay minerals
- ↑ バーミキュライト以外が主体だとグリセロール添加で 1.5-1.8 nm に広がる。高い電荷を持つ場合、カリウム過剰にすると 1.0 nm に移動する。低い電荷の場合はカリウムを加えても移動しない。
- ↑ 3.0 3.1 Komarneni S, Roy R "A cesium-selective ion sieve made by topotactic leaching of phlogopite mica" Science 239(4845), 1286-128 PMID 17833215
- ↑ 4.0 4.1 舟川晋也 "Removal of 137Cs from ecosystems using phytoremediation in former Soviet Union" 2001-2002年度科学研究費補助金(基盤研究(B)(2))研究成果報告書 (英語全文)
- ↑ Shenber MA, Johanson KJ "Influence of zeolite on the availability of radiocaesium in soil to plants" Science of The Total Environment 113(3), 287-295 PMID 1325669
- ↑ Seaman JC, Meehan T, Bertsch PM "Immobilization of Cesium-137 and Uranium in Contaminated Sediments Using Soil Amendments" J Environ Quality 30(4) 1206-1213 (PDF)