Doc:Radiation/Clay Minerals

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m (福島の土壌にゼオライトは効かない)
(福島の土壌にゼオライトは効きそうにない)
 
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まだ調査中ではありますが、今後重要になる土壌の浄化に役立つ情報を記していきます。
 
まだ調査中ではありますが、今後重要になる土壌の浄化に役立つ情報を記していきます。
  
===セシウム吸着の程度は土壌によって異なる===
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==土は有機物と無機物からできている==
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土には岩石由来の無機物(大きく分けて砂と粘土)と、生物由来の有機物が含まれます。植物は根によってミネラル等の栄養素を無機物からも有機物からも吸収します。例えば種々の金属イオンに加え、有機酸、アミノ酸、糖などを根から吸収します。
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植物を用いて土壌中の重金属等を選択的に蓄積、除去する手法をファイトレメディエーションといいます。セシウムは植物にとって不要の元素ですが、カリウムと誤って取り込まれることが知られています。しかし、カリウムが十分にある状態ではセシウムを吸収しにくくなることも知られています([[Doc:Radiation/Phytoremediation|ファイトレメディエーションの項]]を参照)。
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土壌がセシウムを強固に吸着するとファイトレメディエーションを難しくしますが、逆に農作物にもセシウムが含まれにくくなります。土壌の性質をよく理解することは汚染地域の浄化や農業においてたいへん重要です。
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==セシウム吸着の程度は土壌によって異なる==
 
;まとめ
 
;まとめ
* 雲母を含む花崗岩質の土壌では、雲母の末端破壊部 (FES: frayed-edge sites) が極めて強固にセシウムを吸着する
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* 雲母類を含む土壌では、雲母の末端破壊部 (FES: frayed-edge sites) が極めて強固にセシウムを吸着する
* バーミキュライトなどのスメクタイト粘土を含む土壌では、ケイ酸塩の層間にセシウムが強固に吸着される
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* バーミキュライトやスメクタイト(いずれも膨張性の2:1型層状ケイ酸塩鉱物)を含む土壌では、層と層の間にある負電荷にセシウムが強固に吸着される
* 粘土鉱物を含まない土壌(泥炭土など)は、セシウムを固定しにくい(植物がセシウムを吸収しやすい)
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* 粘土鉱物を含まない土壌(砂地、泥炭土など)は、セシウムを固定しにくい(植物がセシウムを吸収しやすい)
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* 日本の土壌はセシウムを固定しやすい
  
 
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土壌におけるセシウム固定には、粘土鉱物 (clay minerals) と呼ばれる成分が大きな役割を果たします。粘土鉱物は金属イオンとケイ酸が連結したシート(二次元)からなる構造を特徴とし、層状ケイ酸塩 (phyllosilicate) とも呼ばれます<ref>ウィキペディア英語版 [http://en.wikipedia.org/wiki/Clay_minerals Clay minerals]</ref>。具体的には、珪素 (Si) とアルミニウム (Al) が四面体をとる層と八面体を取る層の繰り返しからなり、四面体層:八面体層比が 1:1 の粘土(カオリナイト)と、2:1 の粘土(イライト、スメクタイト)に分けられます。
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土壌におけるセシウム固定には、粘土鉱物 (clay minerals) と呼ばれる成分が大きな役割を果たします。粘土鉱物は金属イオンとケイ酸が連結したシート(二次元)からなる構造を特徴とし、層状ケイ酸塩 (phyllosilicate) とも呼ばれます<ref>ウィキペディア英語版 [http://en.wikipedia.org/wiki/Clay_minerals Clay minerals]</ref>。具体的には、珪素 (Si) とアルミニウム (Al) が四面体をとる層と八面体を取る層の繰り返しからなり、四面体層:八面体層比が 1:1 の粘土(カオリナイトなど)と、2:1 の粘土(イライト、スメクタイトなど)に分けられます。
  
 
最近話題に上がるゼオライト(沸石)というのは多孔質のアルミノケイ酸塩で、構造が三次元です。つまり粘土というより(石英などに同じ)石の部類になります。
 
最近話題に上がるゼオライト(沸石)というのは多孔質のアルミノケイ酸塩で、構造が三次元です。つまり粘土というより(石英などに同じ)石の部類になります。
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|+ 粘土鉱物の種類
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|+ 土壌における粘土鉱物の種類
 
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! 総称 || 代表的名称 || 性質 || 層比 || X線回折のピーク
 
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| カオリナイト (kaolinite)
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| 1:1型粘土鉱物
| カオリナイト (kaolinate)、ディッカイト (dickite) など
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| カオリナイト (kaolinite)、ディッカイト (dickite) など
| 様々な構造をとりうる
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| 様々な構造をとりうるが、層荷電を持たないためセシウムの吸着力は小さい
 
| 1:1
 
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| 0.7 nm
 
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| スメクタイト (smectite)
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| 雲母類
| バーミキュライト (vermiculite) 、滑石 (talc) など
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| 雲母 (mica) 、イライト (illite)
| 膨張性の場合とそうでない場合がある
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| 層の間にカリウムなど金属イオンを強固に吸着。末端破壊部(FES)は、とりわけセシウムを強固に吸着<ref name="komarneni">Komarneni S, Roy R "A cesium-selective ion sieve made by topotactic leaching of phlogopite mica" ''Science'' 239(4845), 1286-128 PMID 17833215</ref>
 
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| 1.4 nm<ref>バーミキュライト以外が主体だとグリセロール添加で 1.5-1.8 nm に広がる。高い電荷を持つ場合、カリウム過剰にすると 1.0 nm に移動する。低い電荷の場合はカリウムを加えても移動しない。</ref>
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| イライト (illite)
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| 膨張性の2:1型粘土鉱物
| 雲母 (mica)  
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| バーミキュライト (vermiculite) 、スメクタイト (smectite) など
| カリウムなど金属イオンを強固に吸着。とりわけセシウムを吸着<ref name="komarneni">Komarneni S, Roy R "A cesium-selective ion sieve made by topotactic leaching of phlogopite mica" ''Science'' 239(4845), 1286-128 PMID 17833215</ref>
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| 四面体層に由来する荷電が多いほどセシウムを強固に吸着
 
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| 1.4 nm<ref>バーミキュライト以外が主体だとグリセロール添加で 1.5-1.8 nm に広がる。高い電荷を持つ場合、カリウム過剰にすると 1.0 nm に移動する。低い電荷の場合はカリウムを加えても移動しない。</ref>
 
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| クロライト (chlorite)  
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| その他の2:1型粘土鉱物
| 様々
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| クロライト (chlorite)、滑石 (talc) など
| 粘土鉱物に入れない場合もある、雑多なグループ
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| 膨張性を持たない
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| 2:1
 
| 1.4 nm
 
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日本には火山性の酸性土壌が多く、花崗岩などの雲母(イライト)がスメクタイトを経由してカオリナイトに風化します。こうしたスメクタイトは負に大きく帯電しており、濃度依存的に金属イオンを吸着します。ここにセシウムが固定されます<ref name="funakawa">舟川晋也 "Removal of 137Cs from ecosystems using phytoremediation in former Soviet Union" 2001-2002年度科学研究費補助金(基盤研究(B)(2))研究成果報告書 ([http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/80161 英語全文])</ref>。
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日本の土壌環境では化学風化が進みやすいため、母岩(土壌のもととなる岩)に元々含まれる雲母(イライト)の一部が風化してバーミキュライトやスメクタイトに変化しています。こうしたスメクタイトなどの層間は負に大きく帯電しており、濃度依存的に金属イオンを吸着します<ref name="funakawa">舟川晋也 "Removal of 137Cs from ecosystems using phytoremediation in former Soviet Union" 2001-2002年度科学研究費補助金(基盤研究(B)(2))研究成果報告書 ([http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/80161 英語全文])</ref>。
これに対しチェルノブイリ事故があったウクライナの土壌は、スメクタイト成分でも電荷を持たない特徴があり、セシウムをあまり吸着しません。またタイの土壌はスメクタイトが少なくカオリナイトが非常に多いという特徴を持ちます<ref name="funakawa"/>。ただしウクライナの土壌でも、雲母が土壌に含まれるとセシウムを極めて強固に固定します。雲母の末端破壊部 (FES: frayed-edge sites) に堅く結びついたセシウムはスメクタイトに固定された場合よりも溶出しにくくなります。
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セシウムを固定する能力はスメクタイト土壌により異なります。日本のスメクタイト土壌は表面荷電が四面体層に由来し、セシウム吸着後に雲母型の構造を取って、他の陽イオンでは極めて置換されにくくなります。つまりセシウムを選択的に固定します。これに対して、チェルノブイリ事故があったウクライナのスメクタイト土壌は表面荷電が八面体層に由来すると推測され、セシウムに対して強い選択性を示さず、いったん吸着されたセシウムも他種の陽イオンによって置換されやすくなります<ref name="funakawa"/><ref>粘土鉱物の分類およびセシウムに対するスメクタイト成分の詳しい解説は、京都大学 大学院農学研究科 舟川晋也先生、環境科学技術研究所 環境動態研究部 中尾淳先生に丁寧に教えて戴きました。ありがとうございます。</ref>。ただし、ウクライナの土壌でも雲母が土壌に含まれる場合は、セシウムを極めて強固に固定します。(雲母の末端破壊部 (FES: frayed-edge sites) に堅く結びついたセシウムはスメクタイトに固定された場合よりも溶出しにくい。)また、日本の土壌であっても、層間に水酸化アルミニウムのポリマーが入りこむ場合は、セシウムを吸着する能力を失います<ref>Nakao A, Funakawa S, Kosaki T (2009) Hydroxy-Al polymers block the frayed edge sites of illitic minerals in acid soils: studies in southwestern Japan at various weathering stages ''European Journal of Soil Science'' 60, 127-138</ref>。
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スウェーデンなどにおける粘土鉱物を含まない泥炭質 (peat) の土壌では、植物におけるセシウム吸収が時間とともに減少し難いことが観測されています<ref name="shenber">Shenber MA, Johanson KJ "Influence of zeolite on the availability of radiocaesium in soil to plants" ''Science of The Total Environment'' 113(3), 287-295 PMID 1325669</ref>。これはセシウムが土壌に吸着されず、いつまでも植物体が利用しやすい形で残っているためと思われます。
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==セシウムを選択的に吸着する能力が重要==
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セシウムの吸着材としてゼオライトが注目されていますが、ゼオライトは様々な金属イオンを吸着する能力を持ちます。汚染土壌といってもカルシウム、カリウム、アンモニア、マグネシウムなどの金属はセシウムよりも高濃度に存在するため、この中からセシウムを選択的に吸着する能力に注目しなくてはなりません。スウェーデンの土壌(泥炭質)にゼオライトを混ぜた場合、もともと金属イオンを吸着する成分が無いところに吸着材を導入するために、植物によるセシウム吸収を抑えられます<ref name="shenber"/>。
  
スウェーデンなどにおける粘土鉱物を含まない泥炭質 (peat) の土壌では、植物におけるセシウム吸収が時間とともに減少し難いことが観測されています。こうした土壌 (peat) にゼオライトを混ぜるとセシウムを吸着して植物による吸収を抑えられます<ref>Shenber MA, Johanson KJ "Influence of zeolite on the availability of radiocaesium in soil to plants" ''Science of The Total Environment'' 113(3), 287-295 PMID 1325669</ref>
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しかし日本の土壌のようにセシウムを強固に吸着する素地がある場合、様々な金属イオンを吸着できるゼオライトをわざわざ購入して追加するメリットについては検討が必要です。ゼオライト(例えばクリノプチロライト)を有効量使うにはヘクタールあたりトン単位で投入しなくてはなりません<ref>おそらくヘクタールあたり数十万円以上かかります。これまでゼオライトのセシウム吸着能が大きく報道されていますが、殆どがセシウムが主成分となる水溶液にゼオライトを大量にいれるなど、現実的ではない実験条件下での値なので注意が必要です。</ref>。有効性が確かめられてから試すべきでしょう。
  
 
==福島の土壌にゼオライトは効きそうにない==
 
==福島の土壌にゼオライトは効きそうにない==
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このうち花崗岩質土壌と灰色低地土は鉱質でセシウムを吸着しやすく、とりわけ雲母 (mica) に吸着したセシウムはほとんど溶出しません。その吸着度合いはゼオライトよりも強固なため、ゼオライトを混入させるよりも雲母と結合させるほうが植物による吸収を妨げるのに適しています<ref name="komarneni"/>。
 
このうち花崗岩質土壌と灰色低地土は鉱質でセシウムを吸着しやすく、とりわけ雲母 (mica) に吸着したセシウムはほとんど溶出しません。その吸着度合いはゼオライトよりも強固なため、ゼオライトを混入させるよりも雲母と結合させるほうが植物による吸収を妨げるのに適しています<ref name="komarneni"/>。
  
こうした土壌にゼオライトを土壌改良剤として入れても (0-50 g/kg)、ゼオライトに固定されたセシウムは雲母により固定されたものより塩化アンモニア等で溶出しやすくなり、土壌に固定する目的を果たさないことが報告されています<ref>Seaman JC, Meehan T, Bertsch PM "Immobilization of Cesium-137 and Uranium in Contaminated Sediments Using Soil Amendments" ''J Environ Quality'' 30(4) 1206-1213 ([https://www.agronomy.org/publications/jeq/articles/30/4/1206 PDF])</ref>。
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こうした土壌にゼオライトを土壌改良剤として入れても (0-50 g/kg)、ゼオライトに固定されたセシウムは塩化アンモニウム等で溶出しやすくなります。もともと土壌に含まれる雲母により固定してもらうほうが、セシウムを固定する目的にかなうことが報告されています<ref>Seaman JC, Meehan T, Bertsch PM "Immobilization of Cesium-137 and Uranium in Contaminated Sediments Using Soil Amendments" ''J Environ Quality'' 30(4) 1206-1213 ([https://www.agronomy.org/publications/jeq/articles/30/4/1206 PDF])</ref>。
  
 
;参考文献
 
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Latest revision as of 19:09, 28 July 2011

もくじ 基礎知識 自然放射線 人体への影響 胎児と子供 ファイトレメディエーション 土壌汚染 移行係数 食品汚染 家畜汚染 Q&A とリンク

文責: 有田正規 (東大・理・生物化学)   質問、コメント、誤り指摘、リクエスト等は arita@bi.s.u-tokyo.ac.jpまで


Contents


まだ調査中ではありますが、今後重要になる土壌の浄化に役立つ情報を記していきます。

[edit] 土は有機物と無機物からできている

土には岩石由来の無機物(大きく分けて砂と粘土)と、生物由来の有機物が含まれます。植物は根によってミネラル等の栄養素を無機物からも有機物からも吸収します。例えば種々の金属イオンに加え、有機酸、アミノ酸、糖などを根から吸収します。

植物を用いて土壌中の重金属等を選択的に蓄積、除去する手法をファイトレメディエーションといいます。セシウムは植物にとって不要の元素ですが、カリウムと誤って取り込まれることが知られています。しかし、カリウムが十分にある状態ではセシウムを吸収しにくくなることも知られています(ファイトレメディエーションの項を参照)。 土壌がセシウムを強固に吸着するとファイトレメディエーションを難しくしますが、逆に農作物にもセシウムが含まれにくくなります。土壌の性質をよく理解することは汚染地域の浄化や農業においてたいへん重要です。

[edit] セシウム吸着の程度は土壌によって異なる

まとめ
  • 雲母類を含む土壌では、雲母の末端破壊部 (FES: frayed-edge sites) が極めて強固にセシウムを吸着する
  • バーミキュライトやスメクタイト(いずれも膨張性の2:1型層状ケイ酸塩鉱物)を含む土壌では、層と層の間にある負電荷にセシウムが強固に吸着される
  • 粘土鉱物を含まない土壌(砂地、泥炭土など)は、セシウムを固定しにくい(植物がセシウムを吸収しやすい)
  • 日本の土壌はセシウムを固定しやすい


土壌におけるセシウム固定には、粘土鉱物 (clay minerals) と呼ばれる成分が大きな役割を果たします。粘土鉱物は金属イオンとケイ酸が連結したシート(二次元)からなる構造を特徴とし、層状ケイ酸塩 (phyllosilicate) とも呼ばれます[1]。具体的には、珪素 (Si) とアルミニウム (Al) が四面体をとる層と八面体を取る層の繰り返しからなり、四面体層:八面体層比が 1:1 の粘土(カオリナイトなど)と、2:1 の粘土(イライト、スメクタイトなど)に分けられます。

最近話題に上がるゼオライト(沸石)というのは多孔質のアルミノケイ酸塩で、構造が三次元です。つまり粘土というより(石英などに同じ)石の部類になります。

土壌における粘土鉱物の種類
総称 代表的名称 性質 層比 X線回折のピーク
1:1型粘土鉱物 カオリナイト (kaolinite)、ディッカイト (dickite) など 様々な構造をとりうるが、層荷電を持たないためセシウムの吸着力は小さい 1:1 0.7 nm
雲母類 雲母 (mica) 、イライト (illite) 層の間にカリウムなど金属イオンを強固に吸着。末端破壊部(FES)は、とりわけセシウムを強固に吸着[2] 2:1 1.0 nm
膨張性の2:1型粘土鉱物 バーミキュライト (vermiculite) 、スメクタイト (smectite) など 四面体層に由来する荷電が多いほどセシウムを強固に吸着 2:1 1.4 nm[3]
その他の2:1型粘土鉱物 クロライト (chlorite)、滑石 (talc) など 膨張性を持たない 2:1 1.4 nm

日本の土壌環境では化学風化が進みやすいため、母岩(土壌のもととなる岩)に元々含まれる雲母(イライト)の一部が風化してバーミキュライトやスメクタイトに変化しています。こうしたスメクタイトなどの層間は負に大きく帯電しており、濃度依存的に金属イオンを吸着します[4]

セシウムを固定する能力はスメクタイト土壌により異なります。日本のスメクタイト土壌は表面荷電が四面体層に由来し、セシウム吸着後に雲母型の構造を取って、他の陽イオンでは極めて置換されにくくなります。つまりセシウムを選択的に固定します。これに対して、チェルノブイリ事故があったウクライナのスメクタイト土壌は表面荷電が八面体層に由来すると推測され、セシウムに対して強い選択性を示さず、いったん吸着されたセシウムも他種の陽イオンによって置換されやすくなります[4][5]。ただし、ウクライナの土壌でも雲母が土壌に含まれる場合は、セシウムを極めて強固に固定します。(雲母の末端破壊部 (FES: frayed-edge sites) に堅く結びついたセシウムはスメクタイトに固定された場合よりも溶出しにくい。)また、日本の土壌であっても、層間に水酸化アルミニウムのポリマーが入りこむ場合は、セシウムを吸着する能力を失います[6]

スウェーデンなどにおける粘土鉱物を含まない泥炭質 (peat) の土壌では、植物におけるセシウム吸収が時間とともに減少し難いことが観測されています[7]。これはセシウムが土壌に吸着されず、いつまでも植物体が利用しやすい形で残っているためと思われます。

[edit] セシウムを選択的に吸着する能力が重要

セシウムの吸着材としてゼオライトが注目されていますが、ゼオライトは様々な金属イオンを吸着する能力を持ちます。汚染土壌といってもカルシウム、カリウム、アンモニア、マグネシウムなどの金属はセシウムよりも高濃度に存在するため、この中からセシウムを選択的に吸着する能力に注目しなくてはなりません。スウェーデンの土壌(泥炭質)にゼオライトを混ぜた場合、もともと金属イオンを吸着する成分が無いところに吸着材を導入するために、植物によるセシウム吸収を抑えられます[7]

しかし日本の土壌のようにセシウムを強固に吸着する素地がある場合、様々な金属イオンを吸着できるゼオライトをわざわざ購入して追加するメリットについては検討が必要です。ゼオライト(例えばクリノプチロライト)を有効量使うにはヘクタールあたりトン単位で投入しなくてはなりません[8]。有効性が確かめられてから試すべきでしょう。

[edit] 福島の土壌にゼオライトは効きそうにない

福島県の代表的土壌は、花崗岩質、灰色低地および黒ボクです。(自分の住む地域の土壌を知りたい方は、農業環境技術研究所の土壌情報閲覧システムで調べることができます。おおまかな様子はジオテック株式会社の福島県の地形・地盤にも記述があります。) このうち花崗岩質土壌と灰色低地土は鉱質でセシウムを吸着しやすく、とりわけ雲母 (mica) に吸着したセシウムはほとんど溶出しません。その吸着度合いはゼオライトよりも強固なため、ゼオライトを混入させるよりも雲母と結合させるほうが植物による吸収を妨げるのに適しています[2]

こうした土壌にゼオライトを土壌改良剤として入れても (0-50 g/kg)、ゼオライトに固定されたセシウムは塩化アンモニウム等で溶出しやすくなります。もともと土壌に含まれる雲母により固定してもらうほうが、セシウムを固定する目的にかなうことが報告されています[9]

参考文献
  1. ウィキペディア英語版 Clay minerals
  2. 2.0 2.1 Komarneni S, Roy R "A cesium-selective ion sieve made by topotactic leaching of phlogopite mica" Science 239(4845), 1286-128 PMID 17833215
  3. バーミキュライト以外が主体だとグリセロール添加で 1.5-1.8 nm に広がる。高い電荷を持つ場合、カリウム過剰にすると 1.0 nm に移動する。低い電荷の場合はカリウムを加えても移動しない。
  4. 4.0 4.1 舟川晋也 "Removal of 137Cs from ecosystems using phytoremediation in former Soviet Union" 2001-2002年度科学研究費補助金(基盤研究(B)(2))研究成果報告書 (英語全文)
  5. 粘土鉱物の分類およびセシウムに対するスメクタイト成分の詳しい解説は、京都大学 大学院農学研究科 舟川晋也先生、環境科学技術研究所 環境動態研究部 中尾淳先生に丁寧に教えて戴きました。ありがとうございます。
  6. Nakao A, Funakawa S, Kosaki T (2009) Hydroxy-Al polymers block the frayed edge sites of illitic minerals in acid soils: studies in southwestern Japan at various weathering stages European Journal of Soil Science 60, 127-138
  7. 7.0 7.1 Shenber MA, Johanson KJ "Influence of zeolite on the availability of radiocaesium in soil to plants" Science of The Total Environment 113(3), 287-295 PMID 1325669
  8. おそらくヘクタールあたり数十万円以上かかります。これまでゼオライトのセシウム吸着能が大きく報道されていますが、殆どがセシウムが主成分となる水溶液にゼオライトを大量にいれるなど、現実的ではない実験条件下での値なので注意が必要です。
  9. Seaman JC, Meehan T, Bertsch PM "Immobilization of Cesium-137 and Uranium in Contaminated Sediments Using Soil Amendments" J Environ Quality 30(4) 1206-1213 (PDF)
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