Doc:Radiation/Agriculture
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* 葉菜でないもの(イモ、タマネギ、キュウリ、トマト、ナス、ピーマン、ニンジン、ダイコン、ウリ等)は問題なし。ただし、サツマイモ、ダイズは避ける。ジャガイモは変動幅が大きく、判断が難しい。 | * 葉菜でないもの(イモ、タマネギ、キュウリ、トマト、ナス、ピーマン、ニンジン、ダイコン、ウリ等)は問題なし。ただし、サツマイモ、ダイズは避ける。ジャガイモは変動幅が大きく、判断が難しい。 | ||
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二つの表で値が大きく異なる野菜がありますが、上が内田らが国内で測定した値、下が海外の文献も含めて様々な値を集積したデータベースから総合的に判断した値です。 | 二つの表で値が大きく異なる野菜がありますが、上が内田らが国内で測定した値、下が海外の文献も含めて様々な値を集積したデータベースから総合的に判断した値です。 | ||
Revision as of 10:30, 25 May 2011
もくじ | 基礎知識 | 自然放射線 | 人体への影響 | 胎児と子供 | ファイトレメディエーション | 土壌汚染 | 移行係数 | 食品汚染 | 家畜汚染 | Q&A とリンク |
文責: 有田正規 (東大・理・生物化学) 質問、コメント、誤り指摘、リクエスト等は arita@bi.s.u-tokyo.ac.jpまで
Contents |
農作物の移行係数
農業に携わる人にとって、露地栽培において何を作付けするかは重要な決断です。 4月12日に稲の作付制限基準が 5000 Bq(ベクレル) / kg土壌 となりましたが、この値がどうやって決まったのでしょう。また、他の野菜等に関してはどうなのでしょう。少しまとめてみました。土壌の汚染を防ぐ手段のページもご覧ください。
- 移行係数のまとめ
- セシウムの移行係数とは、農作物中のセシウム濃度 ÷ 土壌中のセシウム濃度
- 移行係数は土壌や農作物、測定条件によって大きく異なる
- 農水省による稲の作付制限である 5000 Bq / kg土壌 という値は、野菜の規制値 500 Bq / kg と稲の移行係数 0.1 から逆算
- 稲の移行係数 0.1 は玄米における見積の最大値 (白米の場合はもっと低い)
- 土が酸性だと移行係数は大きくなる (セシウム量が増えてしまう)
- 何を植えるべきか
- 施設栽培、ハウス栽培の場合は、セシウム汚染されにくいので問題なし (ハウス屋根等のセシウムが混入しないように注意。井戸水や水道水は利用して大丈夫)
- 穀物では、麦類を避けたほうがよい (米よりも移行係数が1桁大きい)
- 葉菜は比較的移行係数が高い
- カラシナは絶対に避ける (土壌より多い量を蓄積。その他もアカザ科、ヒユ科は避ける)
- セロリは大丈夫
- 葉菜でないもの(イモ、タマネギ、キュウリ、トマト、ナス、ピーマン、ニンジン、ダイコン、ウリ等)は問題なし。ただし、サツマイモ、ダイズは避ける。ジャガイモは変動幅が大きく、判断が難しい。
- イチゴ、メロン、りんごなどの果実は大丈夫
移行係数の表
農作物中に蓄積される元素の濃度と、土壌に含まれる同じ元素の濃度比を移行係数 (transfer factor) といいます。
移行係数 = 農作物中の元素濃度 / 土壌中の元素濃度
とりわけ核実験により大気中から降下する放射性元素について多くの研究がなされてきました。 移行係数の値は、同じ元素であっても土壌や農作物、測定条件によって大きく異なります。 また農作物の重量が、乾物の場合と生の場合があるので気をつけなくてはなりません。
以下にいくつかの文献からあつめた移行係数を掲載します。また四月中旬には農水省から福島県における移行係数が発表される予定です。また古い文献ですが陸上植物葉の元素濃度一覧も参考にしてください。
- TFの95%信頼区間 (Nisbet & Woodman 2000 Soil-to-plant transfer factors for radiocaesium and strontium in agricultral systems Health Physics 78(3)279-288)
Recommended value というのが可食部におけるTFの推定値になります。 アブラナ科(Brassicas)や葉菜(Green vegetables)は、どの土壌においても比較的セシウムの吸収量が多いことがわかります。
- 日本土壌肥料学会のホームページで解説されるセシウムの移行係数
このデータによると米、麦の移行係数の平均値は低く、農水省が定めた0.1を大幅に下回ります。麦類は逆に移行係数の最大値が0.13です。ここでも葉菜のセシウム吸収量が多いという傾向がみられます。実は葉菜の多くはアブラナ科なので、上のデータとも一致します。
- 財団法人原子力環境整備センター RWMC-88-P-11 「土壌から農作物への放射性物質の移行係数」 1988年 PDF全文
古いデータであまり役立たないかもしれませんが、土壌のpHと移行係数の関係がはっきりわかります。
- 安全研究センター 原子力エネルギー関連施設安全評価研究ユニット 「生物圏評価のための土壌から農作物への移行係数に関するデータベース」 2009年 PDF全文
以下は、放射線医学研究所の内田らが平成14-18年度にかけて日本全国の土壌、農作物を対象として算出した移行係数と、2009年に安全評価研究ユニットがIAEAなど国際機関が発表するデータもあわせて総合判断したデータ(果実は放医研のデータ無し)です。日本の土壌に基づいた内田データが実情にあっていると思われますが、サンプル数は後者のほうが多いので一長一短といえます。
葉菜のデータです。カラシナのセシウム吸収量が圧倒的に多いところに注意してください。 二つの表で値が大きく異なる野菜がありますが、上が内田らが国内で測定した値、下が海外の文献も含めて様々な値を集積したデータベースから総合的に判断した値です。
実菜や果実のデータです。果実については、内田らが国内で測定した値がありません。また大豆やサツマイモ、ジャガイモは大きく値が変化していることも読み取れます。果樹は軒並みセシウムの吸収量が少ないこともわかります。
- 放射線科学 2008 Vol.51 那珂湊支所研究成果報告会 「水、土壌、農作物と放射能」内田滋夫 [PDF全文
一番上にある部分がセシウムの移行係数です。キャベツ白菜ホウレンソウが多く、ニンジン大根カブが少なくなっています。
海産物の移行係数
魚についても移行係数の概念は有効ですが、農作物に比較すると心配する必要はなさそうです。
- まとめ
- 一般に、魚はセシウムを蓄積しにくい (生物学的半減期は約50日、人間に比較して半分以下)
- 海水に比較するとセシウムは16∼176倍に濃縮されるが[1]、ベクレルでいうとマアナゴの0.04からスズキの0.67Bq/kg 程度(魚を 1kg 食べても1ベクレルに満たない、極めて低い値)
- エビ、カニ類やイカなどは魚よりも濃縮度が低い
- 近海に放射性セシウムが沈殿する場合、影響は長引く
- 近海の海底に住む魚や、貝類、ウニなどは注意が必要
福島・茨城県近海、特に海底に堆積する放射線検査が必要
4月9日に 570 Bq/kg のコウナゴが獲れてニュースになりましたが、これは濃度の高い排水中を泳いだ影響と考えられ、上記の生物学的半減期を考慮するとコウナゴも1ヶ月経てば基準値以下になります。野菜に比べると魚介類の汚染はずっと低いと考えられていました。
しかし4月14日の報道で、基準値の25倍のセシウムを含むコウナゴが獲れたことが発表されました。これは大きな値だと思います。 25倍のセシウムが生物学的半減期にしたがって基準値以下になるまでに、今後セシウムの摂取が無いとしても、8ヶ月程度かかります。またこうしたコウナゴ等を摂食する大型魚においてセシウムの基準値を超えるケースが今後出てくると思われます。
微粒子状のセシウムであれば、海底に堆積している可能性が考えられます。ウニやアワビは海底にいるため、海中の魚とは異なる被曝を受けるでしょう。チェルノブイリ事故でも排水先の湖底における魚は多くの被曝を受けました(以下に記述)。今後の風評被害を防ぐためにも、海底の放射線検査を優先し、その後にウニやアワビの出荷を検討すべきだと思います。
- まとめ
- 福島・茨城県近海の海産物について数年は放射線検査を徹底する必要がある。
- どの海底に放射性セシウムが沈殿しているか、検査を徹底する必要がある。
長期的にみれば海中の魚は安全
海中にはセシウム以外の核種も存在します。放射線科学 2008 Vol.51 那珂湊支所研究成果報告会の資料のデータによると([PDF全文])、魚類の放射線の多くは「亜鉛-65」に加えて、「鉄-55、-59」「カドミウム-113m、-115m」です。これらが内臓やえらに蓄積します。(セシウムはカリウムと挙動が同じで全身にいきわたる。)ただし、放射性の亜鉛、鉄、カドミウム等の生態に及ぼす影響はセシウム等よりもずっと小さいので、セシウムやストロンチウムに比較すると問題はほとんどないと結論できます。 |
チェルノブイリ事故の場合
チェルノブイリ原発の場合は、原子炉冷却のために隣接する湖に 6.5 ± 2.7 × 1015 Bq(ベクレル)の放射性廃棄物が継続的に排出されました。(量の大きさについては海水汚染の項を参照。)
藻類やプランクトンの汚染は主にヨウ素により、事故後10日程度をピークに減少しました。魚類の汚染は主にセシウムによります。草食の魚(carp, goldfish, bleak)における放射線内部被曝量は事故と同年(1986)に 3 mGy/day のピークに達し、翌年以降は大きく減少しました。肉食の魚(perch)における放射線内部被曝量は1988に入るまで増加し続けました。湖底に住む魚(goldfish, silver bream, bream, carp)は堆積物から計10 Gyもの被曝をうけたと考えられます[2]。
今回、福島・茨城県近海の海底が同様の汚染を受けていないかどうか、調査する必要があります。 |
- 参考文献