Tochimoto:Asiasari Radix
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出典: 栃本天海堂創立60周年記念誌 |
細辛 (Asiasari Radix)
細辛はウマノスズクサ科のウスバサイシン Asiasarum sieboldii F. Maekawa またはケイリンサイシンAsiasarum heterotropoides F. Maekawa var. mandshuricum F. Maekawa の根および根茎を基原とする。根が細く、味が辛いことから細辛と呼ばれている。 野生品が主流であったが、近年栽培が普及し、現在の市場ではほとんどが栽培品である。本品は散寒解表・温肺化飲・祛風止痛薬として、冷えによる咳嗽、身体痛、頭痛などを目標にして、小青竜湯、当帰四逆湯、麻黄附子細辛湯などに配合されている。中国では地上部をつけた全草で流通するが、地上部は腎障害を引き起こすことが疑われているアリストロキア酸を含有するため、輸出用の細辛は地上部が完全に取り除かれている。 (より詳しく見る→栃本天海堂創立60周年記念誌)
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細 辛
『日本薬局方 第15改正(JP15)』
- 細辛:ASIASARI RADIX
- ウスバサイシン Asiasarum sieboldii F. Maekawa またはケイリンサイシン Asiasarum heterotropoides F. Maekawa var. mandshuricum F. Maekawa (Aristolochiaceae)の根および根茎と規定されている。
『中華人民共和国薬典 2005年版』
- 細辛:RADIX ET RHIZOMA ASARI
- 北細辛 Asarum heterotropoides Fr. Schmidt var. mandshuricum (Maxim.) Kitag.、漢城細辛 Asarum sieboldii Miq. var. seoulense Nakai あるいは華細辛 Asarum sieboldii Miq.の根及び根茎と規定されている。中華人民共和国薬典2000年版では上記の基原植物の全草となっていたが、地上部に含まれるアリストロキア酸による腎障害が問題となり、根及び根茎に変更された。
『大韓薬典 第9改正』
- 세신 細辛:ASIASARI RADIX ET RHIZOMA
- 북세신(北細辛) Asiasarum heterotropoides F. Maekawa var. mandshuricum F. Maekawa 서울족도리풀 Asiasarum sieboldii Miquel var. seoulense Nakaiの根および根茎と規定されている。
市場流通品と現状
細辛は日局方第7改正(1961年)で収載され、収載当初から使用部位は根および根茎と規定されているが、中国国内の流通商品はすべて全草の細辛であったため、地上部を除去して日本に輸入されてきた。近年、中国も含有成分であるアリストロキア酸の副作用問題で中華人民共和国薬典2005年版から使用部位を根および根茎と変更しているが、長年の商慣習で中国国内では全草の流通が多い。
日本市場流通品は、中国産の遼細辛(北細辛&漢城細辛)の野生品と、栽培品が主流を占めている。以前は北朝鮮産細辛も一部流通していたが、日本政府の外交政策により輸入が止まり、現在、市場では見られない。中国産の野生品と栽培品との品質差はあまり見受けられず、水洗度合いの関係で、野生品は少し色調が濃い程度である。
生産加工状況
栽培
中国における細辛の栽培は、畑栽培と林間栽培があり、基本的な栽培方法は同じで播種から8・9年かかる。多くの生産者は、過去に薬用人参を栽培していた薬農家で、長期の栽培年月に抵抗感はなく、連作による厭地(イヤチ:連作障害のこと)も薬用人参ほど強くないので栽培意欲は高いといえる。
- 畑栽培
農家近くの農家所有の畑で日除けを用いて栽培。小規模栽培が多く、農薬使用の管理が難しい。
- 林間栽培
山林を適度に間伐した空き地で栽培する。通気性が良いため、ほとんど農薬を使用せず栽培できる。 生産規模は1~3トン/年と大きく、生産管理が容易であることから、当社の取り扱う細辛は林間栽培か野生品に限定している。
加工調製
- 掘り上げ・水洗・乾燥
理化学的品質評価
産地 | 検体数 | 灰分 10.0%以下 |
酸不溶性灰分 3.0%以下 |
乾燥減量 | 希エタノール エキス含量 |
精油含量 0.6ml/30.0g以上 |
---|---|---|---|---|---|---|
中国ALL | 46 | 5.7 ±2.1 | 2.3 ±1.8 | 14.1 ±1.6 | 15.9 ±2.8 | 1.04 ±0.22 |
中国・遼寧 | 36 | 5.5 ±1.9 | 2.1 ±1.6 | 14.1 ±1.6 | 16.6 ±2.4 | 1.05 ±0.21 |
中国・吉林 | 4 | 6.5 ±2.1 | 3.1 ±1.9 | 13.6 ±2.6 | 13.4 ±2.1 | 0.91 ±0.13 |
朝鮮自治区 | 6 | 6.0 ±0.9 | 1.8 ±0.5 | 14.7 ±0.9 | 15.7 ±2.1 | 1.52 ±0.18 |
北 朝 鮮 | 16 | 5.4 ±1.1 | 1.3 ±0.7 | 14.3 ±1.7 | 15.1 ±1.8 | 1.56 ±0.29 |
- 灰分
- 中国ALLと北朝鮮に有意差無し、中国内では遼寧と吉林に有意差無し
- 希エタノールエキス含量
- 中国ALLと北朝鮮に有意差無し、中国内では 遼寧省> 吉林省 ( p < 0.05 )
- 精油含量
- 北朝鮮 > 中国ALL( p < 0.05 )、中国内では遼寧省と吉林省に有意差無し
分類 | 検体数 | 灰分 10.0%以下 |
酸不溶性灰分 3.0%以下 |
乾燥減量 | 希エタノール エキス含量 |
精油含量 0.6ml/30.0g以上 |
---|---|---|---|---|---|---|
野生 | 9 | 5.5 ±1.0(19.2) | 1.8 ±0.6(34.2) | 14.3 ±1.5(10.8) | 17.8 ±2.9(16.5) | 1.05 ±0.14(12.9) |
栽培 | 9 | 4.8 ±0.6(12.4) | 1.3 ±0.3(26.8) | 15.2 ±1.0(6.3) | 17.4 ±2.2(12.4) | 1.06 ±0.10(9.9) |
- 灰分
- 野生品 > 栽培品 ( p < 0.1 )
- 希エタノールエキス含量 & 精油含量
- 野生品と栽培品に有意差無し
- CV
- 当然ではあるが、全ての試験項目において、栽培品のLOT差(バラツキ)が少ない
TLCによる成分比較
中国東北3省以外で産する中国産には、成分組成の異なる(基原の異なる)ものがあるので、注意を要する。
内部形態:鏡検
JP15:内部形態についての記載はない。
本品はほぼ円柱形の根茎に多くの細長い根を付けたものである。外面は淡褐色~暗褐色を呈する。根は長さ約15cm、径0.1㎝、浅い縦じわがあり、折れやすい。根茎は長さ2~4cm、径0.2~0.3cm、しばしば分枝し、縦じわがある。節間は短く、各節には葉柄や花柄のわずかに残基及び細長い根を数本ずつ付ける。 本品は特異なにおいがあり、味は辛く舌をやや麻ひする。 |
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中国遼寧省産
- 根にシュウ酸カルシウムの方晶が認められる。また、根の中央の維管束は3原型である。根茎の髄附近に石細胞が認められる。これらのことより、ケイリンサイシンに由来するものと思われる。
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北朝鮮産
- 同一個体内でも、根の維管束は、3~4(5)原型の形態で認められた。葉柄表皮の表面視で、非腺毛が認められることから、ウスゲサイシンの可能性がある。
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細辛の原植物について
① ・根茎中の石細胞(髄に近いところのみ) ・根の木部の形状(4原型)であれば、ウスゲサイシン A. heterotropoides F. Maekawa var. seoulense F. Maekawa ではないかと考えられる。 (葉の特徴……葉上下面に 300µm以上の非腺毛(7細胞)が認められる。 気孔指数が18(他者より大きい)。 外観:葉柄はまばらに毛で被われる。 [遼寧省東北部、(朝鮮)に産する])
・それ以外(皮層部に石細胞が認められる、石細胞が認められない)の場合
②-1
・根の木部の形状(主に3原型)
・根にシュウ酸カルシウムの結晶が認められる。
であれば、ケイリンサイシン A. heterotropoides F. Maekawa var. mandshuricum F. Maekawaではないかと考えられる。
(葉の特徴……葉上下面に 150µm未満の非腺毛(5細胞以下)が認められる。
上面の毛は脈上のみにわずかしか認められない。
外観:葉柄について記載無し。
[黒竜江省、吉林省、遼寧省に産する] )
②-2
・根にシュウ酸カルシウムの結晶が認められない。
・根茎中の石細胞(極めて少ない)
であれば、ウスバサイシンA. sieboldii F. Maekawaではないかと考えられる。
(葉の特徴……葉上面に150µm未満、葉下面に300µm未満の非腺毛が認められる。
外観:葉柄は光滑で無毛。
[山東省、安徽省、浙江省、江西省、河南省、湖北省、陝西省、四川省、(日本・朝鮮)に産する])
細辛 <中国遼寧省> の内部形態について
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上記の観察結果より、ケイリンサイシンに由来するものと考えられる。