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リスク比較という考え方

福島原発事故により日本中に撒き散らされた放射性物質は、数百年にわたって我々の生活に影響を与えます。放射線対策は数か月や数年の我慢ではなく、生涯、継続すべきものです。頑張って対策をしている人からは「そんなの無理」という声が聞こえてきそうです。放射線に関する様々な報道からは、とにかく“恐ろしい”、“避けるべき”ものに思われます。しかし実際のところ、不便な対策は継続できませんし、東京における放射線のリスクは他のリスクと比較して大きいともいえません。放射線をよりよく理解してもらうため、科学的な観点から説明したいと思います。

自然放射線量は地域によって大きく異なる

散らばったセシウムは食物連鎖に入り込むため、いくら気をつけても微量の摂取は避けられません。セシウムはカリウムと似た性質の元素です。植物や動物はカリウムと間違えて体内に取り込みます。カリウムは窒素・リン酸・カリと呼ばれる植物の三大栄養素の一つで、もともと1 g あたり30 ベクレルの放射線を出しています(ベクレルあたりのエネルギーはセシウムの半分)。年間約0.3 mSv [ミリシーベルト]ある、食品による放射線被ばくはカリウム由来です。今はそれにセシウムの放射線が加わったわけです。幸運なことにカリウムと同様、セシウムも排出されます。ですから東北産の食品だけを避けたり、水に晒してカリウムやセシウム量を減らす努力をしても見合った効果があるかは疑問です。食物連鎖を通じた汚染は全国的なものですし、カリウムの摂取が減れば体内に入ったセシウムの排出も遅れるからです。体内に入ったセシウムが半分排出されるまでの期間(生物学的半減期)は約3ヶ月と言われますが、人により±1ヶ月以上も異なります。これには食事や生活習慣が大きく影響します。バランス良い食事と運動を心がけて新陳代謝を促すことは、セシウムの排泄を促すことにつながります。 また、自然界にはカリウムだけでなくラドンなど様々な放射線源があります。日本の自然放射線は1 mSv程度と言われますが、関西は関東より1 mSv高くなります。世界平均は2.4 mSvと言われますが、家屋の気密性が高いフィンランドやスウェーデンでは、屋内ラドンのために年間 6~7 mSvも被ばくします。放射線量は国や地域で大きく異なります。

100-200 mSvの発がんリスクは運動不足や肥満より低く、野菜不足と同等

もう一つあまり知られていないのが、原爆被ばく者の追跡調査で100-200 mSvの放射線を瞬時に浴びた人の発がんリスクが、喫煙、大量飲酒 (アルコール450g/週)、やせ(BMI<19)、肥満(BMI>30)、運動不足(25-6METs/週)、高塩分食(干物43g/日)よりも低いという事実です[1]。詳しい資料は国立がんセンターのウェブサイトから得られます。100-200 mSvという値は発がんリスクを高めますが、野菜不足(110g/日)と同じレベルです。これを知ると、東京に住む人であれば、受動喫煙・運動不足・野菜不足のほうが喫緊の課題に思えてきます。精神的ストレスも健康に影響するでしょうから、ポジティブな思考で生活することも重要でしょう。

いま子供にとって重要なのは多品目からなる食事を心がけ、元気によく遊ぶことに思えます。11月上旬に、福島県郡山市の幼稚園児の体重増加率が昨年に比較して激減していることが報道されました。放射線による体重減少は考えにくいので、食事の変化・運動不足・精神的ストレス等が原因かもしれません。放射線は気になるでしょうが、むしろこうした二次的被害を引き起こさないように心がけるべきでしょう。

  1. 国立がんセンターの資料には発がんリスクとなっていますが、追跡調査の結果は 1 Sv 被曝すると 5% ガン死亡率が上昇するというデータです。放射線の影響がガン死亡率と正比例すると考えると、100 mSv の被曝で 0.5% 死亡率が上昇することになりますが、0.5% という値は小さいので統計的に明らかにできないのです。
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