PlantBiotech:Species/Lotus japonicus

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{{PlantBiotech/Header}}
ミヤコグサ形質転換マニュアル
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{| style="float:right"
2000年12月
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|__TOC__
農業生物資源研究所 生理機能部 窒素固定研究室
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|}
モデル植物としてのミヤコグサ(Lotus japonicus)は、マメ科植物における数少ないstableな形質転換系を提
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供するものです。Agrobacteriumを用いた基本的な形質転換法は1992年デンマークAarhus大学のグループ
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==ミヤコグサ形質転換マニュアル==
によって確立されましたが(Handberg and Stougaard, 1992)、その後、当時この研究室のメンバーであっ
+
 
たJiri Stillerらによって改訂されたプロトコルが提案され(Stiller et al., 1997)、またAarhusのグループも改訂
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* 出典:農業生物資源研究所 生理機能部 窒素固定研究室 (2002年12月)
された方法を発表しており(Thykjaer et al., 1998)、現在多くの研究室がこれらのプロトコルによっ
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* Doc URL:http://miya.bio.sci.osaka-u.ac.jp/manuals/pdfs/Transformation_NIR.pdf
て実験を行っています。
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  以下のミヤコグサ形質転換マニュアルは、Aarhus大学の研究室の最近のプロトコルと、その後のJiri
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Stillerらによる改訂プロトコルをもとにし、それぞれのグループから入手したいくつかの最近のノウハウ
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モデル植物としてのミヤコグサ[[Species:Lotus|''Lotus japonicus'' ]]は、マメ科植物における数少ないstableな形質転換系を提供するものです。Agrobacteriumを用いた基本的な形質転換法は 1992 年デンマークAarhus大学のグループによって確立されましたが<ref>Handberg, K. and Stougaard, J. (1992) Plant Jour.; 2(4): 487-496</ref>、その後、当時この研究室のメンバーであったJiri Stillerらによって改訂されたプロトコルが提案され<ref>Jiri Stiller et al. (1997) Jour. Exp. Bot.; 48(312): 1357-1365</ref>、またAarhusのグループも改訂された方法を発表しており<ref>Thykjaer, T. et al. (1998) In AgCell Biology: A laboratory handbook, 2nd Ed.Ah: 518-525, Academic Press</ref>、現在多くの研究室がこれらのプロトコルによって実験を行っています。
を付け加えて、現在私たちの研究室で行っている方法を整理したものです。大筋はJiri Stillerらによる改
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良法に準拠しています。
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以下のミヤコグサ形質転換マニュアルは、Aarhus大学の研究室の最近のプロトコルと、その後のJiri Stillerらによる改訂プロトコルをもとにし、それぞれのグループから入手したいくつかの最近のノウハウを付け加えて、現在私たちの研究室で行っている方法を整理したものです。大筋はJiri Stillerらによる改良法に準拠しています。
ミヤコグサ形質転換はその効率、安定性、必要時間などの点からみて、たとえばアラビドプシスやイ
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ミヤコグサ形質転換はその効率、安定性、必要時間などの点からみて、たとえばアラビドプシスやイネ等に匹敵するほどに容易であるとはいえません。特に再生効率や、方法の安定性 (再現性) 、再生個体を得るまでの時間等の面で、今後さらに改良が必要だと思います。また、比較的高頻度に培養変異が起こると思われることから、in-planta法の確立を含めて今後検討が行われるべきでしょう。
ネ等に匹敵するほどに容易であるとはいえません。特に再生効率や、方法の安定性(再現性)、再生個
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体を得るまでの時間等の面で、今後さらに改良が必要だと思います。また、比較的高頻度に培養変異が
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In vitroの培養を含む形質転換法は、材料となる植物の培養条件や、グロースキャビネットその他の様々な条件のわずかな違いによって微調整が必要で、それぞれの研究室で実際の条件に応じた最適化の工夫が必要だと思われます。しかし、以下のプロトコルが、これから形質転換実験を始めようとする方に、一応のスタンダードを提供するものとなれば幸いです。疑問点、質問など、またどんな細かい点でも、このプロトコルの改良のための示唆を期待し歓迎します。
起こると思われることから、in-planta法の確立を含めて今後検討が行われるべきでしょう。
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In vitroの培養を含む形質転換法は、材料となる植物の培養条件や、グロースキャビネットその他の
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この方法は、主としてAhGifuAhを材料として最適化したものです。MG-20についても、BAP濃度の変更を要しますが、一応は適用できます。しかしいまのところ、MG-20では不稔などの培養変異に基づくと思われる異常の頻度が高いために、よい結果が得られていません。
様々な条件のわずかな違いによって微調整が必要で、それぞれの研究室で実際の条件に応じた最適化の
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工夫が必要だと思われます。しかし、以下のプロトコルが、これから形質転換実験を始めようとする方
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なお、ミヤコグサの種子滅菌法や栽培法、培地組成、交配法等に関して、今泉温子氏による[http://miya.bio.sci.osaka-u.ac.jp/manuals/H_IM/index.html 「ミヤコグサの基本実験系マニュアル」]が公開されていますので、併せて参考にしていただければと思います。
に、一応のスタンダードを提供するものとなれば幸いです。疑問点、質問など、またどんな細かい点で
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も、このプロトコルの改良のための示唆を期待し歓迎します。
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:連絡先:河内 宏 <kouchih@abr.affrc.go.jp >
この方法は、主としてÅhGifuÅhを材料として最適化したものです。MG-20についても、BAP濃度の変更
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:農業生物資源研究所 生理機能部 窒素固定研究室
を要しますが、一応は適用できます。しかしいまのところ、MG-20では不稔などの培養変異に基づくと
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思われる異常の頻度が高いために、よい結果が得られていません。
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;参考文献
なお、ミヤコグサの種子滅菌法や栽培法、培地組成、交配法等に関して、今泉温子氏による「ミヤコ
+
<references/>
グサの基本実験系マニュアル」が公開されていますので、併せて参考にしていただければと思います。
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連絡先: 河内 宏
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==試薬の調整==
農業生物資源研究所 生理機能部 窒素固定研究室
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E-mail: kouchih@abr.affrc.go.jp
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{{PlantBiotech:Species/Lotus japonicus/Reagent}}
Tel: 0298-38-83772/2
+
 
試薬
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==培地の調整==
B5 Vitamin (1000x)
+
 
B5 Vitamin Stock (Sigma: #G1019) 1000x
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{{GenerateIndex|PlantBiotech|Species/Lotus japonicus/Media|4}}
滅菌済みだが、0.22µm メンブレンフィルターで濾過し、1mlずつ分注して-20
+
 
o
+
==形質転換の操作==
Cに保存。
+
 
フィルター滅菌には、注射器とDISMIC (ADVANTEC, 0.22µm)などを用いる(作業はクリーンベ
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===種子の滅菌===
ンチ内)。以下同様。
+
 
1M MES pH5.2
+
 
MES 21.3g を約80mlの滅菌水に溶かす。
+
# '''Lotus japonicus (Gifu) 種子''' 40 粒ずつを小型の磁製乳鉢に入れ、#400のサンドペーパーで擦って表面に傷を付ける<ref>少ない数の種子で丁寧に行うことが大事。慣れればほぼ100%の種子が発芽する。種子滅菌法については、「ミヤコグサの基本実験系マニュアル」をあわせ参照のこと。</ref>。または、種子を 2-3 ml の濃硫酸に漬け、 20 分間静置する<ref>プラスチック棒などでよく攪拌し気泡をのぞくとともに、固まっている種子をほぐす。 20 分後、硫酸をピペットで除き、大量の滅菌水で5回程度リンスしてから次のステップに移る。</ref>。
1M NaOHでpH 5.2とし、100mlに定容する。
+
#市販の次亜塩素酸ソーダの 1/2 希釈液に 0.02 % Tween20 を加え、種子をこの中に漬けて 10分 (硫酸処理後の場合は 20 ) インキュベートする。この間シーソーしんとう器などを用いて穏やかに攪拌する<ref>Falcon2070チューブなどを使い、 400-600 粒の種子に対して 25 ml 位を用いる。次亜塩素酸ソーダは古くなると有効塩素濃度が下がるので注意が必要。冷蔵庫に保存しあまり古くなったものは使わないか、濃度を濃くすることがよい。十分な滅菌が出来ない場合には、次亜塩素酸ソーダの前に 95 % エタノールで 30 秒程度処理すると改善される場合がある。</ref>。
フィルター滅菌し、1.5mlずつに分注して-20
+
#滅菌水で 10 分x 3 回洗う。
o
+
#滅菌水で 20 分x 3 回洗う<ref>20分の洗浄後、水が黄色くならなくなるまで繰り返せばよい。</ref>。
Cに保存。
+
 
BAP (1mg/ml)
+
===発芽===
BAP (Sigma: #B-9395) 50mgを1mlの1M NaOHに溶かし、滅菌水で50mlとする。
+
 
フィルター滅菌し、1mlずつに分注して-20
+
# 滅菌した濾紙(6 x 6 cm) を5mm程度の厚さにパイルし、90 x 20mm ペトリ皿におく。これに 20-25 ml の滅菌水を加え、この上に '''滅菌種子''' 約80粒を播種する。
o
+
# パラフィルムでシールする。
Cに保存。
+
# 暗黒下、 26 ℃で 4 日間培養し、その後 2 日間連続照明におく<ref>暗黒下 3 日間、連続照明 3 日間の方がよいかもしれない。しかし、Stillerらは全く光を与えていない。</ref>。(MG-20の場合は暗黒下 3 日間、その後 2 日間連続照明)
または、BAP solution (Sigma: #B3274, 1mg/ml)をフィルター滅菌し、1mlずつに分注。
+
 
NAA (1mg/ml)
+
===アグロ感染と共存培養 (co-cultivation) ===
NAA (Sigma; #N-0640) 50mg を24mlの95% EtOHに溶かし、滅菌水で50mlとする。
+
 
またはNAA solution (Sigma: N1641, 1mg/ml)。
+
# 感染の 2 日前からアグロバクテリウムをYEP寒天培地に植菌し、28 ℃で培養しておく。菌を掻き取り、4 ml のYMBにけんだくする<ref>菌は通常グリセロールストックから植菌する。培地のほぼ全面高密度に画線する。YMBにけんだくする際は、時々手で振り混ぜながら 20 分程度かけて菌を均一に分散させる。菌によっては分散に時間がかかる場合がある。菌の密度は 108-109 /ml 。しかし、液体培養の方が菌の密度をそろえ易いと考えられる。その場合は 2 晩YEPでmini-cultureしてstationary-phaseに達した菌液の、たとえば 50 μl を 4 ml のYEPに植菌して、 24 時間後の菌 (集菌して4-5 ml のWMBにけんだく) を用いるなどのやり方がある。</ref>。
フィルター滅菌し、1mlずつに分注して-20
+
# 90 x 20 mm ペトリ皿に滅菌濾紙の5 mm パイルを入れ、20-25 ml のco-cultivation培地を加えておく。
o
+
# アグロけんだく液を 90 mm ペトリ皿中においた 2 枚の滅菌濾紙 (6 x 6 cm) に加える。
Cに保存。
+
# 幼植物の胚軸(長さ 1-2 cm)を子葉の直下と根との境目で切り、アグロけんだく液で湿らせた濾紙の上に並べる (60-70 本) 。
4M (NH4
+
# 10 本程度を束ねて、ピンセットで押さえ、メスで 3 mm 程度に細切する。すべて切り終わるまでアグロけんだく液に載せておく。
)2
+
# 切片をco-cultivation培地を含む濾紙の上に並べる。ペトリ皿あたり 150-200 切片。
SO4
+
# パラフィルムでシール。
(NH4
+
# 暗黒下、21 ℃で 6 日間共存培養する。
)2
+
 
SO4
+
===カルス誘導===
26.4g を50mlの滅菌水に溶かす。
+
 
フィルター滅菌し、1.5mlずつに分注して-20
+
# 共存培地から胚軸切片を載せたまま、一番上の濾紙だけをピンセットで取り上げ、90 x 20mm ペトリ皿中のカルス培地の上に置く (隙間に空気が入らぬように注意) 。
o
+
# 23 ℃、明(17 hrs)、暗(7 hrs)のグロースキャビネット内におく。<ref>Stougaardらの方法では連続明条件であり、実際連続明条件でも形質転換は行える。しかし、Stillerらは、 23 ℃、明/暗条件を推奨している。温度や光の条件は、グロースキャビネットによっても違う可能性があるので、試行錯誤によって最適条件を決めていくしかない。</ref>以下、グロースキャビネット条件は同じ。
Cに保存。
+
# 7 日間培養する。
G418 (50mg/ml)
+
# 切片を 1 つずつ、新しいカルス培地に植え継ぐ。<ref>このとき、培地上に静かにおく。埋め込んだり、培地上で擦ったりすると組織が褐変化する率が高くなる。なお、ここから後はサージカルテープでシールしてもよい。</ref>
Geneticine solution (Sigma #G-7014, 50mg/ml)
+
# 7 日ごとに植え継ぎ、 2-5 週間選別培養を続ける。<ref>緑色のカルスが 1 mm 以上の大きさになったら、出来るだけ早く褐変化した組織と切り離す〔このステップはとても重要〕。</ref>
フィルター滅菌し、1mlずつに分注して-20
+
 
o
+
===再分化 (Shoot Induction) ===
Cに保存。
+
 
Hygromycin B (10mg/ml)
+
# カルスを再分化培地に植え継ぐ。<ref>緑色カルスが形質転換体であることが確信できれば、あるいはカルス培地で 5 週間以上selectionされていれば、再分化培地から抗生物質を除いてもよい。そうでない場合は、最初の 2 週間はselectionを続ける必要があるかもしれない。この辺の加減は、カルス培地での抗生物質の濃度などにより、ケースバイケースである。</ref>
Hygromycin B (Sigma: #H-9773) 250mg を16mlの滅菌水に溶かす。
+
# 7 日ごとに植え継ぎ、 3-7 週間培養を続ける。<ref>通常カルスの一部または全体が濃緑色になり、shootが分化し始める。再分化が始まったら次のshoot elongationに移る。再分化には 7 週以上かかる場合もある。再分化はミヤコグサ形質転換法のうちでもっとも問題の多い部分であり、効率は実験によってばらつきが大きい。再分化すれば、ほぼ 100 % が再生個体に至ると考えてよい。</ref>
(純度は通常70%くらい。ロットにより違う)
+
 
フィルター滅菌し、1mlずつに分注して-20
+
===Shoot Elongation===
o
+
 
Cに保存。
+
# Shoot原基が形成されたカルスをshoot elongation培地に植え継ぐ。
またはHygromycin B solution (Sigma: H5527, 50mg/ml)を用いる(純度は50%以上)。
+
# 7 日ごとに植え継ぎ、 3-6 週間培養を続ける。
Cefotaxime (30mg/ml)
+
 
Cefotaxime (Sigma: #C-7912) 3 g を100mlの滅菌水に溶かす。
+
===Root Induction===
フィルター滅菌し、10mlずつ#2059に分注して-20
+
 
o
+
# 1 cm 程度に成長したshootを切り取る。<ref>1 つのカルスから数本のshootが出るので、それらをすべてroot induction培地に移すが、同一のカルス由来の個体はまとめて、他のものと識別できるようにしておく。</ref>
Cに保存。
+
# Root induction培地に浅く突き刺し、 10 日間培養する。<ref>切り口がカルス化するが、この段階で発根はしないのがふつう。しかし誘導は 10 日間で充分。</ref>
Acetosyringone (20 mg/ml)
+
 
Acetosyringone (Aldrich #D134406) をDMSOに20 mg/mlになるように溶かす。
+
===Root Elongation===
フィルター滅菌し、1mlずつに分注して-20
+
 
o
+
# 円形プラントボックスにroot elongation培地 (約 40 ml) を入れ滅菌する。<ref>直径約 6 cm 、高さ約 7 cm のプラスチック製プラントボックスの蓋に直径 5 mm 程度の穴をあけ、そこに通気用のテフロンシール (ミリポア) を貼る。やや小さいが通気用シールを貼ったものが市販されている (イワキ) 。)</ref>
Cに保存。3/3
+
# 植物を浅く突き刺す。
アグロバクテリウム用培地
+
# 3-4 週間、 26 ℃ (明、16 hrs)、 23 ℃ (暗、8 hrs) のグロースキャビネットで培養 (培地交換の必要はない) 。
YEP寒天培地(注1) YE 10g
+
 
Peptone 10g
+
===鉢上げ===
NaCl 5g
+
 
を1000mlの水に溶かす。
+
# 根が 1.5-2 cm 程度伸びたら、root elongation培地から取り出し、2 段重ねの角形プラントボックスにバーミキュライトを詰めたものに移植する。<ref>角形プラントボックス (イワキ等) の底に直径約 7 mm の穴をあけ、綿製ロープを通し、別のボックスと 2 段重ねにする。下のボックスに培地を入れ、上のボックスをバーミキュライトで充たす。培養液はアルコールランプの要領で供給される。</ref><ref>1 ポットに 8-12 個体移植できるが、同じカルス由来の個体ごとに 1 ポットにまとめる。</ref>
寒天1.5gを200mlメジューム瓶にとり、YEPを100mlずつ分注。
+
# 必要に応じて根粒菌を接種。<ref>培地はNiftal (B & D)の 1/2 を用いる。窒素を加えるが、無窒素で根粒菌接種の方が生育がよいことが多い。</ref>
オートクレーブして、室温に保存。
+
# 蓋をして、少なくとも 2 週間程度グロースキャビネット内で育成する。
使用に際して、電子レンジで溶かす。
+
# 生育の様子を見ながら蓋をはずし、さらに 1-2 週間培養する。
60°C程度に冷えてから、必要な抗生物質を加える。
+
# 植物が十分な大きさ (shootの長さ 3-4 cm) になったら、パワーソイル (クレハ園芸用培土) を詰めたビニールポットに移植し (1 個体/ポット) 、温室に出す。
(濃度) Kanamycin 100 µg/ml
+
 
Tetracyclin 5 µg/ml
+
===コメント===
Rifampicin 100 µg/ml
+
 
Spectinomycin 100 µg/ml
+
# 抗生物質の濃度は重要なファクターであり、とくに再分化効率に大きく影響する。ハイグロマイシンは再分化の速度を遅くする傾向が強い。また、過度の選択圧は再分化個体のsomaclonal な異常の頻度を高め、再生個体の不稔率を高める。selection にbar を使うとその問題が少ないという情報がある (Stiller、投稿中) 。最適濃度はベクターの種類によっても当然変わりうる。同時に行う形質転換実験の種類が多くなければ、 2-3 段階の異なる抗生物質濃度で実験することが薦められる。
Carbenicilin 100 µg/ml
+
# 再分化には培地中のNH<sub>4</sub><sup>+</sup>濃度が大きな影響をもつ。最適濃度は 10 mM とされており (Handbergand Stougaard, 1992) 、我々の経験でもこの濃度がベストであるが、カルスの緑色が薄く再分化が遅い場合には、濃度を高くするとよい場合がある。しかし、再生したshootの生長はNH<sub>4</sub><sup>+</sup>によって阻害されるので、shootの再生を見たら直ちにshoot elongation培地に移した方がよい。
Gentamycin 100 µg/ml
+
# 共存培養後の最初の 3-7 日間をselection なしのカルス培地におくことが行われているが (Stiller et al.、1997; 投稿中) 、我々の経験ではその必要はない。
クリーンベンチ内で、9cmプレート6-8枚に注いで固める。
+
# Gifu はアグロバクテリウムのstrain をあまり選ばない。AGL1 がベストと言われており、実際多くのグループはこれを用いている。しかし我々の経験ではLBA4404 とそれほどの違いはない。また、EHA101(または105) や、GV3101 も使用されており、問題はないと思われる。
YMB液体培地 Mannitol 1.0g
+
# 植物の形質転換のためのバイナリベクターとしてCAMBIA 社 (オーストラリア) が 29 種のベクターキットを提供しており、G418 またはHygromycin 選抜を行う場合にはこれが便利である。
YE 0.2g
+
 
MgSO4
+
* AGL1の入手先:
.7H2O 0.1g
+
: Robert A. Ludwig <ludwig@darwin.ucsc.edu >
NaCl 0.05g
+
: Professor, Biochemistry & Molecular Biology Sinsheimer Laboratories
を500mlの水に溶かし、100mlずつに分注してオートクレーブ、室温に保存。
+
: University of California Santa Cruz, CA 95064, USA
用事、1mlの0.3Mリン酸カリウム緩衝液(pH6.8)を加える。
+
* CAMBIAベクターキットの入手方法:
0.3M K2HPO4
+
: http://www.cambia.org.au/main/index.htm
./KH2
+
 
PO4
+
===解説===
(pH6.8)
+
{{PlantBiotech/手法解説}}
K2HPO4
+
2.59g
+
KH2
+
PO4
+
2.05g
+
を水にとかし100mlとする。オートクレーブ。
+
注1) LB培地でも可。4/4
+
植物用培地
+
Co-cultivation培地
+
(1/10 B5, BAP 0.5µg/ml, NAA 0.05µg/ml, MES5.2 5mM, Acetosyringone 20µg/ml)
+
B5 basal salts (Wako: #399-00621) 0.33 g を1000mlの水に溶かす。
+
250mlボトルに200mlずつ分注し、オートクレーブ、室温保存(1/10 B5)。
+
使用時、次のものを加える。
+
1000x Vitamin stock  20µl (0.1x)
+
NAA (1mg/ml) 10 µl  (0.05 µg/ml)
+
BAP (1mg/ml)  100µl  (0.5 µg/ml)
+
1M MES (pH5.2) 1.00ml (5 mM)
+
Acetosyringone (20 mg/ml) 200 µl (20 µg/ml)
+
Callus培地およびShoot Induction培地
+
(1x B5, 2% sucrose, BAP 0.5µg/ml, NAA 0.05µg/ml, 10mM NH4
+
, 0.3% phytagel)
+
B5 basal salts  1.66 g
+
sucrose  10 g
+
を500 mlの水に溶かす。
+
1N NaOH でpH5.5に調整する。
+
1.5 gのphytagelを加えてオートクレーブ。
+
熱いうちに
+
4M (NH4
+
)2
+
SO4
+
625 µl (10mM NH4
+
+
+
)
+
を加える。
+
70
+
o
+
C以下に冷やしてから、次のものを加える。
+
1000x Vitamin stock 500 µl (1x)
+
NAA (1mg/ml) 25 µl  (0.05 µg/ml)
+
BAP (1mg/ml) 250 µl  (0.5 µg/ml) (注2)
+
cefotaxime (30 mg/ml) 5 ml (300µg/ml)
+
Selection(注3);
+
G418 (50 mg/ml) 100-200 µl/500 ml  (10-20 µg/ml)
+
HygromycinB (10 mg/ml) 0.75-2 ml/500 ml  (15-40 µg/ml)
+
Shoot Elongation培地
+
(1x B5, 2% sucrose, BAP 0.2µg/ml, 0.3% phytagel)
+
B5 basal salts  1.66 g
+
sucrose  10 g
+
を500 mlの水に溶かす。
+
1N NaOH でpH5.5に調整する。
+
1.5gのphytagelを加えてオートクレーブ。
+
70
+
o
+
C以下に冷やしてから、次のものを加える。
+
1000x Vitamin stock 500 µl (1x)
+
BAP stock (1 mg/ml) 100 µl  (0.2 µg/ml)
+
cefotaxime (30 mg/ml) 2.5 ml (150 µg/ml)5/5
+
Root induction培地
+
(1/2 B5, 1% sucrose, 0.5µg/ml NAA, 0.4% phytagel)
+
B5 basal salts  0.83 g
+
sucrose  5 g
+
を500 mlの水に溶かす。
+
1N NaOH でpH5.5に調整する。
+
2.0gのphytagelを加えてオートクレーブ。
+
70
+
o
+
C以下に冷やしてから、次のものを加える。
+
1000x Vitamin stock 250 µl (0.5x)
+
NAA stock (1mg/ml) 250 µl (0.5 µg/ml)
+
Root Elongation培地
+
(1/2 B5, 1% sucrose)
+
B5 basal salts  0.83 g
+
sucrose  5 g
+
を500 mlの水に溶かす。
+
1N NaOH でpH5.5に調整する。
+
2.0gのphytagelを加えてオートクレーブ。
+
70
+
o
+
C以下に冷やしてから、次のものを加える。
+
1000x Vitamin stock 250 µl (0.5x)
+
注2) GifuではBAP濃度1.0µg/mlの方がよい場合がある。しかし、MG20はBAPに弱いので、カルス培地、
+
再分化培地ともに、0.2µg/mlがよい。
+
注3) Selectionのための最適な抗生物質濃度は、実験的に決める。特にHygromycinは純度が低く一定し
+
ないのでロットごとにkill-curveを作って確認する必要がある。Shoot inductionでのselectionはオプ
+
ションである。カルス培地で5週以上のselectionが行われていれば、shoot inductionは抗生物質な
+
しでよい。あるいは最初の2週だけselectionを続けてもよい(Stiller et al., 1997)。抗生物質の存在
+
は、多かれ少なかれ再分化を遅らせ,再生効率を低下させる。
+
Kill-curveの作り方:
+
バイナリベクターを含まないAgrobacteriumを用いて形質転換と同じ操作を行い、3週間の選抜で
+
100%の胚軸切片を殺す最小の抗生物質濃度を決める。Stougaardによればこの最小濃度の2倍を用
+
いる。しかし、Stillerらはこの最小濃度を用いている。我々の経験では、カルス培地でのselection
+
は最小濃度の4-6培とやや高い濃度で行い、再分化培地ではselectionを行わないのがよい。この場
+
合いくらかescapeが出ることは避けられないが、全体としてよい結果が得られる。目安となる濃
+
度は、Hygromycinが40 µg/ml、G418では25 µg/ml。6/6
+
形質転換の操作
+
1.種子の滅菌
+
Lotus japonicus (Gifu) 種子
+
40粒ずつを小型の磁製乳鉢に入れ、#400のサンドペーパーで擦って表面に傷を付ける(注4)
+
または、種子を2-3mlの濃硫酸に漬け、20分間静置する(注5)
+
市販の次亜塩素酸ソーダの1/2希釈液に0.02% Tween 20 を加え、種子をこの中に漬けて10分(硫酸処理後
+
の場合は20分)インキュベートする。この間シーソーしんとう器などを用いて穏やかに攪拌する(注
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6)。
+
滅菌水で10分x3回洗う。
+
滅菌水で20分x3回洗う(注7)。
+
注4) 少ない数の種子で丁寧に行うことが大事。慣れればほぼ100%の種子が発芽する。種子滅菌法に
+
ついては、「ミヤコグサの基本実験系マニュアル」をあわせ参照のこと。
+
注5) プラスチック棒などでよく攪拌し気泡をのぞくとともに、固まっている種子をほぐす。20分後、
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硫酸をピペットで除き、大量の滅菌水で5回程度リンスしてから次のステップに移る。
+
注6) Falcon2070チューブなどを使い、400-600粒の種子に対して25ml位を用いる。次亜塩素酸ソーダは
+
古くなると有効塩素濃度が下がるので注意が必要。冷蔵庫に保存しあまり古くなったものは使わ
+
ないか、濃度を濃くすることがよい。十分な滅菌が出来ない場合には、次亜塩素酸ソーダの前に
+
95%エタノールで30秒程度処理すると改善される場合がある。
+
注7) 20分の洗浄後、水が黄色くならなくなるまで繰り返せばよい。
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2.発芽
+
滅菌種子
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滅菌した濾紙(6x6cm) を5mm程度の厚さにパイルし、90x20mmペトリ皿におく。これに20-25mlの滅菌水
+
を加え、この上に約80粒を播種する。
+
パラフィルムでシールする。
+
暗黒下、26°Cで4日間培養し、その後2日間連続照明におく(注8)。
+
(MG-20の場合は暗黒下3日間、その後2日間連続照明)。
+
注8) 暗黒下3日間、連続照明3日間の方がよいかもしれない。しかし、Stillerらは全く光を与えていな
+
い。
+
3.アグロ感染と共存培養( co-cultivation)
+
感染の2日前からアグロバクテリウムをYEP寒天培地に植菌し、28°Cで培養しておく。菌を掻き取り、
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4mlのYMBにけんだくする(注9)。
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90x20mmペトリ皿に滅菌濾紙の5mmパイルを入れ、20-25 mlのco-cultivation培地を加えておく。7/7
+
アグロけんだく液を90mmペトリ皿中においた2枚の滅菌濾紙(6x6cm)に加える。
+
幼植物の胚軸(長さ1-2cm)を子葉の直下と根との境目で切り、アグロけんだく液で湿らせた濾紙の上に並
+
べる(60-70本)。
+
10本程度を束ねて、ピンセットで押さえ、メスで3mm程度に細切する。すべて切り終わるまでアグロけ
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んだく液に載せておく。
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+
切片をco-cultivation培地を含む濾紙の上に並べる。ペトリ皿あたり150-200切片。
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パラフィルムでシール。
+
暗黒下、21°Cで6日間共存培養する。
+
注9) 菌は通常グリセロールストックから植菌する。培地のほぼ全面高密度に画線する。YMBにけん
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だくする際は、時々手で振り混ぜながら20分程度かけて菌を均一に分散させる。菌によっては分
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散に時間がかかる場合がある。菌の密度は10
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8
+
-10
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9
+
/ml。しかし、液体培養の方が菌の密度をそろ
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え易いと考えられる。その場合は2晩YEPでmini-cultureしてstationary-phaseに達した菌液の、た
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とえば50µlを4mlのYEPに植菌して、24時間後の菌(集菌して4-5mlのWMBにけんだく)を用いる
+
などのやり方がある。
+
4.カルス誘導
+
共存培地から胚軸切片を載せたまま、一番上の濾紙だけをピンセットで取り上げ、90x20mmペトリ皿中
+
のカルス培地の上に置く(隙間に空気が入らぬように注意)。
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23°C、明(17hrs)、暗(7hrs)のグロースキャビネット内におく。以下、グロースキャビネット条件は同じ
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(注10)。
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7日間培養する。
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切片を1つずつ、新しいカルス培地に植え継ぐ(注11)。
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7日ごとに植え継ぎ、2-5週間選別培養を続ける(注12)。
+
注10) Stougaardらの方法では連続明条件であり、実際連続明条件でも形質転換は行える。しかし、
+
Stillerらは、23
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o
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C、明/暗条件を推奨している。温度や光の条件は、グロースキャビネットによっ
+
ても違う可能性があるので、試行錯誤によって最適条件を決めていくしかない。
+
注11) このとき、培地上に静かにおく。埋め込んだり、培地上で擦ったりすると組織が褐変化する率
+
が高くなる。なお、ここから後はサージカルテープでシールしてもよい。
+
注12) 緑色のカルスが1mm以上の大きさになったら、出来るだけ早く褐変化した組織と切り離す〔こ
+
のステップはとても重要〕。
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5.再分化( Shoot Induction)
+
カルスを再分化培地に植え継ぐ(注13)。8/8
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7日ごとに植え継ぎ、3-7週間培養を続ける(注14)。
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注13) 緑色カルスが形質転換体であることが確信できれば、あるいはカルス培地で5週間以上selection
+
されていれば、再分化培地から抗生物質を除いてもよい。そうでない場合は、最初の2週間は
+
selectionを続ける必要があるかもしれない。この辺の加減は、カルス培地での抗生物質の濃度な
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どにより、ケースバイケースである。
+
注14) 通常カルスの一部または全体が濃緑色になり、shootが分化し始める。再分化が始まったら次の
+
shoot elongationに移る。再分化には7週以上かかる場合もある。再分化はミヤコグサ形質転換法の
+
うちでもっとも問題の多い部分であり、効率は実験によってばらつきが大きい。再分化すれば、
+
ほぼ100%が再生個体に至ると考えてよい。
+
6. Shoot Elongation
+
Shoot原基が形成されたカルスをshoot elongation培地に植え継ぐ。
+
7日ごとに植え継ぎ、3-6週間培養を続ける。
+
7. Root Induction
+
1cm程度に成長したshootを切り取る(注15)。
+
Root induction培地に浅く突き刺し、10日間培養する(注16)。
+
注15) 1つのカルスから数本のshootが出るので、それらをすべてroot induction培地に移すが、同一の
+
カルス由来の個体はまとめて、他のものと識別できるようにしておく。
+
注16) 切り口がカルス化するが、この段階で発根はしないのがふつう。しかし誘導は10日間で充分。
+
8. Root Elongation
+
円形プラントボックス(注17)にroot elongation培地(約40ml)を入れ滅菌する。
+
植物を浅く突き刺す。
+
3-4週間、26
+
o
+
C (明、16 hrs)、23
+
o
+
C (暗、8hrs) のグロースキャビネットで培養(培地交換の必要はない)。
+
注17) 直径約6cm、高さ約7cmのプラスチック製プラントボックス。蓋に直径5mm程度の穴をあけ、
+
そこに通気用のテフロンシール(ミリポア)を貼る。やや小さいが通気用シールを貼ったものが
+
市販されている(イワキ)。
+
9.鉢上げ
+
根が1.5-2cm程度伸びたら、root elongation培地から取り出し、2段重ねの角形プラントボックス(注1
+
8)にバーミキュライトを詰めたものに移植する(注19)。
+
必要に応じて根粒菌を接種(注20)9/9
+
蓋をして、少なくとも2週間程度グロースキャビネット内で育成する。
+
生育の様子を見ながら蓋をはずし、さらに1-2週間培養する。
+
植物が十分な大きさ(shootの長さ3-4cm)になったら、パワーソイル(クレハ園芸用培土)を詰めたビニ
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ールポットに移植し(1個体/ポット)、温室に出す。
+
注18) イワキ等。底に直径約7mmの穴をあけ、綿製ロープを通し、別のボックスと2段重ねにする。
+
下のボックスに培地を入れ、上のボックスをバーミキュライトで充たす。培養液はアルコールラ
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ンプの要領で供給される。
+
注19) 1ポットに8-12個体移植できるが、同じカルス由来の個体ごとに1ポットにまとめる。
+
注20) 培地はNiftal (B & D)の1/2を用いる。窒素を加えるが、無窒素で根粒菌接種の方が生育がよいこ
+
とが多い。
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コメント
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1) 抗生物質の濃度は重要なファクターであり、とくに再分化効率に大きく影響する。ハイグロマ
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イシンは再分化の速度を遅くする傾向が強い。また、過度の選択圧は再分化個体の somaclonal な異
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常の頻度を高め、再生個体の不稔率を高める。selection に bar を使うとその問題が少ないという情報
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がある(Stiller、投稿中)。最適濃度はベクターの種類によっても当然変わりうる。同時に行う形質
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転換実験の種類が多くなければ、2-3段階の異なる抗生物質濃度で実験することが薦められる。
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2) 再分化には培地中の NH4
+
+
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濃度が大きな影響をもつ。最適濃度は 10mM とされており(Handberg
+
and Stougaard, 1992)、我々の経験でもこの濃度がベストであるが、カルスの緑色が薄く再分化が遅
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い場合には、濃度を高くするとよい場合がある。しかし、再生した shoot の生長は NH4
+
+
+
によって阻害
+
されるので、shoot の再生を見たら直ちに shoot elongation 培地に移した方がよい。
+
3) 共存培養後の最初の3~7日間を selection なしのカルス培地におくことが行われているが
+
(Stiller et al.、1997; 投稿中)、我々の経験ではその必要はない。
+
4) Gifu はアグロバクテリウムの strain をあまり選ばない。AGL1 がベストと言われており、実際
+
多くのグループはこれを用いている。しかし我々の経験では LBA4404 とそれほどの違いはない。ま
+
た、EHA101(または 105)や、GV3101 も使用されており、問題はないと思われる。
+
5) 植物の形質転換のためのバイナリベクターとして CAMBIA 社(オーストラリア)が 29 種のベ
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クターキットを提供しており、G418 または Hygromycin 選抜を行う場合にはこれが便利である。
+
AGL1の入手先: Robert†A.†Ludwig†††††<ludwig@darwin.ucsc.edu†>
+
Professor,†Biochemistry†&†Molecular†Biology
+
Sinsheimer†Laboratories
+
University†of†California
+
Santa†Cruz,†CA†95064, USA
+
CAMBIAベクターキットの入手方法:. http://www.cambia.org.au/main/index.htm
+
REFERENCES10/10
+
Handberg, K. and Stougaard, J. (1992) Plant Jour. 2(4):  487-496
+
Thykjaer, T. et al. (1998) In ÅgCell Biology: A laboratory handbook, 2nd Ed.Åh pp.518-525.  Academic Press
+
Jiri Stiller et al. (1997) Jour. Exp. Bot. 48(312): 1357-1365.
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Latest revision as of 15:19, 2 September 2011

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Contents

[edit] ミヤコグサ形質転換マニュアル


モデル植物としてのミヤコグサLotus japonicus は、マメ科植物における数少ないstableな形質転換系を提供するものです。Agrobacteriumを用いた基本的な形質転換法は 1992 年デンマークAarhus大学のグループによって確立されましたが[1]、その後、当時この研究室のメンバーであったJiri Stillerらによって改訂されたプロトコルが提案され[2]、またAarhusのグループも改訂された方法を発表しており[3]、現在多くの研究室がこれらのプロトコルによって実験を行っています。

以下のミヤコグサ形質転換マニュアルは、Aarhus大学の研究室の最近のプロトコルと、その後のJiri Stillerらによる改訂プロトコルをもとにし、それぞれのグループから入手したいくつかの最近のノウハウを付け加えて、現在私たちの研究室で行っている方法を整理したものです。大筋はJiri Stillerらによる改良法に準拠しています。 ミヤコグサ形質転換はその効率、安定性、必要時間などの点からみて、たとえばアラビドプシスやイネ等に匹敵するほどに容易であるとはいえません。特に再生効率や、方法の安定性 (再現性) 、再生個体を得るまでの時間等の面で、今後さらに改良が必要だと思います。また、比較的高頻度に培養変異が起こると思われることから、in-planta法の確立を含めて今後検討が行われるべきでしょう。

In vitroの培養を含む形質転換法は、材料となる植物の培養条件や、グロースキャビネットその他の様々な条件のわずかな違いによって微調整が必要で、それぞれの研究室で実際の条件に応じた最適化の工夫が必要だと思われます。しかし、以下のプロトコルが、これから形質転換実験を始めようとする方に、一応のスタンダードを提供するものとなれば幸いです。疑問点、質問など、またどんな細かい点でも、このプロトコルの改良のための示唆を期待し歓迎します。

この方法は、主としてAhGifuAhを材料として最適化したものです。MG-20についても、BAP濃度の変更を要しますが、一応は適用できます。しかしいまのところ、MG-20では不稔などの培養変異に基づくと思われる異常の頻度が高いために、よい結果が得られていません。

なお、ミヤコグサの種子滅菌法や栽培法、培地組成、交配法等に関して、今泉温子氏による「ミヤコグサの基本実験系マニュアル」が公開されていますので、併せて参考にしていただければと思います。

連絡先:河内 宏 <kouchih@abr.affrc.go.jp >
農業生物資源研究所 生理機能部 窒素固定研究室
参考文献
  1. Handberg, K. and Stougaard, J. (1992) Plant Jour.; 2(4): 487-496
  2. Jiri Stiller et al. (1997) Jour. Exp. Bot.; 48(312): 1357-1365
  3. Thykjaer, T. et al. (1998) In AgCell Biology: A laboratory handbook, 2nd Ed.Ah: 518-525, Academic Press

[edit] 試薬の調整

試薬名 調製法 濃度
B5 Vitamin B5 Vitamin Stock (Sigma: #G1019) 1000x 滅菌済みだが、0.22μm メンブレンフィルターで濾過し、1mlずつ分注して-20℃に保存。 フィルター滅菌には、注射器とDISMIC (ADVANTEC, 0.22μm)などを用いる(作業はクリーンベンチ内)。以下同様。 1000x
1M MES MES 21.3g を約80mlの滅菌水に溶かす。1M NaOHでpH 5.2とし、100mlに定容する。フィルター滅菌し、1.5mlずつに分注して-20℃に保存。 pH 5.2
BAP BAP (Sigma: #B-9395) 50mgを1mlの1M NaOHに溶かし、滅菌水で50mlとする。フィルター滅菌し、1mlずつに分注して-20℃に保存。または、BAP solution (Sigma: #B3274, 1mg/ml)をフィルター滅菌し、1mlずつに分注。 1 mg/ml
NAA NAA (Sigma; #N-0640) 50mg を24mlの95% EtOHに溶かし、滅菌水で50mlとする。またはNAA solution (Sigma: N1641, 1mg/ml)。フィルター滅菌し、1mlずつに分注して-20℃に保存。 1mg/ml
4M (NH4)22SO4 (NH4)22SO4 26.4g を50mlの滅菌水に溶かす。フィルター滅菌し、1.5mlずつに分注して-20℃に保存。
G418 Geneticine solution (Sigma #G-7014, 50mg/ml) フィルター滅菌し、1mlずつに分注して-20℃に保存。 50 mg/ml
Hygromycin B Hygromycin B (Sigma: #H-9773) 250mg を16mlの滅菌水に溶かす。(純度は通常70%くらい。ロットにより違う) フィルター滅菌し、1mlずつに分注して-20℃に保存。またはHygromycin B solution (Sigma: H5527, 50mg/ml)を用いる(純度は50%以上)。 10mg/ml
Cefotaxime Cefotaxime (Sigma: #C-7912) 3 g を100mlの滅菌水に溶かす。フィルター滅菌し、10mlずつ#2059に分注して-20℃に保存。 30 mg/ml
Acetosyringone Acetosyringone (Aldrich #D134406) をDMSOに20mg/mlになるように溶かす。フィルター滅菌し、1mlずつに分注して-20℃に保存。 20 mg/ml

[edit] 培地の調整

[edit] 形質転換の操作

[edit] 種子の滅菌

  1. Lotus japonicus (Gifu) 種子 40 粒ずつを小型の磁製乳鉢に入れ、#400のサンドペーパーで擦って表面に傷を付ける[1]。または、種子を 2-3 ml の濃硫酸に漬け、 20 分間静置する[2]
  2. 市販の次亜塩素酸ソーダの 1/2 希釈液に 0.02 % Tween20 を加え、種子をこの中に漬けて 10分 (硫酸処理後の場合は 20 分) インキュベートする。この間シーソーしんとう器などを用いて穏やかに攪拌する[3]
  3. 滅菌水で 10 分x 3 回洗う。
  4. 滅菌水で 20 分x 3 回洗う[4]

[edit] 発芽

  1. 滅菌した濾紙(6 x 6 cm) を5mm程度の厚さにパイルし、90 x 20mm ペトリ皿におく。これに 20-25 ml の滅菌水を加え、この上に 滅菌種子 約80粒を播種する。
  2. パラフィルムでシールする。
  3. 暗黒下、 26 ℃で 4 日間培養し、その後 2 日間連続照明におく[5]。(MG-20の場合は暗黒下 3 日間、その後 2 日間連続照明)。

[edit] アグロ感染と共存培養 (co-cultivation)

  1. 感染の 2 日前からアグロバクテリウムをYEP寒天培地に植菌し、28 ℃で培養しておく。菌を掻き取り、4 ml のYMBにけんだくする[6]
  2. 90 x 20 mm ペトリ皿に滅菌濾紙の5 mm パイルを入れ、20-25 ml のco-cultivation培地を加えておく。
  3. アグロけんだく液を 90 mm ペトリ皿中においた 2 枚の滅菌濾紙 (6 x 6 cm) に加える。
  4. 幼植物の胚軸(長さ 1-2 cm)を子葉の直下と根との境目で切り、アグロけんだく液で湿らせた濾紙の上に並べる (60-70 本) 。
  5. 10 本程度を束ねて、ピンセットで押さえ、メスで 3 mm 程度に細切する。すべて切り終わるまでアグロけんだく液に載せておく。
  6. 切片をco-cultivation培地を含む濾紙の上に並べる。ペトリ皿あたり 150-200 切片。
  7. パラフィルムでシール。
  8. 暗黒下、21 ℃で 6 日間共存培養する。

[edit] カルス誘導

  1. 共存培地から胚軸切片を載せたまま、一番上の濾紙だけをピンセットで取り上げ、90 x 20mm ペトリ皿中のカルス培地の上に置く (隙間に空気が入らぬように注意) 。
  2. 23 ℃、明(17 hrs)、暗(7 hrs)のグロースキャビネット内におく。[7]以下、グロースキャビネット条件は同じ。
  3. 7 日間培養する。
  4. 切片を 1 つずつ、新しいカルス培地に植え継ぐ。[8]
  5. 7 日ごとに植え継ぎ、 2-5 週間選別培養を続ける。[9]

[edit] 再分化 (Shoot Induction)

  1. カルスを再分化培地に植え継ぐ。[10]
  2. 7 日ごとに植え継ぎ、 3-7 週間培養を続ける。[11]

[edit] Shoot Elongation

  1. Shoot原基が形成されたカルスをshoot elongation培地に植え継ぐ。
  2. 7 日ごとに植え継ぎ、 3-6 週間培養を続ける。

[edit] Root Induction

  1. 1 cm 程度に成長したshootを切り取る。[12]
  2. Root induction培地に浅く突き刺し、 10 日間培養する。[13]

[edit] Root Elongation

  1. 円形プラントボックスにroot elongation培地 (約 40 ml) を入れ滅菌する。[14]
  2. 植物を浅く突き刺す。
  3. 3-4 週間、 26 ℃ (明、16 hrs)、 23 ℃ (暗、8 hrs) のグロースキャビネットで培養 (培地交換の必要はない) 。

[edit] 鉢上げ

  1. 根が 1.5-2 cm 程度伸びたら、root elongation培地から取り出し、2 段重ねの角形プラントボックスにバーミキュライトを詰めたものに移植する。[15][16]
  2. 必要に応じて根粒菌を接種。[17]
  3. 蓋をして、少なくとも 2 週間程度グロースキャビネット内で育成する。
  4. 生育の様子を見ながら蓋をはずし、さらに 1-2 週間培養する。
  5. 植物が十分な大きさ (shootの長さ 3-4 cm) になったら、パワーソイル (クレハ園芸用培土) を詰めたビニールポットに移植し (1 個体/ポット) 、温室に出す。

[edit] コメント

  1. 抗生物質の濃度は重要なファクターであり、とくに再分化効率に大きく影響する。ハイグロマイシンは再分化の速度を遅くする傾向が強い。また、過度の選択圧は再分化個体のsomaclonal な異常の頻度を高め、再生個体の不稔率を高める。selection にbar を使うとその問題が少ないという情報がある (Stiller、投稿中) 。最適濃度はベクターの種類によっても当然変わりうる。同時に行う形質転換実験の種類が多くなければ、 2-3 段階の異なる抗生物質濃度で実験することが薦められる。
  2. 再分化には培地中のNH4+濃度が大きな影響をもつ。最適濃度は 10 mM とされており (Handbergand Stougaard, 1992) 、我々の経験でもこの濃度がベストであるが、カルスの緑色が薄く再分化が遅い場合には、濃度を高くするとよい場合がある。しかし、再生したshootの生長はNH4+によって阻害されるので、shootの再生を見たら直ちにshoot elongation培地に移した方がよい。
  3. 共存培養後の最初の 3-7 日間をselection なしのカルス培地におくことが行われているが (Stiller et al.、1997; 投稿中) 、我々の経験ではその必要はない。
  4. Gifu はアグロバクテリウムのstrain をあまり選ばない。AGL1 がベストと言われており、実際多くのグループはこれを用いている。しかし我々の経験ではLBA4404 とそれほどの違いはない。また、EHA101(または105) や、GV3101 も使用されており、問題はないと思われる。
  5. 植物の形質転換のためのバイナリベクターとしてCAMBIA 社 (オーストラリア) が 29 種のベクターキットを提供しており、G418 またはHygromycin 選抜を行う場合にはこれが便利である。
  • AGL1の入手先:
Robert A. Ludwig <ludwig@darwin.ucsc.edu >
Professor, Biochemistry & Molecular Biology Sinsheimer Laboratories
University of California Santa Cruz, CA 95064, USA
  • CAMBIAベクターキットの入手方法:
http://www.cambia.org.au/main/index.htm

[edit] 解説

  1. 少ない数の種子で丁寧に行うことが大事。慣れればほぼ100%の種子が発芽する。種子滅菌法については、「ミヤコグサの基本実験系マニュアル」をあわせ参照のこと。
  2. プラスチック棒などでよく攪拌し気泡をのぞくとともに、固まっている種子をほぐす。 20 分後、硫酸をピペットで除き、大量の滅菌水で5回程度リンスしてから次のステップに移る。
  3. Falcon2070チューブなどを使い、 400-600 粒の種子に対して 25 ml 位を用いる。次亜塩素酸ソーダは古くなると有効塩素濃度が下がるので注意が必要。冷蔵庫に保存しあまり古くなったものは使わないか、濃度を濃くすることがよい。十分な滅菌が出来ない場合には、次亜塩素酸ソーダの前に 95 % エタノールで 30 秒程度処理すると改善される場合がある。
  4. 20分の洗浄後、水が黄色くならなくなるまで繰り返せばよい。
  5. 暗黒下 3 日間、連続照明 3 日間の方がよいかもしれない。しかし、Stillerらは全く光を与えていない。
  6. 菌は通常グリセロールストックから植菌する。培地のほぼ全面高密度に画線する。YMBにけんだくする際は、時々手で振り混ぜながら 20 分程度かけて菌を均一に分散させる。菌によっては分散に時間がかかる場合がある。菌の密度は 108-109 /ml 。しかし、液体培養の方が菌の密度をそろえ易いと考えられる。その場合は 2 晩YEPでmini-cultureしてstationary-phaseに達した菌液の、たとえば 50 μl を 4 ml のYEPに植菌して、 24 時間後の菌 (集菌して4-5 ml のWMBにけんだく) を用いるなどのやり方がある。
  7. Stougaardらの方法では連続明条件であり、実際連続明条件でも形質転換は行える。しかし、Stillerらは、 23 ℃、明/暗条件を推奨している。温度や光の条件は、グロースキャビネットによっても違う可能性があるので、試行錯誤によって最適条件を決めていくしかない。
  8. このとき、培地上に静かにおく。埋め込んだり、培地上で擦ったりすると組織が褐変化する率が高くなる。なお、ここから後はサージカルテープでシールしてもよい。
  9. 緑色のカルスが 1 mm 以上の大きさになったら、出来るだけ早く褐変化した組織と切り離す〔このステップはとても重要〕。
  10. 緑色カルスが形質転換体であることが確信できれば、あるいはカルス培地で 5 週間以上selectionされていれば、再分化培地から抗生物質を除いてもよい。そうでない場合は、最初の 2 週間はselectionを続ける必要があるかもしれない。この辺の加減は、カルス培地での抗生物質の濃度などにより、ケースバイケースである。
  11. 通常カルスの一部または全体が濃緑色になり、shootが分化し始める。再分化が始まったら次のshoot elongationに移る。再分化には 7 週以上かかる場合もある。再分化はミヤコグサ形質転換法のうちでもっとも問題の多い部分であり、効率は実験によってばらつきが大きい。再分化すれば、ほぼ 100 % が再生個体に至ると考えてよい。
  12. 1 つのカルスから数本のshootが出るので、それらをすべてroot induction培地に移すが、同一のカルス由来の個体はまとめて、他のものと識別できるようにしておく。
  13. 切り口がカルス化するが、この段階で発根はしないのがふつう。しかし誘導は 10 日間で充分。
  14. 直径約 6 cm 、高さ約 7 cm のプラスチック製プラントボックスの蓋に直径 5 mm 程度の穴をあけ、そこに通気用のテフロンシール (ミリポア) を貼る。やや小さいが通気用シールを貼ったものが市販されている (イワキ) 。)
  15. 角形プラントボックス (イワキ等) の底に直径約 7 mm の穴をあけ、綿製ロープを通し、別のボックスと 2 段重ねにする。下のボックスに培地を入れ、上のボックスをバーミキュライトで充たす。培養液はアルコールランプの要領で供給される。
  16. 1 ポットに 8-12 個体移植できるが、同じカルス由来の個体ごとに 1 ポットにまとめる。
  17. 培地はNiftal (B & D)の 1/2 を用いる。窒素を加えるが、無窒素で根粒菌接種の方が生育がよいことが多い。
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