Aritalab:Lecture/NetworkBiology/Diffusion
(→Kolmogorov 微分方程式) |
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==Kolmogorov 微分方程式== | ==Kolmogorov 微分方程式== | ||
− | + | コルモゴロフ微分方程式には前向きと後ろ向きがあります。遷移確率が移動先(未来)の状態、あるいは移動元(過去)の状態を用いて記述されるかの違いです。平均と分散の収束先である係数 a(y,t), b(y,t) を時間に非依存としてそれぞれ a(y), b(y) として書いています。 | |
*前向き方程式: (y,s) を用いて記述 | *前向き方程式: (y,s) を用いて記述 | ||
− | : <math>\textstyle \frac{\partial p(y,s;x,t)}{\partial s} = - \frac{\partial [a(y | + | : <math>\textstyle \frac{\partial p(y,s;x,t)}{\partial s} = - \frac{\partial [a(y)p(y,s;x,t)]}{\partial y} + \frac{1}{2} \frac{\partial^2[b(y)p(y,s;x,t)]}{\partial y^2}</math> (Fokker-Planck 等式とも呼ばれる) |
*後ろ向き方程式: (x,t) を用いて記述 | *後ろ向き方程式: (x,t) を用いて記述 | ||
− | : <math>\textstyle \frac{\partial p(y,s;x,t)}{\partial t} = -a(x | + | : <math>\textstyle \frac{\partial p(y,s;x,t)}{\partial t} = -a(x)\frac{\partial p(y,s;x,t)}{\partial x} - \frac{1}{2}b(x)\frac{\partial^2 p(y,s;x,t)}{\partial x^2}</math> |
以下のChapman-Kolmogorov等式と | 以下のChapman-Kolmogorov等式と | ||
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</math> | </math> | ||
ここで両辺を Δ t で割って Δ t → 0 とおけば後ろ向きの微分方程式が得られます。 | ここで両辺を Δ t で割って Δ t → 0 とおけば後ろ向きの微分方程式が得られます。 | ||
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+ | コルモゴロフ微分方程式が解を持つかどうかは、係数 a(x), b(x) や空間に依存します。ある位置で b(x) = 0 が成り立つ場合、式は singular と呼ばれ、空間全体 (-∞, ∞) で解を持つことはありません。解を持つには b(x) > 0 であることが必要です。 | ||
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+ | ある領域 (r<sub>1</sub> , r<sub>2</sub>) で如何なる点へもその他の点から移動可能な場合、regular といい(既約なマルコフ連鎖に相当)、その場合を考えましょう。境界 r<sub>i</sub> は到達可能な場合と到達不可能な場合があり、 | ||
+ | * 到達可能 (accessible) | ||
+ | ** regular ... 反射壁のように移動を続けられる | ||
+ | ** exit ... 吸収状態に同じ | ||
+ | * 到達不可能 (inaccessible) | ||
+ | ** natural ... 確率的に移動できない (例えば無限遠点) | ||
+ | ** entrance ... スタート地点だがここには戻れない | ||
+ | に分けられます。 | ||
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+ | ====例 8.2 ==== | ||
+ | : a (x) = α x , b (x) = β x の場合 | ||
+ | 前向きコルモゴロフ微分方程式は | ||
+ | : <math>\textstyle \frac{\partial p}{\partial t} = - \alpha \frac{\partial [xp]}{\partial x} + \frac{\beta^2}{2} \frac{\partial^2(xp)}{\partial x^2} \ \ x \in (0, \infty)</math> | ||
+ | となり、指数的な増加(減少)プロセスになります。平均値 μ<sub>X</sub>(t) の時間変化を計算すると <math>\frac{d \mu_X}{dt} = \alpha \mu_X (t) </math> となるので、これを解くと <math>\mu_X(t) = x_0 e^{\alpha t}</math>、つまり平均値は指数的に増加します。これは、出生過程と似たプロセスです。 |
Latest revision as of 14:32, 27 June 2012
Contents |
[edit] ランダムウォークとブラウン運動
数直線上で原点から出発するランダムウォークが左(負の方向)にいく確率を q 右(正の方向)にいく確率を p とします。ここで p + q = 1 です。時刻 t において位置 x にいる確率を u ( x , t ) と書いて漸化式を作ると
となります。ここで Δx が歩幅、Δt が単位時間です。この式で右側をテイラー展開してみます。
u( x , t ) を移項して全体を Δ t で割ります。
ここで以下の収束条件を仮定します。
式を書きなおすと
このとき、離散時間のランダムウォークから話を始めましたが u ( x , t ) は連続時間・連続位置の確率分布関数になっています。これをドリフトつき拡散方程式と呼びます。また、前向きのコルモゴロフ微分方程式とも呼ばれます。
p = q = 1/2 のとき、c = 0 となります。この場合をブラウン運動と呼びます。さらに D = 1 のとき、標準ブラウン運動、またはウィーナー過程と呼びます。
この方程式を解くには初期条件が必要です。時刻 0 において確率 1 で位置 0 にいると仮定すると、解は平均が ct 分散が Dt の正規分布になります。
ここで上記の収束条件は重要です。分散と平均が有限値に収まるためには c, D が有限値に収束しなくてはなりません。
[edit] 拡散過程
連続時間の確率過程 { X(t) : t ∈ [ 0, ∞ ) } における次状態が、現在の状態にのみ依存する場合をマルコフ過程と呼びます。
時刻 t で状態 x から、時刻 s で状態 y に遷移したとき、その確率密度関数を p ( y, s; x, t ) とかきます。ここでは時間について一様 (homogenious) であることを仮定します。
- p ( y, s + Δt; x, t + Δt) = p ( y, s; x, t )
つまり Δ 時間ずらしても遷移に影響はありません。連続時間のマルコフ過程が如何なる ε >0 に対しても次の条件を満たすとき、それを拡散過程と呼びます。
1.
- (微小時間 Δ t における、ε近傍より大きな移動は無視できる)
2.
- (微小時間 Δ t における移動距離の平均値は a)
3.
- (微小時間 Δ t における移動距離の分散は b)
これらの式はより条件の厳しい以下の式から導けます。
1'. for some δ > 2
2'.
3'.
この式は平均や分散を使って y - x = ΔX(t) と書きなおせば
1'. for some δ > 2
2'.
3'.
となります。条件 1'は ε近傍も含めて 3 次以上の項が 0 になることを示しています。また ε 近傍より大きなところでは
が成立するので、2'および3'が成立する際には収束する成分は ε 近傍内に限られます。
[edit] Kolmogorov 微分方程式
コルモゴロフ微分方程式には前向きと後ろ向きがあります。遷移確率が移動先(未来)の状態、あるいは移動元(過去)の状態を用いて記述されるかの違いです。平均と分散の収束先である係数 a(y,t), b(y,t) を時間に非依存としてそれぞれ a(y), b(y) として書いています。
- 前向き方程式: (y,s) を用いて記述
- (Fokker-Planck 等式とも呼ばれる)
- 後ろ向き方程式: (x,t) を用いて記述
以下のChapman-Kolmogorov等式と
という式を使って z についてテーラー展開します。
ここで両辺を Δ t で割って Δ t → 0 とおけば後ろ向きの微分方程式が得られます。
コルモゴロフ微分方程式が解を持つかどうかは、係数 a(x), b(x) や空間に依存します。ある位置で b(x) = 0 が成り立つ場合、式は singular と呼ばれ、空間全体 (-∞, ∞) で解を持つことはありません。解を持つには b(x) > 0 であることが必要です。
ある領域 (r1 , r2) で如何なる点へもその他の点から移動可能な場合、regular といい(既約なマルコフ連鎖に相当)、その場合を考えましょう。境界 ri は到達可能な場合と到達不可能な場合があり、
- 到達可能 (accessible)
- regular ... 反射壁のように移動を続けられる
- exit ... 吸収状態に同じ
- 到達不可能 (inaccessible)
- natural ... 確率的に移動できない (例えば無限遠点)
- entrance ... スタート地点だがここには戻れない
に分けられます。
[edit] 例 8.2
- a (x) = α x , b (x) = β x の場合
前向きコルモゴロフ微分方程式は
となり、指数的な増加(減少)プロセスになります。平均値 μX(t) の時間変化を計算すると となるので、これを解くと 、つまり平均値は指数的に増加します。これは、出生過程と似たプロセスです。