ミヤコグサ形質転換マニュアル
- モデル植物としてのミヤコグサLotus japonicus は、マメ科植物における数少ないstableな形質転換系を提供するものです。Agrobacteriumを用いた基本的な形質転換法は1992年デンマークAarhus大学のグループによって確立されましたが(Handberg and Stougaard, 1992)、その後、当時この研究室のメンバーであったJiri Stillerらによって改訂されたプロトコルが提案され(Stiller et al., 1997)、またAarhusのグループも改訂された方法を発表しており(Thykjaer et al., 1998)、現在多くの研究室がこれらのプロトコルによって実験を行っています。
- 以下のミヤコグサ形質転換マニュアルは、Aarhus大学の研究室の最近のプロトコルと、その後のJiri Stillerらによる改訂プロトコルをもとにし、それぞれのグループから入手したいくつかの最近のノウハウを付け加えて、現在私たちの研究室で行っている方法を整理したものです。大筋はJiri Stillerらによる改良法に準拠しています。
- ミヤコグサ形質転換はその効率、安定性、必要時間などの点からみて、たとえばアラビドプシスやイネ等に匹敵するほどに容易であるとはいえません。特に再生効率や、方法の安定性(再現性)、再生個体を得るまでの時間等の面で、今後さらに改良が必要だと思います。また、比較的高頻度に培養変異が起こると思われることから、in-planta法の確立を含めて今後検討が行われるべきでしょう。
- In vitroの培養を含む形質転換法は、材料となる植物の培養条件や、グロースキャビネットその他の様々な条件のわずかな違いによって微調整が必要で、それぞれの研究室で実際の条件に応じた最適化の工夫が必要だと思われます。しかし、以下のプロトコルが、これから形質転換実験を始めようとする方に、一応のスタンダードを提供するものとなれば幸いです。疑問点、質問など、またどんな細かい点でも、このプロトコルの改良のための示唆を期待し歓迎します。
- この方法は、主としてAhGifuAhを材料として最適化したものです。MG-20についても、BAP濃度の変更を要しますが、一応は適用できます。しかしいまのところ、MG-20では不稔などの培養変異に基づくと思われる異常の頻度が高いために、よい結果が得られていません。
- なお、ミヤコグサの種子滅菌法や栽培法、培地組成、交配法等に関して、今泉温子氏による「ミヤコグサの基本実験系マニュアル」が公開されていますので、併せて参考にしていただければと思います。
試薬
- B5 Vitamin (1000x)
- B5 Vitamin Stock (Sigma: #G1019) 1000x
- 滅菌済みだが、0.22μm メンブレンフィルターで濾過し、1mlずつ分注して-20℃に保存。
- フィルター滅菌には、注射器とDISMIC (ADVANTEC, 0.22μm)などを用いる(作業はクリーンベンチ内)。以下同様。
- 1M MES pH5.2
- MES 21.3g を約80mlの滅菌水に溶かす。
- 1M NaOHでpH 5.2とし、100mlに定容する。
- フィルター滅菌し、1.5mlずつに分注して-20℃に保存。
- BAP (1mg/ml)
- BAP (Sigma: #B-9395) 50mgを1mlの1M NaOHに溶かし、滅菌水で50mlとする。
- フィルター滅菌し、1mlずつに分注して-20℃に保存。
- または、BAP solution (Sigma: #B3274, 1mg/ml)をフィルター滅菌し、1mlずつに分注。
- NAA (1mg/ml)
- NAA (Sigma; #N-0640) 50mg を24mlの95% EtOHに溶かし、滅菌水で50mlとする。
- またはNAA solution (Sigma: N1641, 1mg/ml)。
- フィルター滅菌し、1mlずつに分注して-20℃に保存。
- 4M (NH4)22SO4
- (NH4)22SO4 26.4g を50mlの滅菌水に溶かす。
- フィルター滅菌し、1.5mlずつに分注して-20℃に保存。
- G418 (50mg/ml)
- Geneticine solution (Sigma #G-7014, 50mg/ml)
- フィルター滅菌し、1mlずつに分注して-20℃に保存。
- Hygromycin B (10mg/ml)
- Hygromycin B (Sigma: #H-9773) 250mg を16mlの滅菌水に溶かす。(純度は通常70%くらい。ロットにより違う)
- フィルター滅菌し、1mlずつに分注して-20℃に保存。
- またはHygromycin B solution (Sigma: H5527, 50mg/ml)を用いる(純度は50%以上)。
- Cefotaxime (30mg/ml)
- Cefotaxime (Sigma: #C-7912) 3 g を100mlの滅菌水に溶かす。
- フィルター滅菌し、10mlずつ#2059に分注して-20℃に保存。
- Acetosyringone (20mg/ml)
- Acetosyringone (Aldrich #D134406) をDMSOに20mg/mlになるように溶かす。
- フィルター滅菌し、1mlずつに分注して-20℃に保存。
アグロバクテリウム用培地
- YEP寒天培地(注1)
YE |
10g
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Peptone |
10g
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NaCl |
5g
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- を1000mlの水に溶かす。
- 寒天1.5gを200mlメジューム瓶にとり、YEPを100mlずつ分注。
- オートクレーブして、室温に保存。
- 使用に際して、電子レンジで溶かす。
- 60℃程度に冷えてから、必要な抗生物質を加える。
Kanamycin |
100μg/ml
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Tetracyclin |
5μg/ml
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Rifampicin |
100μg/ml
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Spectinomycin |
100μg/ml
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Carbenicilin |
100μg/ml
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Gentamycin |
100μg/ml
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- クリーンベンチ内で、9cmプレート6-8枚に注いで固める。
- YMB液体培地
Mannitol |
1.0g
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YE |
0.2g
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MgSO4.7H2O |
0.1g
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NaCl |
0.05g
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- を500mlの水に溶かし、100mlずつに分注してオートクレーブ、室温に保存。
- 用事、1mlの0.3Mリン酸カリウム緩衝液(pH6.8)を加える。
0.3M K2HPO4/KH2PO4 (pH6.8)
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K2HPO4 |
2.59g
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KH2PO4 |
2.05g
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- を水にとかし100mlとする。オートクレーブ。
(注1) LB培地でも可。
植物用培地
- Co-cultivation培地
- (1/10 B5, BAP 0.5μg/ml, NAA 0.05μg/ml, MES5.2 5mM, Acetosyringone 20μg/ml)
- B5 basal salts (Wako: #399-00621) 0.33 g を1000mlの水に溶かす。
- 250mlボトルに200mlずつ分注し、オートクレーブ、室温保存(1/10 B5)。
- 使用時、次のものを加える。
1000x Vitamin stock |
20μl |
(0.1x)
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NAA (1mg/ml) |
10μl |
(0.05μg/ml)
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BAP (1mg/ml) |
100μl |
(0.5μg/ml)
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1M MES (pH5.2) |
1.00ml (5mM)
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Acetosyringone (20mg/ml) |
200μl |
(20μg/ml)
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- Callus培地およびShoot Induction培地
- (1x B5, 2% sucrose, BAP 0.5μg/ml, NAA 0.05μg/ml, 10mM NH4, 0.3% phytagel)
B5 basal salts |
1.66g
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sucrose |
10g
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- を500mlの水に溶かす。
- 1N NaOHでpH5.5に調整する。
- 1.5gのphytagelを加えてオートクレーブ。
- 熱いうちに
4M (NH4)2SO4 |
625μl |
(10mM NH4+)
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- を加える。
- 70℃以下に冷やしてから、次のものを加える。
1000x Vitamin stock |
500μl |
(1x)
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NAA (1mg/ml) |
25μl |
(0.05μg/ml)
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BAP (1mg/ml) |
250μl |
(0.5μg/ml)(注2)
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cefotaxime (30mg/ml) |
5ml |
(300μg/ml)
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- Selection(注3)
G418 (50mg/ml) |
100-200μl/500ml |
(10-20μg/ml)
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HygromycinB (10mg/ml) |
0.75-2ml/500ml |
(15-40μg/ml)
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- Shoot Elongation培地
- (1x B5, 2% sucrose, BAP 0.2μg/ml, 0.3% phytagel)
B5 basal salts |
1.66g
|
sucrose |
10g
|
- を500mlの水に溶かす。
- 1N NaOH でpH5.5に調整する。
- 1.5gのphytagelを加えてオートクレーブ。
- 70℃以下に冷やしてから、次のものを加える。
1000x Vitamin stock |
500μl |
(1x)
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BAP stock (1mg/ml) |
100μl |
(0.2μg/ml)
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cefotaxime (30mg/ml) |
2.5ml |
(150μg/ml)
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- Root induction培地
- (1/2 B5, 1% sucrose, 0.5μg/ml NAA, 0.4% phytagel)
B5 basal salts |
0.83g
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sucrose |
5g
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- を500 mlの水に溶かす。
- 1N NaOH でpH5.5に調整する。
- 2.0gのphytagelを加えてオートクレーブ。
- 70oC以下に冷やしてから、次のものを加える。
1000x Vitamin stock |
250μl |
(0.5x)
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NAA stock (1mg/ml) |
250μl |
(0.5μg/ml)
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- Root Elongation培地
- (1/2 B5, 1% sucrose)
B5 basal salts |
0.83g
|
sucrose |
5g
|
- を500 mlの水に溶かす。
- 1N NaOH でpH5.5に調整する。
- 2.0gのphytagelを加えてオートクレーブ。
- 70oC以下に冷やしてから、次のものを加える。
1000x Vitamin stock |
250μl |
(0.5x)
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- (注2)GifuではBAP濃度1.0μg/mlの方がよい場合がある。しかし、MG20はBAPに弱いので、カルス培地、再分化培地ともに、0.2μg/mlがよい。
- (注3)Selectionのための最適な抗生物質濃度は、実験的に決める。特にHygromycinは純度が低く一定しないのでロットごとにkill-curveを作って確認する必要がある。Shoot inductionでのselectionはオプションである。カルス培地で5週以上のselectionが行われていれば、shoot inductionは抗生物質なしでよい。あるいは最初の2週だけselectionを続けてもよい(Stiller et al., 1997)。抗生物質の存在は、多かれ少なかれ再分化を遅らせ,再生効率を低下させる。
- Kill-curveの作り方:
バイナリベクターを含まないAgrobacteriumを用いて形質転換と同じ操作を行い、3週間の選抜で100%の胚軸切片を殺す最小の抗生物質濃度を決める。Stougaardによればこの最小濃度の2倍を用いる。しかし、Stillerらはこの最小濃度を用いている。我々の経験では、カルス培地でのselectionは最小濃度の4-6培とやや高い濃度で行い、再分化培地ではselectionを行わないのがよい。この場合いくらかescapeが出ることは避けられないが、全体としてよい結果が得られる。目安となる濃度は、Hygromycinが40 μg/ml、G418では25 μg/ml。