Aritalab:Lecture/Biochem/Isomer

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光学異性

炭素は 4 本の結合手を持ち、安定な状態では正四面体構造をとります。( 4 本の結合手が正四面体の各頂点に向かうと考えます。)結合手の先にいずれも異なる相手がいる場合、空間配置は 2 通り考えられます。この違いは結晶にしたとき光を旋回させる向きが異なるため、光学異性と呼びます。また、この炭素を不斉炭素やキラル炭素(chiralは、ギリシャ語の手cheirが語源)と呼びます。不斉炭素によって生じる 2 通りの空間配置は互いに重ね合わせられない右手と左手の関係をつくり、鏡像異性体(enantiomer)と呼ばれます。

光学異性体を簡潔に表現する方法がEmil Fischerによる投影図法や透視式です。Fischer図法では、横の結合が紙面の手前、縦の結合は紙面の奥にあると考えます。透視式では、紙面の手前にある結合を黒いくさび、紙面の奥にある結合を点線で表します。

D体とL体の定義

生化学でよく出てくるD体、L体という表記は、不斉炭素を持つ最も簡単な糖であるグリセルアルデヒドを標準物質とします。以下に示した D と L がその「定義」になります。 正式にはD L は一段小さいフォントで書かねばならないのですが、このウェブサイトでは文字サイズをいちいち変えるのが面倒なため、全て同じサイズで書いています。

D-glyceraldehyde.gif L-glyceraldehyde.gif

R体とS体の定義

有機化学ではCahn-Ingold-Prelog順位側と呼ばれるRS記法が使われます。不斉炭素を中心にして、原子番号が一番小さいものを向こう側にしてみたとき、残りの 3 つの結合手について原子番号が大きいものから小さいものへたどったとき(重い順に並べたとき)、時計回りに並ぶ場合が R (rectus)、反対回りの場合が S (sinister)になります。 側鎖についている原子が同じ場合、その原子についている側鎖の原子に基づいて順番を決定します。例えばL-serineの場合、不斉炭素には側鎖としてN, H, C, Cが結合しています。2つのCの順序はCにOが 2 個ついているCOOHのほうが大きい(重い)とみなします。よって-NH2, -COOH, -CH2OHの順にたどり、左回りなのでS体となります。 L-glyceraldehydeの場合、-C=O基と-CH2OH基の比較が生じます。二重結合の場合、-C=Oを、-C(-O)Oとみなす(単結合2本とみなす)というルールのため、L-serineと同じくS体となります。

L-serine.gif L-glyceraldehyde.gif

メソ体

不斉炭素を二つ以上もち、鏡像体と重ね合わせられる構造をメソ体といい、光を旋回させる性質を失います。つまり、分子構造全体としてキラリティを失います。例えば酒石酸(tartaric acid)は不斉炭素を2つ持ち、それらのキラリティが(S,S), (R,R), (S,R), (R,S)の 4 通り考えられます。このうち(S,R)と(R,S)は重ね合わせることができ(つまり同じ立体構造を持つ)、メソ体です。立体構造としては 3 通りあることになります。ちなみに、酒石酸水素カリウムは料理の世界でクレーム オ タータ(フランス語)と呼ばれ、卵白を泡立てる際の安定剤として使われます。天然にはワインの沈殿に結晶として得られ、(R,R)体がほとんどです。

幾何異性

炭素が二重結合を一つ持つときは、平面状の三角形構造をとると考えます。二重結合は単結合と異なり回転することができないので、cis, transという位置関係が生じます。二重結合に対して同じ側にある場合をcis, 反対側にある場合をtransと呼びます。 記法では同じ側にあるものをZ (ドイツ語のzusammenより)、反対側にある場合をE(ドイツ語のentgegenより)と書く場合があります。

Fumaric acid.gif Maleic acid.gif

cis-transの関係にある異性体を、幾何異性体と呼びます。

糖におけるDとL

炭素を3つ含んだグリセルアルデヒドのDとLはわかりました。炭素を 4 つ以上もつ糖の場合、グリセルアルデヒドと同様にアルデヒドを上に配置した状態でFischer投影図を描いたときに、アルデヒドから一番遠くなる不斉炭素を標準炭素原子とします。この炭素がグリセルアルデヒドと同じ向きにあるものをD系列、そうでないものをL系列と定義します。

D-glyceraldehyde.gif D-erythrose.gif D-ribose.gif

糖のαとβ

グルコースの構造では、alpha-D-glucose, beta-D-glucoseといった表記を見うけます。糖のアルデヒドがピラノース構造(6 員環)をとるとき、アルデヒドであった炭素(グルコースの場合 1 位の炭素)が不斉炭素となり、 2 通りの結合方法があります。この 1 位の炭素の水酸基がD-glucoseの D を決める標準炭素と同じ側にある場合をα、反対にある場合をβと呼びます。

File:D-glucose.gif Alpha-D-glucose.gif File:Beta-D-glucose.gif
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