Aritalab:Lecture/Algorithm/CooksTheorem

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==クックの定理==
 
==クックの定理==
クックは1971年に論理式の充足可能性問題がNP完全であることを証明しました。
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クックが1971年に証明した、論理式の充足可能性問題がNP完全であることを解説します。
 
;参考文献 : Garey MR, Johnson DS "Computers and Intractability" ''WH Freeman & Co.'' 1979
 
;参考文献 : Garey MR, Johnson DS "Computers and Intractability" ''WH Freeman & Co.'' 1979
  
 
==論理式の充足可能性問題==
 
==論理式の充足可能性問題==
ブール変数の集合 U = { u<sub>1</sub>, u<sub>2</sub> ... u<sub>m</sub> } に対する真偽の割り当て t: U &rarr; {T, F} を考えます。変数が m 個あれば、割り当てパターンは 2<sup>m</sup> 通りあります。
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ブール変数の集合 U = { u<sub>1</sub>, u<sub>2</sub> ... u<sub>m</sub> } に対する真偽の割り当て U &rarr; {T, F} を考えます。変数が m 個あれば、割り当てパターンは 2<sup>m</sup> 通りあります。
U に含まれる複数個のブール変数 u またはその否定 ¬u を &or; (or) でつないだものを節といいます。
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U に含まれる複数個のブール変数 u またはその否定 ¬u を論理和 (or) &or; でつないだものを節といいます。
 
節が真になるとき、その節は充足されたといいます。
 
節が真になるとき、その節は充足されたといいます。
 
例えば{ u<sub>1</sub>, ¬u<sub>2</sub>, u<sub>3</sub> } という節は、 u<sub>1</sub> = F かつ u<sub>2</sub> = T かつ u<sub>3</sub> = F でない限り充足されます。(充足する真偽の割り当ては7パターンあります。)
 
例えば{ u<sub>1</sub>, ¬u<sub>2</sub>, u<sub>3</sub> } という節は、 u<sub>1</sub> = F かつ u<sub>2</sub> = T かつ u<sub>3</sub> = F でない限り充足されます。(充足する真偽の割り当ては7パターンあります。)
  
節の集合 C が充足可能であるとは、C に含まれる節を全て充足するようなブール変数の集合 U に対する真偽の割り当て t が存在することをいいます。この定義を用いて、充足可能性問題 (SAT: Satisfiability Problem) は以下のように書けます。
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節の集合 C が充足可能であるとは、C に含まれる節を全て充足するようなブール変数の集合 U に対する真偽の割り当てが存在することをいいます。この定義を用いて、充足可能性問題 (SAT: Satisfiability Problem) は以下のように書けます。
  
 
:「変数の集合 U 上の節集合 C に対して、それを充足する真偽の割り当てが存在するか?」
 
:「変数の集合 U 上の節集合 C に対して、それを充足する真偽の割り当てが存在するか?」
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: C = { {¬u<sub>1</sub>, u<sub>2</sub>}, {u<sub>1</sub>, ¬u<sub>2</sub>} } は充足可能 ( u<sub>1</sub> = u<sub>2</sub> = T のとき)
 
: C = { {¬u<sub>1</sub>, u<sub>2</sub>}, {u<sub>1</sub>, ¬u<sub>2</sub>} } は充足可能 ( u<sub>1</sub> = u<sub>2</sub> = T のとき)
 
: C = { {u<sub>1</sub>, u<sub>2</sub>}, {u<sub>1</sub>, ¬u<sub>2</sub>}, {¬u<sub>1</sub>} } は充足不可能
 
: C = { {u<sub>1</sub>, u<sub>2</sub>}, {u<sub>1</sub>, ¬u<sub>2</sub>}, {¬u<sub>1</sub>} } は充足不可能
となります。充足可能性を判定するには、2<sup>m</sup> 通りに近い真偽パターンを試す以外に方法が無いと考えられています。
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となります。充足可能性を判定するには、2<sup>m</sup> 通りに近い真偽パターンを試す以外に方法が無さそうです。それゆえNP完全、クラスNPの中でも最も難しいとされる問題クラスに属しています。(ただしP &ne; NP は証明されていません。)
  
 
==Cookの定理==
 
==Cookの定理==
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| 2 p(n)<sup>2</sup> * v
 
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: r ... 初期状態 q<sub>0</sub>、受理状態 q<sub>Y</sub>, q<sub>N</sub> も含めた全状態数 |Q|
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ただし
: v ... 空白記号や入力記号も含めた、テープ記号数 | &Gamma; |
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: r ... 初期状態 q<sub>0</sub>、受理状態 q<sub>Y</sub>, q<sub>N</sub> も含めた全状態数 |Q| のこと、
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: v ... 空白記号 (b = s<sub>0</sub>とする) や入力記号も含めた、テープ記号数 | &Gamma; | のことです。
  
これらの変数を用いて次表に示す節を作成し、NDTM ''M'' の動きを規定します。
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これらの変数を用いて次表に示す6つの節グループを作成し、NDTM ''M'' の動きを規定します。
  
 
{| class="wikitable"
 
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! グループ || 意味 || 節の構成 || 変数の範囲 || 節の個数(大雑把に)
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! width="10%"| グループ
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! width="20%"| 意味
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| rowspan="2"| 状態に関する制約
 
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| rowspan="2" | ヘッド位置に関する制約
 
| rowspan="2" | ヘッド位置に関する制約
 
| 時刻 i においてヘッドはいずれかのテープ位置にある
 
| 時刻 i においてヘッドはいずれかのテープ位置にある
| { H [ t<sub>i</sub>, -p(n) ],  H [ t<sub>i</sub>, -p(n)+1 ],  ...,  H [ t<sub>i</sub>, p(n)+1</sub> ] }
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| { H [ t<sub>i</sub>, -p(n) ],  H [ t<sub>i</sub>, -p(n)+1 ],  ...,  H [ t<sub>i</sub>, p(n)+1 ] }
 
| 0 &le; i &le; p(n)
 
| 0 &le; i &le; p(n)
 
| p(n)
 
| p(n)
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| p(n) * 2 p(n) * v
 
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| ''M'' の初期設定に関する制約
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| rowspan="2"| ''M'' の初期設定に関する制約
| 初めはテープに入力 x = k<sub>1</sub>k<sub>2</sub>...k<sub>n</sub>のみ
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| 時間0の初期状態では、テープが左端でヘッドは空白記号をみている
| { Q [ t<sub>0</sub>, q<sub>0</sub> ] },  { H [ t<sub>0</sub>, 1 ] },  { S [ t<sub>0</sub>, 0, s<sub>0</sub> ] }<br/> { S [ t<sub>0</sub>, 1, k<sub>1</sub> ] },  { S [ t<sub>0</sub>, 2, k<sub>2</sub> ] },  ... { S [ t<sub>0</sub>, n, k<sub>n</sub> ] },  <br/> { S [ t<sub>0</sub>, n+1, b ] },  { S [ t<sub>0</sub>, n+2, b ] },  ... { S [ t<sub>0</sub>, p(n)+1, b ] }
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|{ Q [ t<sub>0</sub>, q<sub>0</sub> ] },  { H [ t<sub>0</sub>, 1 ] },  { S [ t<sub>0</sub>, 0, s<sub>0</sub> ] }
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| テープに入力 x = k<sub>1</sub>k<sub>2</sub>...k<sub>n</sub>のみ書かれている
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|{ S [ t<sub>0</sub>, 1, k<sub>1</sub> ] },  { S [ t<sub>0</sub>, 2, k<sub>2</sub> ] },  u... { S [ t<sub>0</sub>, n, k<sub>n</sub> ] },  <br/> { S [ t<sub>0</sub>, n+1, b ] },  { S [ t<sub>0</sub>, n+2, b ] },  ... { S [ t<sub>0</sub>, p(n)+1, b ] }
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| p(n)
 
| p(n)
 
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| 時刻 p(n) には ''M'' が状態 q<sub>Y</sub> に到達
 
| 時刻 p(n) には ''M'' が状態 q<sub>Y</sub> に到達
 
| { Q [ t<sub>p(n)</sub>, q<sub>Y</sub> ] }
 
| { Q [ t<sub>p(n)</sub>, q<sub>Y</sub> ] }
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| rowspan="2" | 状態遷移に関する制約
 
| rowspan="2" | 状態遷移に関する制約
| 時刻 i にテープ j をアクセスしなければ j の中身は i+1 に変化しない
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| 時刻 i にテープ位置 j をアクセスしない場合 j の中身はs<sub>l</sub>のまま変化しない
 
| { ¬S [ t<sub>i</sub>, j, s<sub>l</sub> ],  H [ t<sub>i</sub>, j ],  S [ t<sub>i+1</sub>, j, s<sub>l</sub> ] }
 
| { ¬S [ t<sub>i</sub>, j, s<sub>l</sub> ],  H [ t<sub>i</sub>, j ],  S [ t<sub>i+1</sub>, j, s<sub>l</sub> ] }
 
| 0 &le; i &le; p(n),  <br/> -p(n) &le; j &le; p(n)+1,  <br/> 0 &le; l &le; v
 
| 0 &le; i &le; p(n),  <br/> -p(n) &le; j &le; p(n)+1,  <br/> 0 &le; l &le; v
 
| 2 p(n)<sup>2</sup> * v
 
| 2 p(n)<sup>2</sup> * v
 
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| 時刻 i
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| 時刻 i における状態遷移が &delta;(q<sub>k</sub>,s<sub>l</sub>) = (q<sub>k'</sub>,s<sub>l'</sub>,&Delta;) で表現される
 
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| { ¬H[ t<sub>i</sub>, j ], ¬Q[ t<sub>i</sub>, q<sub>k</sub> ], ¬S[ t<sub>i</sub>, j, s<sub>l</sub> ],<br/> H[ t<sub>i+1</sub>, j + &Delta; ] }<br/>{ ¬H[ t<sub>i</sub>, j ], ¬Q[ t<sub>i</sub>, q<sub>k</sub> ], ¬S[ t<sub>i</sub>, j, s<sub>l</sub> ],<br/> Q[ t<sub>i+1</sub>, q<sub>k'</sub> ] } <br/>{ ¬H[ t<sub>i</sub>, j ], ¬Q[ t<sub>i</sub>, q<sub>k</sub> ], ¬S[ t<sub>i</sub>, j, s<sub>l</sub> ],<br/> S[ t<sub>i+1</sub>, j, s<sub>l'</sub> ] } <br/>
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| 0 &le; i < p(n),<br/>-p(n) &le; j &le; p(n) + 1,<br/>0 &le; k &le; r,<br/>0 &le; l &le; v
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| 6 * p(n)<sup>2</sup>* r * v
 
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Revision as of 12:12, 1 November 2010

クックの定理

クックが1971年に証明した、論理式の充足可能性問題がNP完全であることを解説します。

参考文献 
Garey MR, Johnson DS "Computers and Intractability" WH Freeman & Co. 1979

論理式の充足可能性問題

ブール変数の集合 U = { u1, u2 ... um } に対する真偽の割り当て U → {T, F} を考えます。変数が m 個あれば、割り当てパターンは 2m 通りあります。 U に含まれる複数個のブール変数 u またはその否定 ¬u を論理和 (or) ∨ でつないだものを節といいます。 節が真になるとき、その節は充足されたといいます。 例えば{ u1, ¬u2, u3 } という節は、 u1 = F かつ u2 = T かつ u3 = F でない限り充足されます。(充足する真偽の割り当ては7パターンあります。)

節の集合 C が充足可能であるとは、C に含まれる節を全て充足するようなブール変数の集合 U に対する真偽の割り当てが存在することをいいます。この定義を用いて、充足可能性問題 (SAT: Satisfiability Problem) は以下のように書けます。

「変数の集合 U 上の節集合 C に対して、それを充足する真偽の割り当てが存在するか?」

例えばU = { u1, u2 } において

C = { {¬u1, u2}, {u1, ¬u2} } は充足可能 ( u1 = u2 = T のとき)
C = { {u1, u2}, {u1, ¬u2}, {¬u1} } は充足不可能

となります。充足可能性を判定するには、2m 通りに近い真偽パターンを試す以外に方法が無さそうです。それゆえNP完全、クラスNPの中でも最も難しいとされる問題クラスに属しています。(ただしP ≠ NP は証明されていません。)

Cookの定理

充足可能性問題 (SAT) はNP完全である

SATがNPに入ることは明らかです。正解となる論理変数の割り当てを知っていれば、節が充足されることを検証するのは簡単です(線形時間しか要しません)。 SATがNP完全であることを示すには、NPに属するあらゆる問題が、SATの一例とみなせることを示さなくてはなりません。しかし、あらゆるNP問題を逐一SATに変換していては埒が明きません。 そのかわり、非決定性チューリング機械 (NDTM) の全動作パターンを、SATで特定できることを示します。

入力文字列を x 、計算が終わるまでに必要な多項式時間ステップを p(n) (n = |X|) とします (受理状態も含めます)。 この時間内で、NDTM M = (Γ, Q, δ, x) はテープ位置 -p(n) から p(n) + 1 の内側しか処理できないことを利用します。M の状態数やテープ記号数も有限ですから、これらに関する処理を有限個の変数で記述することが可能です。

+ M の記述に用いる変数
 変数 意味 パラメータ 大雑把な個数
Q[ti, qk] 時間 i において M が状態 qkにある時に限り True 0 ≤ i ≤ p(n)
0 ≤ k ≤ r
p(n) * r
H[ti, j] 時間 i において M のヘッドが
テープ位置 j にある時に限り True
0 ≤ i ≤ p(n)
-p(n) ≤ j ≤ p(n) + 1
2 p(n)2
S[ti, j, sk] 時間 i においてテープ位置 j に
記号 sk が書かれている時に限り True
0 ≤ i ≤ p(n)
-p(n) ≤ j ≤ p(n) + 1
0 ≤ k ≤ v
2 p(n)2 * v

ただし

r ... 初期状態 q0、受理状態 qY, qN も含めた全状態数 |Q| のこと、
v ... 空白記号 (b = s0とする) や入力記号も含めた、テープ記号数 | Γ | のことです。

これらの変数を用いて次表に示す6つの節グループを作成し、NDTM M の動きを規定します。

グループ 意味 節の構成 変数の範囲 節の個数(大雑把に)
状態に関する制約 時刻 i において M はいずれかの状態にある { Q [ ti, q0 ], Q [ ti, qY ], Q [ ti, qN ], Q [ ti, q3 ], ... , Q [ ti, qr ] } 0 ≤ i ≤ p(n) p(n)
時刻 i において M は二つの状態を同時に取らない { ¬Q [ ti, qj ], ¬Q [ ti, qj' ] } 0 ≤ i ≤ p(n),
0 ≤ j < j' ≤ r
p(n) * r2/2
ヘッド位置に関する制約 時刻 i においてヘッドはいずれかのテープ位置にある { H [ ti, -p(n) ], H [ ti, -p(n)+1 ], ..., H [ ti, p(n)+1 ] } 0 ≤ i ≤ p(n) p(n)
時刻 i においてヘッドは二つの位置を同時に取らない { ¬H [ ti, j ], ¬H [ ti, j' ] } 0 ≤ i ≤ p(n),
-p(n) ≤ j < j' ≤ p(n)+1
p(n) * 2 p(n)2
テープに書く記号に関する制約 時刻 i においてテープ位置 j にはいずれかの記号 k がある { S [ ti, j, s0 ], S [ ti, j, s1 ], ..., S [ ti, j, sv ] } 0 ≤ i ≤ p(n),
-p(n) ≤ j ≤ p(n)+1
p(n) * 2 p(n)
時刻 i においてテープ位置 j は二種の記号を同時に取らない { ¬S [ ti, j, sk ], ¬S [ ti, j, sk' ] } 0 ≤ i ≤ p(n),
-p(n) ≤ j ≤ p(n)+1,
0 ≤k < k' ≤ v
p(n) * 2 p(n) * v
M の初期設定に関する制約 時間0の初期状態では、テープが左端でヘッドは空白記号をみている { Q [ t0, q0 ] }, { H [ t0, 1 ] }, { S [ t0, 0, s0 ] }  - 3
テープに入力 x = k1k2...knのみ書かれている { S [ t0, 1, k1 ] }, { S [ t0, 2, k2 ] }, u... { S [ t0, n, kn ] },
{ S [ t0, n+1, b ] }, { S [ t0, n+2, b ] }, ... { S [ t0, p(n)+1, b ] }
- p(n)
受理状態に関する制約 時刻 p(n) には M が状態 qY に到達 { Q [ tp(n), qY ] } - 1
状態遷移に関する制約 時刻 i にテープ位置 j をアクセスしない場合 j の中身はslのまま変化しない { ¬S [ ti, j, sl ], H [ ti, j ], S [ ti+1, j, sl ] } 0 ≤ i ≤ p(n),
-p(n) ≤ j ≤ p(n)+1,
0 ≤ l ≤ v
2 p(n)2 * v
時刻 i における状態遷移が δ(qk,sl) = (qk',sl',Δ) で表現される { ¬H[ ti, j ], ¬Q[ ti, qk ], ¬S[ ti, j, sl ],
H[ ti+1, j + Δ ] }
{ ¬H[ ti, j ], ¬Q[ ti, qk ], ¬S[ ti, j, sl ],
Q[ ti+1, qk' ] }
{ ¬H[ ti, j ], ¬Q[ ti, qk ], ¬S[ ti, j, sl ],
S[ ti+1, j, sl' ] }
0 ≤ i < p(n),
-p(n) ≤ j ≤ p(n) + 1,
0 ≤ k ≤ r,
0 ≤ l ≤ v
6 * p(n)2* r * v
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