Tochimoto:Scutellariae Radix
黄 SCUTELLARIAE RADIX
黄はシソ科のコガネバナScutellaria baicalensis Georgiの周皮を除いた根を基原とする。文献名に「腐腸」「内虚」などの別名があるが、これは根の根頭内部にできる黒色空洞の枯心の形態から名づけられたものである。根が黄色いことと、古書では「」は葦の仲間の植物を指しており、葦の茎が中空であることから黄色い葦の意味で名づけられたとされる。1991年に厚生省により、黄を配合する「小柴胡湯」による副作用(間質性肺炎)について、使用上の注意の記載が義務付けられた。その後、黄が原因物質である可能性が考えられ、黄が配合される漢方製剤を中心にこの記載がされている。副作用の発症に、何らか関与していると示唆されている黄は、今後の生産、品質における管理・方向性が重要な生薬であるといえる。
『日本薬局方 第15改正(JP15)』 黄:SCUTELLARIAE RADIX コガネバナ Scutellaria baicalensis Georgi(Labiatae)の周皮を除いた根と規定されている。
『中華人民共和国薬典 2005年版』 黄:RADIX SCUTELLARIAE 黄 Scutellaria baicalensis Georgi の干燥した根と規定されている。
『大韓薬典 第9改正』 황금 黄:SCUTELLARIAE RADIX 속썩은풀 Scutellaria baicalensis Georgiの根でそのまま、または周皮を除いたものと規定されている。
【市場流通品と現状】 1970年ころまでは日本国内でも生産されたことはあるが、現在は中国産の野生種と一部栽培種が流通している。中国北方諸省の産地に多く産出し、その分布面積は極めて広い。以前は、河北省承徳周辺の地区のものが産出量も多く品質も優れているとされ、「熱河」と呼ばれていたが、資源の枯渇が進み、現在では生産量は極端に減少し、良質な黄も少ない。 黄の規格は、枝、枯(中に枯心のあるもの)に大別され、また条(芦頭下2cmの径1.8cm以上、長さ9cm以上)、枝(芦頭下1.5cmの径0.6cm以上、長さ9cm以上)、尖(根の先端部)、片(枯心が大部分)に細分されていた。しかし、資源の枯渇に伴い現在は明確な規格分けはされなくなり、野生品と栽培品で区別される。 *野生黄 黄は周皮を除いた根と規定されているが、最近の流通品は周皮が残ったものが多い。これは成育年数の長い野生品では比較的容易に除くことができた周皮が、成育年数の短いものは、剥離し難いからだと考えられる。 産地は河北省以外に、内蒙古自治区西部で収穫されたものが流通している。
黄は水に浸すと、緑色に変色し、刻みの色は緑色を帯びる特徴がある。そのため、蒸すか、熱湯に浸けてから切断するように昔からいわれている。日本市場では水に浸さずにそのまま切断することが多い。これにより刻みの調剤用黄の色を、黄色に保つことができる。
*栽培黄
栽培黄は、資源の枯渇に伴い1990年代前半から日本市場に流通するようになった。流通している栽培黄は1~2年栽培が多く、周皮が未発達で、除かれていないことが多い。そこで当社では畑での管理栽培ではなく、できるだけ自然の力にまかせて行う粗放栽培によって播種後4~5年で収穫する栽培方法を行っている。粗放栽培とは、人工的に播種(種まき)を行い、その後は自然生育にまかせた栽培方法のことである。一部、除草を行う場合もある。
【生産加工状況】 *中国河北省 野生&栽培黄
*粗放栽培黄
野生黄の資源枯渇が深刻になり、栽培黄の転換をはかる必要に迫られたが、流通する栽培黄は栽培年数が1~2年で、指標成分のバイカリンなどは日局の規格に問題なかったものの、経験的鑑別では満足できるものではなかった。2004年から、より野生黄に近い品質の黄の生産を目指して粗放栽培を行っている。
Ⅰ.中国遼寧省における粗放栽培 熱河地方に似た山での栽培を検討し、一部播種後の発芽が不良のため、2年目にも播種している。約7cmの1年生苗から開花した黄など色々な成育度合の黄が見られる。無農薬、無肥料の完全な自然栽培である。
Ⅱ.中国陝西省における粗放栽培
陝西省の黄土高原は土地が痩せており、農作物の栽培に適してはいないが黄土高原の広大な土地での栽培を検討し、2006年より粗放栽培を行っている。将来的には4~5年生黄の粗放栽培の基地にしたいと考えている。
【理化学的品質評価】
TableⅠ 規格別理化学試験 DATA (灰分,酸不溶性灰分,乾燥減量,希エタノールエキス含量)
規格 検体数 灰分 6.0%以下 酸不溶性灰分 乾燥減量 12.0%以下 希エタノール エキス含量 尖 115 4.2±0.4 0.2±0.1 10.0±1.0 44.8±3.4 片 45 4.6±0.4 0.4±0.3 10.0±1.0 38.7±3.1 条 7 3.7±0.2 0.1±0.1 9.8±0.8 46.1±2.4 栽培品 7 4.2±0.2 0.2±0.1 9.6±1.3 55.7±3.6 対象:1985年~2009年市場品(一部、蒐集サンプルを含む) Mean±SD(%)
○ 灰分 : 片 > 尖,栽培品 > 条 ( p < 0.05 ) ○ 希エタノールエキス含量 : 栽培品 > 条,尖 > 片 ( p < 0.05 )
TableⅡ 規格&産地別理化学試験 DATA(灰分,酸不溶性灰分,乾燥減量,希エタノールエキス含量)
規格 検体数 灰分 6.0%以下 酸不溶性灰分 乾燥減量 12.0%以下 希エタノール エキス含量 尖:河北 67 4.1±0.3 0.2±0.1 10.1±1.0 45.8±3.0 尖:内蒙古 7 3.9±0.3 0.2±0.1 9.8±1.0 45.6±1.9 片:河北 25 4.6±0.5 0.4±0.3 10.0±1.0 38.7±3.4 片:内蒙古 2 4.0±0.3 0.2 9.6±0.4 42.4±2.1
Mean±SD(%)
baicalin含量の比較 (JP15 : 10.0%以上)
1) 規格による比較
○ 栽培品, 尖,条 > 片 ( p < 0.05 )
2) 規格と産地による比較
【内部形態:鏡検】 JP15:内部形態についての記載はない。 <生薬の性状> 本品は円すい状、半管状又は平板状で、長さ5~20cm,径0.5~3cmである。外面は黄褐色を呈し、粗雑で著明な縦じわを認め、ところどころに側根の跡及び褐色の周皮の破片を残す。上端には茎の跡又は茎の残基を付ける。老根では中心部の木部は腐朽し、またしばしばうつろとなる。質は堅いが折りやすい。折面は繊維性で黄色である。 本品はほとんどにおいがなく、味はわずかに苦い。
●野生と栽培の違い ●韓国産黄
○黄(野生)<中国河北省> ○黄(栽培) ○黄 (栽培)<韓国>
道管の配列が年輪状を呈している。 木部繊維は比較的少ない。 皮層に認められる石細胞は比較的多い。 道管の配列が放射状を呈している。 木部繊維は比較的少ない。 皮層に認められる石細胞は比較的多い。
●基原植物の違い(粘毛黄) 道管の配列が放射状を呈している。 木部繊維は比較的多い。 皮層に認められる石細胞は比較的少ない。 ○粘毛黄 <中国河北省>
道管の配列が年輪状を呈している。 木部繊維は比較的少ない。 皮層に認められる石細胞は極めて少ない。
●栽培年数による違い(試験栽培品)
○1年生(中央部) ○2年生(中央部) ○2年生(下部)
○1年生(下部)