Tochimoto:Rhei Rhizoma
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大 黄
『日本薬局方 第15改正(JP15)』
- 大黄:RHEI RHIZOMA
- Rheum palmatum Linné,Rheum tanguticum Maximowicz,Rheum officinale Baillon,Rheum coreanum Nakai またはそれらの種間雑種(Polygonaceae)の通例、根茎と規定されている。
『中華人民共和国薬典 2005年版』
- 大黄:RADIX ET RHIZOMA RHEI
- 掌叶大黄Rheum palmatum L.、唐古特大黄Rheum tanguticum Maxim. ex Balf. あるいは薬用大黄Rheum officinale Baill.の干燥した根及び根茎と規定されている。
『大韓薬典 第9改正』
- 대황 大黄:RHEI RADIX ET RHIZOMA
- 장엽대황(掌葉大黄) Rheum palmatum Linné、탕구트대황 Rheum tanguticum Maximowicz ex Balf. または 약용대황(藥用大黄) Rheum officinale Baillon の根および根茎で周皮を取り除いたものと規定されている。
『大韓薬典外生薬規格集2007年』
- 종대황 種大黄:RHEI UNDULATAI RHIZOMA
- 종대황 Rheum undulatum Linnéの根茎と規定されている。
- 中国青海省の大黄(西寧大黄)
青海省の大黄の葉の形態は、切れ込みが深いものR. tanguticumと、浅いものR. palmatumがあり、 混在しているのではないかと考えられる。
青海省果洛州達日県:海抜4050m、採集した大黄の腊葉(サクヨウ:押し葉標本):葉の切れ込みが少なく、R. palmatumではないかと推測される。
- 中国四川省の大黄(薬用大黄・雅黄)
四川省の大黄の葉の形態は、切れ込みが深いものR. tanguticumと、丸みを帯びた浅いものR. officinale があり、混在するのではないかと考えられる。
四川省若爾蓋県:海抜3450m、採集した大黄の腊葉:葉の切れ込みが深いのはR. tanguticumで、丸みを帯びた浅いものはR. officinaleではないかと推測される。
- 中国甘粛省礼県の大黄(銓水大黄)
栽培種で高山の斜面で栽培されている。4・5年生で基原植物はR. palmatum と考えられる。
- 北海道の信州大黄
武田薬品工業㈱が開発した品種で、北海道において大規模生産されている。基原植物はR. coreanum を母種としたR. palmatum との交配種で、センノシド含量が高い。
市場流通品と現状
中国産大黄は四川省の「雅黄(ガオウ)」、青海省の「西寧大黄(セイネイダイオウ)」と甘粛省の「銓水大黄(センスイダイオウ)」の3つに大別される。中国産大黄の基原植物の同定には数々の変遷があったが、日局第8改正(1971年)で「種間雑種」の記載を追加して終結した。日局第9改正(1978年)で朝鮮大黄R. coreanumが追加され、朝鮮産大黄と日本の信州大黄の流通が認められた。日本市場では「雅黄」が主に使用され、輸入される雅黄のほとんどが根茎であったが、根の流通も多くなり、日局第10改正(1981年)で薬用部位を「根茎」から「通例、根茎」と変更し根の流通を容認した。
市場の大部分が中国産の野生の大黄で、資源の枯渇が心配される生薬の1つである。中国産大黄の2008年の主な輸入先国は日本(427トン)・ベトナム(414トン)・EU(340トン)で、日本の需要は増加傾向にある。
中国産大黄
雅 黄(薬用大黄)
野生品で、四川省の九龍・富林・漢源などで産出され、雅州を集散地とするので「雅黄」と呼ばれる。軽質で馬蹄形に加工するので「馬蹄大黄(バテイダイオウ)」ともいわれる。1950年代の雅黄は肥大した根茎が多かったが、近年は小型化している。 また、雅黄は本来、軽質なものであるが、最近は重質な雅黄が多くなっている。資源の枯渇で生産地が移動したことによると考えられる。本来の雅黄の規格ではなく、重質なものを「四川大黄」として輸入されることがあるが、市場では雅黄として扱われている。
西寧大黄
青海省の貴徳・湟源・湟中などの少数民族地区で産出され、西寧を集散地とするので「西寧大黄」と呼ばれる。 1)西寧大黄:『箱黄』 箱黄は西寧大黄の規格品で、外皮は除かれ、表面の色は薄い淡黄褐色で、質は硬く、重質で内部には檳榔樹の葉状の紋があり深紅色の斑点があるのが特徴で「錦紋大黄(キンモンダイオウ)」と呼ばれる。
2)西寧大黄:『包黄』 包黄は西寧大黄の規格外品で、一般的に箱黄の規格に外れたもので、良質のものが少なく、外皮の一部が残り、内部は茶褐色が多く、深紅色の斑点も少ないのが特徴である。 近年は資源が枯渇し、良質の箱黄が少なくなり、選別をしない「統庄(トウショウ)」といわれる規格が多くなっている。
銓水大黄
甘粛省南部の礼県・銓水・西固などで栽培される大黄で「銓水大黄」と称される。檳榔樹の葉状の紋と深紅色の斑点があるが、センノシド含量が低いという特徴がある。1996年まで錦紋大黄として日本で流通していたが、日局第13改正(1996年)で定量する成分がアントラキノン誘導体からセンノシドに変更されたことにより、局方に適合しなくなり、日本市場で流通しなくなった。
朝鮮大黄&信州大黄
朝鮮大黄と信州大黄は、経験的鑑別において小型で色も濃く茶褐色であり劣品とされるが、センノシド含量が高いため、製剤原料として用いられることが多い。
調剤用 大黄
生産加工状況
西寧大黄の加工 中国青海省
西寧大黄は農民などが掘り上げた後、乾燥させるために外皮を剥ぎ、適当な大きさに切断し、屋内で紐に吊るして陰干し乾燥する。乾燥歩留は20%である。その後、充実度や内部の色などの品質によって、箱黄、包黄に加工するために研磨、皮去りなどの伝統的な加工方法が施され商品になる。
Ⅰ.箱黄の加工
「箱黄」は深紅色の斑点のある白色部分まで削り、内部も茶褐色の部分がないことが必要である。内部に茶褐色の変色部分がある場合は、「包黄」の規格に落とされる。1日に加工できる数量は5~6kg/人である。近年は資源の枯渇などで産地や品質が変化したことから乾燥した原料から10%程度しか「箱黄」規格ができない。
右の写真に示したものは、外観も良く、表面的にも斑点がある白色部分が確認でき「箱黄」に加工できそうだが、内部に大きな茶褐色の部分が確認できるため、「包黄」として扱われる。 |
Ⅱ.包黄の加工
約10カ月間乾燥した原料を穴の開いた研磨機に投入して、外観が黄色になるまで60分~90分研磨する。その後割れ目に残ったカビ、腐りなどを手作業で削るが、周皮、茶褐色部分は残す。
銓水大黄の加工 中国甘粛省
理化学的品質評価
産地 | 検体数 | 灰分 13.0%以下 |
酸不溶性灰分 | 乾燥減量 13.0%以下 |
希エタノールエキス 含量30.0%以上 |
---|---|---|---|---|---|
中国・四川 | 48 | 6.0 ±1.5 | 0.3 ±0.3 | 10.6 ±1.2 | 39.4 ±5.1 |
中国・青海 | 18 | 7.8 ±2.3 | 0.3 ±0.2 | 9.3 ±1.2 | 46.2 ±4.4 |
中国・甘粛 | 17 | 9.2 ±1.2 | 0.3 ±0.2 | 7.2 ±1.4 | 45.1 ±3.8 |
北 朝 鮮 | 3 | 6.1 ±0.2 | 0.7 ±0.2 | 9.2 ±1.9 | 47.4 ±6.0 |
日本(信州大黄) | 10 | 6.1 ±0.4 | 0.9 ±0.3 | 8.7 ±0.8 | 52.2 ±3.1 |
- 灰分
- 中国・甘粛 > 中国・青海 > 日本(信州大黄), 北朝鮮, 中国・四川 ( p < 0.05 )
- 希エタノールエキス含量
- 日本(信州大黄) > 北朝鮮, 中国・青海, 中国・甘粛 > 中国・四川 ( p < 0.05 )
産地 | 検体数 | 灰分 13.0%以下 |
酸不溶性灰分 | 乾燥減量 13.0%以下 |
希エタノールエキス 含量30.0%以上 |
---|---|---|---|---|---|
中国・四川 | 48 | 6.0 ±1.5 | 0.3 ±0.3 | 10.6 ±1.2 | 39.4 ±5.1 |
中国・青海 | 18 | 7.8 ±2.3 | 0.3 ±0.2 | 9.3 ±1.2 | 46.2 ±4.4 |
中国・甘粛 | 17 | 9.2 ±1.2 | 0.3 ±0.2 | 7.2 ±1.4 | 45.1 ±3.8 |
北 朝 鮮 | 3 | 6.1 ±0.2 | 0.7 ±0.2 | 9.2 ±1.9 | 47.4 ±6.0 |
日本(信州大黄) | 10 | 6.1 ±0.4 | 0.9 ±0.3 | 8.7 ±0.8 | 52.2 ±3.1 |
- 灰分
- 等級による有意差無し
- 希エタノールエキス含量
- 等級による有意差無し
規格 | 検体数 | 灰分 13.0%以下 |
酸不溶性灰分 | 乾燥減量 13.0%以下 |
希エタノールエキス 含量30.0%以上 |
---|---|---|---|---|---|
箱 黄 | 5 | 8.9 ±3.1 | 0.2 ±0.1 | 8.2 ±1.0 | 51.5 ±3.9 |
包 黄 | 13 | 7.4 ±1.9 | 0.3 ±0.2 | 9.8 ±0.9 | 44.2 ±2.5 |
- 灰分
- 箱黄と包黄で有意差無し
- 希エタノールエキス含量
- 箱黄 > 包黄 ( p < 0.05 )
1) 産地別比較(グラフ1上) ○ 日本(信州大黄) > 北朝鮮 > 中国・四川 > 中国・青海 > 中国・甘粛 ( p < 0.05 ) 2) 雅黄(四川)の等級別比較(グラフ1中央) ○ 等級による有意差無し 3) 西寧大黄(青海)の規格別比較(グラフ1下) ○ 包黄 > 箱黄 ( p < 0.05 ) |
内部形態:鏡検
- 生薬の性状 JP15 鏡検部抜粋
本品の横切片を鏡検するとき、大部分は柔細胞からなり、髄にはところどころに小さい環状の異常形成層があり、その内側には師部、外面には木部が形成されていて、褐色の着色物質を含む2~4列の放射組織を伴い、これが形成層環の中心から放射状に外方に向かって走り、つむじようの組織となる。柔細胞はでんぷん粒、褐色の着色物又はシュウ酸カルシウムの集晶を含む。
内部形態の比較
雅黄 <中国四川省></br>・皮部~髄 | 西寧大黄 箱黄 <中国青海省></br>・最外層(形成層より内側) | 錦紋大黄 <中国甘粛省></br>・最外層(木部より内側) |
・放線紋 | ・放線紋 | ・放線紋 |
関連生薬の内部形態
西寧大黄 包黄 <中国青海省></br>・皮部 | 朝鮮大黄 箱黄 <北朝鮮> | 羊蹄根 |
内部形態について
雅黄(四川省)
周皮付近から形成層に至る部分が削られており、皮部はほとんど認められない。(形成層の外側まで削られているものと思われる。)
西寧大黄 箱黄(青海省)
最外層についての観察では、木部は認められるものの、形成層,皮部は認められなかった。(形成層の内側まで削られているのものと思われる。)
銓水大黄(甘粛省)
最外層についての観察では、皮部・木部に由来する組織は認められなかった。(木部の内側まで削られているものと思われる。)
西寧大黄 包黄(青海省)
周皮まで削られずに残っており、大きな粘液道が観察できた。放線紋については、横切面で観察することができなかった。(木部が比較的内部に入っており、髄が小さいのではないかと思われる。)
関連生薬の内部形態について
朝鮮大黄(北朝鮮)
放線紋は認められなかった。
羊蹄根
皮部に粘液道は認められない。