Tochimoto:Bupleuri Radix

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柴  胡 BUPLEURI RADIX

柴胡はセリ科のミシマサイコ Bupleurum falcatum Linné の根を基原とする。神農本草経の上品に「胡」の原名で収載されており、は柴の古字で薪にもなることから柴胡と呼ばれた。中国市場では「硬柴胡」と「軟柴胡」があるが、日本市場では「軟柴胡」は使用しない。 本品は和解表裏・疎肝解欝薬として、解熱、鎮静、解毒、強壮を目的に小柴胡湯、柴胡桂枝湯、抑肝散加陳皮半夏などの漢方方剤に配合されている。

『日本薬局方 第15改正(JP15)』 柴胡:BUPLEURI RADIX  ミシマサイコBupleurum falcatum Linné(Umbelliferae)の根と規定されている。

『中華人民共和国薬典 2005年版』 柴胡:RADIX BUPLEURI  柴胡Bupleurum chinense DC.あるいは狭葉柴胡Bupleurum scorzonerifolium Willd.の干燥した根と規定されている。柴胡B. chinenseを“北柴胡”、狭葉柴胡B. scorzonerifoliumを“南柴胡”と称する。

『大韓薬典 第9改正』 시호 柴胡:BUPLEURI RADIX 시호 Bupleurum falcatum Linnéまたはその変種の根と規定されている。

*日局、大韓薬典のミシマサイコB. falcatumと中華人民共和国薬典の柴胡(北柴胡)B. chinenseは同種として扱われる。またこれは中国市場では「硬柴胡」と称して流通している。 *狭葉柴胡B. scorzonerifolium(南柴胡)は、日本で流通したことがない。

【市場流通品と現状】  日本産の野生の柴胡は1940年代に市場から完全に消え、栽培品か中国産の野生品が流通するようになった。1970年代は韓国から栽培品が毎年100トン以上日本に輸入されていた。現在、ミシマサイコの栽培品は、日本産と中国産で1年生と2年生がある。柴胡の栽培は本来2年生栽培であるが、近年漢方エキスメーカーの指導により、サイコサポニン含量が高く、栽培が容易な1年生栽培の柴胡が多く流通するようになっている。  中国産の野生品の硬柴胡は集散地により品種的に河北省産の「津柴胡(天津柴胡)」、湖北省周辺に産する「北柴胡※」に分けている。津柴胡はサイコサポニン含量が低いが香りが高く、北柴胡はサイコサポニン含量が高いが香りがほとんどない。  中国産柴胡(北柴胡・津柴胡)と日本産などの栽培品ミシマサイコの外観的相異点は、中国産は皮部の色調が濃く、切片で中心部が抜けているものが多いことで区別できる。

※ 前述の北柴胡と定義が異なる。前述の北柴胡は、中国市場の柴胡を大別した場合の硬柴胡のこと(硬柴胡=北柴胡)であり、広義の北柴胡のことを指す。今日の北柴胡は硬柴胡の中で産地による名称があり、湖北省周辺に産するものを北柴胡といい、狭義の北柴胡のことを指す。













 特殊な柴胡として南柴胡、竹葉柴胡があるが、日本では流通していない。ただし1950年ころ、柴胡が不足したため、韓国産の竹柴胡が輸入されたことがあるが、烏頭が混入し、大きな問題となった。







【生産加工状況】 *日本におけるミシマサイコ栽培

*ミシマサイコの調製   Ⅰ.地上部を刈り取った後、根を掘り上げ、水洗する。    2年生は細根が少なく、水洗・乾燥時に自然に落ちる。    1年生は細根が多く、細根を落とさないように水洗する。  Ⅱ.根に残っている地上部を切り取り、天日で乾燥する。

*中国におけるミシマサイコの栽培・調製は、日本の栽培方法と基本的に同じである。


*中国における野生柴胡 【理化学的品質評価】

TableⅠ 産地 or 規格別理化学試験 DATA

規 格 検体数 灰分 6.5%以下 酸不溶性灰分 2.0%以下 乾燥減量 希エタノールエキス含量 11.0%以上 日本ALL 139 4.5±0.9 0.7±0.7 10.2±4.2 26.9±3.9 中国・北柴胡 107 5.4±0.5 1.2±0.3 9.0±1.2 15.4±2.2 中国・津柴胡 59 5.4±0.5 1.7±0.4 8.8±1.1 16.4±1.7 中国・栽培ミシマサイコ 18 4.6±0.5 0.9±0.3 10.3±1.8 26.9±3.3

規 格 検体数 saikosaponin a+d 0.35%以上 saikosaponin a saikosaponin d 日本ALL 67 1.03±0.37 0.46±0.24 0.56±0.21 中国・北柴胡 123 1.50±0.36 0.69±0.23 0.81±0.20 中国・津柴胡 58 0.49±0.16 0.22±0.08 0.27±0.08 中国・栽培ミシマサイコ 37 1.41±0.49 0.59±0.22 0.82±0.27

対象:1985年~2009年市場品(一部、蒐集サンプルを含む)    Mean±SD(%)

○ 灰分 : 中国・北柴胡, 中国・津柴胡 > 中国・栽培ミシマサイコ,日本ALL ( p < 0.05 ) ○ 希エタノールエキス含量 : 日本ALL,中国・栽培ミシマサイコ > 中国・津柴胡 > 中国・北柴胡 ( p < 0.05 ) ○ saikosaponin a+d (JP15 総サポニン) : 中国・北柴胡,中国・栽培ミシマサイコ > 日本ALL > 中国・津柴胡 ( p < 0.05 )

TableⅡ 栽培ミシマサイコ(日本&中国)の1年生と2年生の比較

等 級 検体数 灰分 6.5%以下 酸不溶性灰分 2.0%以下 乾燥減量 希エタノールエキス含量 11.0%以上 日本・1年生 26 4.2±0.8 0.5±0.5 9.7±2.3 29.1±3.3 中国・2年生 47 4.8±0.8 0.6±0.6 9.8±2.7 26.1±2.9 中国・1年生 4 4.5±0.6 0.9±0.4 9.4±2.3 26.8±1.8 中国・2年生 11 4.7±0.4 1.0±0.2 10.5±1.8 26.8±3.8

規 格 検体数 saikosaponin a+d 0.35%以上 saikosaponin a saikosaponin d 日本・1年生 13 0.96±0.41 0.41±0.19 0.55±0.24 中国・2年生 35 1.07±0.31 0.43±0.13 0.64±0.20 中国・1年生 12 1.79±0.57 0.76±0.27 1.02±0.30 中国・2年生 19 1.29±0.31 0.52±0.14 0.77±0.18

                                                                Mean±SD(%)

○ 希エタノールエキス含量 : 日本産  1年生 > 2年生 ( p < 0.05 ) 中国産は1年生と2年生で有意差無し ○ saikosaponin a+d (JP15 総サポニン) : 日本産は1年生と2年生で有意差無し

  	中国産  1年生 > 2年生 ( p < 0.05 )
Topic 

       エーテル抽出エキス量&ヘキサン抽出エキス量の比較 規 格 検体数 エーテルエキス含量 n-ヘキサンエキス含量 日本産ミシマサイコ 4 4.38±0.30 3.73±0.42 中国・北柴胡 8 1.78±0.50 1.49±0.49 中国・津柴胡 6 2.92±0.31 2.18±0.43                                  Mean±SD(%)

○ エーテル抽出エキス量:       日本産ミシマサイコ > 中国・津柴胡 > 中国・北柴胡 ( p < 0.05 ) ○ ヘキサン抽出エキス量:       日本産ミシマサイコ > 中国・津柴胡 > 中国・北柴胡 ( p < 0.05 ) 【内部形態:鏡検】 <生薬の性状> JP15  本品は細長い円すい形~円柱形を呈し、単一又は分枝し、長さ10~20cm、径0.5~1.5cm、根頭には茎の基部を付けていることがある。外面は淡褐色~褐色で、深いしわがあるものもある。折りやすく、折面はやや繊維性である。  本品は特異なにおいがあり、味はわずかに苦い。  本品の横切片を鏡検するとき、皮部の厚さは半径の1/3~1/2で、皮部にはしばしば接線方向に長い裂け目があり、径15~35μmの胞間性離生油道がやや多数散在する。木部には道管が放射状若しくはほぼ階段状に配列し、ところどころに繊維群がある。根頭部の髄には皮部と同様の油道がある。柔細胞中にはでんぷん粒及び油滴を認める。でんぷん粒は単粒又は複粒で、単粒の径は2~10μmである。



●ミシマサイコ類(B. falcatum (広義))について  日局第15改正では、サイコの基原植物をミシマサイコ B. falcatumと規定し、中国産のB. chinenseやB. scorzonerifoliumはその地域変異と考えている。B. falcatumはヨーロッパ産の植物に付けられた名であって染色体数2n=16と報告されている。日本のミシマサイコは新日本植物誌(1992版)でB. scorzonerifolium Willd. var. stenophyllum Nakaiとされ、その染色体数2n=20、26及び32、その他かなりの頻度で異数体の存在が認められている。B. scorzonerifoliumはすべて2n=12で、B. chinenseでは2n=12及び24。  これらの葉緑体DNAについてRFLP分析が行われ、次のように結論づけられている。 1.東アジア産の植物はヨーロッパ産とは異なるグループに属する。 2.日本産の2n=26及び32は一つのグループ 3.中国産B. scorzonerifoliumは日本産 (2n=26、32) とは異なったグループを形成する。 4.中国産B. chinense (2n=12) は複数のグループに分かれる。 [天野明美ら:生薬 43(2)192(1989),太田茂樹ら:生薬学会 37回年会(千葉)講演要旨集(1990)  太田茂樹ら:生薬学会42回年会(福山)講演要旨集(1995),松本英樹ら:生薬学会 43回年会(東京)講演要旨集(1996)]  なお、日本産の2n=20のものは北九州中心に分布し、キュウシュウサイコとして区別することもある。

●年数による違い  ○ミシマサイコ(1年生)<奈良県>

 ・上部(根頭に近い部分)   ・根頭より1cm付近    ・根の中央部        ・先端部


 ○ミシマサイコ(2年生) <奈良県>

 ・上部(根頭に近い部分)   ・根頭より1cm付近     ・根の中央部        ・先端部

●個体による違い ○ミシマサイコ(1年生①)<奈良県> ○ミシマサイコ(1年生②)<奈良県> ○ミシマサイコ(1年生③)<奈良県>


●ミシマサイコの栽培における内部形態の変異 1.年数による違い 同一個体でも上部、中央部、先端部を比較すると、上部では木部繊維がよく発達し、先端部ではあまり見られない。  二年生のものでは、中央部で木部繊維が発達し、多環状になり、野生の形態に近いものとなる。  一年生と二年生は、皮層部油道の分布で鑑別することができる。

2.個体による違い ミシマサイコは同一系統の種子を播種しても形状が地域によって差が認められ、また、同じ地域でも土壌状態、水、通気などで内部形態に違いがあることが報告されている。 奈良県産の一年生の柴胡で木部繊維の発達にかなりの違いが認められる。

●天津柴胡・北柴胡                      ●大葉柴胡  ○天津柴胡(①)<中国河北省>   ○北柴胡(①)<中国湖北省>     ○大葉柴胡(根茎)<長白山>

 ○天津柴胡(②)<河北省>     ○北柴胡(②)<湖北省>      ○大葉柴胡(根)<長白山>


●中国産柴胡の内部形態について 天津柴胡①と北柴胡①は、道管の周囲に木部繊維が同心円多環状に発達している。 天津柴胡②は、道管の放射状配列が湾曲蛇行し、木部繊維は発達していない。 北柴胡②は、木部繊維がやや発達しており、それぞれ個体差が認められる。 大葉柴胡は、胴部に節がある円柱形で、中央に髄があって、根茎の形態を示している。 -北柴胡と天津柴胡の比較­-      北柴胡(中国湖北省)                   天津柴胡(中国河北省)

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