PlantBiotech:Higuchi02
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組織培養技術
- 著者:是枝一春(第一園芸株式会社 富士小山農場植物組織培養研究室)
- 出典:「植物組織培養の世界」樋口春三監修 (1990) 柴田ハリオ硝子株式会社刊
培地
培地の構成要素は表1 に示したように水、無機栄養素、有機栄養素、植物調節物質、支持体、 pHからなる.これらの因子は独立して、あるいは相互作用しあい in vitro における器官形成や植物体の再生に重要な役割を演じている。
水
培地には原則として純水が使用される。純水は蒸留器、イオン交換樹脂、活性炭、逆浸透膜等を組み合わせた純水製造装置で水道水を処理して得ることができる。純水といっても、各処理装置の組み合わせの違いで、純度が異なる。また装置の値段も、純水の単位時間当りの採取量も異なる。したがって培養体の種類や培養目的の違いによって純水の純度を使い分ける場合が生ずる。例えば生産ではイオン交換樹脂処理水で十分であるが、培地試験には活性炭、イオン交換樹脂、蒸留器で三重処理した比較的純度の高いものを使用することが必要であろう。
無機栄養素
無機栄養素は多量栄養元素と微量栄養元素に分けられる。各必須元素の培地中の濃度組成については、これまで多くの研究者が表2 に示したような既知物質による培地を既に発表している。またそれらと異なり構成要素の組成比は不明であるが、ハイポネックスを培地の無機栄養成分として使用した例がある (多田ら、 1978) 。培地開発の第一歩としては、文献を調べて自分の培養品目、培養目的、培養部位に応じて従来の培地の中から適当なものを選択し、必要に応じて改変することを勧める。これまで行われてきた培地改変例についてみると、
- 全体の塩濃度 (イオン強度)
- 窒素化合物の濃度 (炭素/窒素比)
- NH4+/NO3- 比
- Fe+ イオン濃度
- PO4- イオン濃度等
- (George & Sherrington 1984; Pierik 1987)
がある。
有機栄養素
試験管内で生育中の植物体は発芽中の幼植物に以て半独立栄養状態にある。そのため炭素エネルギー源としての糖、窒素源としてのアミノ酸、その他ビタミン塀等の有機化合物を培地に添加した方がはるかに植物体の生長が長い、
糖の中でもショ糖が頻繁に使用される。ショ糖は単に増殖量に影響を与えるだけでなく、不定根や塊茎の形成促進や水浸状再分化個体出現の抑制といった効果をもっており、培養目的に応じて濃度 2-9 % の範囲で培地に添加される。なおショ糖は浸透圧物質として培養体の吸水生長に影響を与えることも付け加えておく。培養生産の場合、市販の白砂糖やグラニュー糖で十分である。
微量成分としては、ビタミンB群、ビタミンC、グリシンおよびアデニン等が挙げられる。これらの要素についても、無機栄養素の場合と同株に数多くの培地への添加例が報告されているので、それらを参考にされたい。
また有機栄養素としてペプトン、 トリプトン等の蛋白質の部分加水分解物ならびにココナッツミルクのような天然果汁物を培地に添加する場合がある (表1) 。天然物は表3 のココナッツミルク分析例にも示したように数多くの有機栄素や植物調節物質を含んでおり、ランの培養等これらの添加がないと生育の悪いものがある。しかしながら天然物は、
- 末同定の物質を含む
- 構成要素の組成が不明である
- 原料の生理状態や保存状態等によって組成にバラツキのあることが予想される
等の特徴がある。 したがって天然物の使用に際しては、それらの特徴をふまえておくことが必要であろう。
植物調節物質
植物調節物質とは植物における生理的過程を微量で促進、阻害あるいは何らかの形で変化させる栄養素以外の有機化合物である (増田ら 1971) 。調節物質の中には植物自体で合成および代謝される植物ホルモンがある。植物ホルモンには、現在、オーキシン、サイトカイニン、 GA、アブシジン酸、エチレン、ブラシノライドの 6 つが発見されている。植物ホルモンの培養 レベルでの生理作用について図1にまとめた。
植物ホルモンの中でも組織培養で頻繁に利用されるのはオーキシンとサイトカイニンである。培養体内のオーキシンとサイトカイニンの相対的関係は不定芽形成や不定根形成カルス誘導において重要な役割を果たしている (図1) 。通常、オーキシンの作用濃度は 0.001-10.0 mg/l 、サイトカイニンは 0.01-10.0 mg/l の範囲にあり、培養作物、品種毎に最適濃度を決定するための試験が必要である。培地に添加する濃度が高過ぎると逆に生育が阻害されたり、カルス形成率や奇形や水浸状個体の出現率が高くなることもあるので注意する。
図2 に示したようにオーキシンおよびサイトカイニンという名前は、それぞれの生理作用をもつ類似化合物群のことをさす総称である。これらのグループ内には構造の安定性の差だけでなく、ホルモン作用の微妙な違いやホルモン活性の差が存在する。例えばオーキシンの1つである 2、4-D は比較的カルス誘導能が高い (表4) ので培養変異の誘発を避けるため、クローン苗の培養生産には一般的に使用されていない。またサイトカイニンでも化合物によって培養体の増殖率の異なる場合がある (図3) 。したがって培養試験においてはホルモンの最適濃度だけでなく化合物の選択も検討しなくてはならない。
その他のホルモンでは、GAが茎頂点培養 (meristem culture および shoot tip cultur) にしばしば利用されている (George & Sherringtor 1984) 。また培地に添加されることは滅多にないがエチレンも組織培養には関わりが深い。通気の悪い培養容器の場合、培養体の生成したエチレンが容器内に蓄積することで培養体に影響を与えると考えられる。エチレンは茎の生長や不定根形成を阻害すること (Meleら 1982; Colemanら 1980) 以外に、培養過程のある時期には、ユリりん片での不定りん茎の形成に重要な役割を持っていること (Van Aartrijkら 1986) や細胞分裂の誘導に関与していること (Mackenzie & Street 1970) が報告されている。
また生長阻害や休眠の誘導等で知られる ABA は、不定姪から植物体へ成長する時期において重要な役割をもつことを示唆する報告が最近増えつつある (Kamada & Harada 1981; Ammirato 1983) 。
組織培養では、通常、前述の植物ホルモンを選択し培地に添加する方法がとられるが、植物ホルモンが植物組織内で合成および代謝される点を考慮し、内成ホルモンの合成阻害剤または作用阻害剤を培地に添加して生理反応を誘導する場合もある( 図4 参照) 。実用例としてはアンシミドール (Chir 1982) やCCC (Hussey & Stacey 1981) 、AgN03 の添加 (Colemanら 1980) がある。
実際にはいくら高濃度でオーキシンやサイトカイニンを添加しても目的とする器官の形成が低頻度にしか起きない場合がある。このような問題は単に培養条件だけでなく、培養される植物組織側の内生的な条件(遺伝子型や生理齢等に起因することがある。遺伝子型に起因する場合、 in vitro における成長率や増殖率等の品種系統問差はほ場レベルでの差と似た傾向で現われるように思われる (Keyneら 1981) 。ただしこれについては例外もある (Hansom & Read 1981) 。培養体の生理齢は、外植片を切り出す部域、植物材料を植え付けてから外植片を切り出すまでの期間や外植片を得る季節等によって変化するので、これらも検討要因となるだろう。
支持体、その他
回転培養あるいは振とう培養の場合を除き、通常は培養体を固定するための支持体が必要である。支持体の素材としては寒天、ジェランガム、ロックウール、 ペーパーブリッジ、ペーパーウイック、バーミキュライト等があり、いずれにせよ、植物材料にあった支持体を検討することが重要である。
前述の素材中、培地の支持体としてもっともよく使用されるのは寒天である。寒天は 0.6-1 % の濃度で培地に添加する。寒天は培地の pH が中性に近い所で固まり、酸性付近では柔らかくなる。またオートクレーブによる滅菌時間が必要以上に長いと柔らかくなる。培養時にしばしば問題となる水浸状再生個体の出現は、寒天を高めることで防げる場合がある。寒天は海草から抽出される天然の多糖類であるから、精製されているとはいえ、無機物や有機物が混在しているという報告 (Romberger & Tabor 1971) がある。また寒天の抽出物からサイトカイニン活性が検出された報告 (Koda & Okazawa 1980) もある。これらの混在物がどれだけ培養体に影響するかは全く分からないが、寒天の製造会社の違いによって増殖率等培養体の反応に差の出てくる場合がある。寒天の種類も培地開発の際に検討要因の 1つとなるかもしれない (Pierikら 1987) 。
寒天以外にガラス繊維、ペーパーブリッジ、ペーパーウイック法を用いる場合、その主たる目的はいずれも培養体が排出するフェノール類等、有害物質の影響を小さくすることにある。それと同じ目的で寒天培地に活性炭を 0.2-0.3 % (W/V) の濃度で添加する場合がある。実際に不定胚形成 (Ammirato 1983) や木本性植物の器官形成や生長 (Evens 1984) 等に促進作用が認められている。ただし活性炭は有害物質だけでなく、培地中のホルモン、ビタミン、キレート剤等も非選択的に吸着するので、場合によっては培地の効果を逆に下げることもある。
培地の貯蔵、調合および滅菌の方法
基本培地を調合する際、一番容易な方法はMS基本混合培地のようにあらかじめ調合してある市販培地を使用することである。しかし培地の各成分について濃度を検討するには1つ1つ秤量し混合するしかないとはいえ、培地成分を秤量して培地を作っていたのでは時間がかかる。そこで通常は、添加する成分をいくつかのグループに分け貯蔵液を作っておき、調合する方法がとられる。この貯蔵液の組成や調合方法については各研究室で若干の違いがある。図5 にMS基本培地の調合例について2つ示したので、それらを参考にして欲しい。
- 各成分の貯蔵法
- 無機成分は、通常、最終濃度の10-1、000倍の貯蔵液を作り、プラスチックやガラス製の試薬びんに入れ、冷蔵庫 2-4 ℃ で保存する。無機成分の中にはFe-EDTAのように遮光のきく褐色びんに入れ、光を避けて保存するものもある。
- ビタミン類やアミノ酸類のような微量有機栄養素は最終濃度の100倍液を作製し、冷蔵庫 -20 ℃ で保存する。この時、 1回の調合で使い切れるよう 20-50 cc ずつに小分けしておくと便利である。
- 植物ホルモンは直接水に溶けにくい。そこで微量の 1 N のKOHやNaOH、 DMSO、エタノールであらかじめ溶かすことができる。試薬びんやフラスコ等に入れ冷蔵庫で保存する。天然オーキシンであるIAAは光分解されやすく不安定なので、なるべくならそのつど秤量し培地に添加することを勧める。
- 培地の調合手順
詳しい培地の調合手順は図5 を参考にしてほしい。調合手順の誤動作を避けるためにも、作業表を作ってチェックしながら作業を進めるとよい。また誤動作の中でも、貯蔵液の入れ忘れは無機イオン用の比色試験紙を用いてチェックすることが可能である。 - pHの調整
貯蔵液、ショ糖、植物調節物質の調合が終ったらpHの調整を行う。通常、培養の最適なpHは 5.0-6、5 の問にある。調整液には 0.1 または 1.0 規定濃度のKOHあるいはNaOH溶液とHCl溶液を準備する。培地をマグネチックスターラーで攪拌し、pHメータの針をよみながら調整液を滴下する。 - メスアップ、寒天の添加および分注
- pH調整後、ただちにメスアップする。
- 寒天の添加の際、 1 l 程度の培地であれば寒天を混ぜて電子レンジ (5-8 mm) で寒天を溶かす。培地が 4-5 g と多い場合は、あらかじめ培地を 60 ℃ 以上に温めてから、培地を攪拌しながら寒天を少しずつ加えていく。特に培地量が多い場合、先に寒天を加えてから温めると、底にたまった寒天がこげつくことがあるので注意したい。
- 寒天が溶けて均等にまざったのを確認したら、培地をマグネチックスターラーで攪拌しながら分注器を用いて分注する。
- 培地の殺菌
分注が終了したら培地を殺菌する。殺菌は通常オートクレーブを用い、 121 ℃、 1.2 kg/cm2 の条件で行う。容器あたりの培地量 (10 ml ? 1 l) に応じて処理時間は 15-30 分と多少変化する。
高熱処理のため培地中の有髄化合物、例えばショ等、ゼアチン、GA、ビタミンB1やB12、 ビタミンC、抗生物質等は一部の分解をまぬがれない (Pierik 1987) 。こうした分解を避けるため、有機化合物だけを ø 0.22 mm 孔のフィルターでろ過滅菌し、オートクレーブで他の培地成分を殺菌したものに添加する方法をとることがある (図5 (2) 参照) 。DMSOはそれ自体が殺菌効果をもっているので、オーキシンやサイトカイニンをDMSOに溶かし、その溶液をオートクレーブで殺菌した培地にマイクロシリンジで直接添加する方法がある (Arderson 1975) 。一般に合成オーキシンや合成サイトカイニンは熱に安定であると考えられている。しかしオートクレーブで殺菌した場合に比べてろ過滅菌して、これらのホルモンを培地に添加した方が、それぞれの活性は強く現われるという報告もある (Harris 1982) 。なお殺菌処理後の培地の分注は、クリーンベンチ内で滅菌した分注器を用いて行う。
殺菌処理が終了したら、培養室や無菌室等の空気が清浄な場所へ培地を運んで冷却する。斜面培地が必要な場合は、培地温度が 45-60 ℃ 以下になる前に試験管を傾けておく。培地はそのまま室温で保存する。なおこの保存方法での培地の有効期限は1カ月以内とした方がよい。殺菌方法の遠いだけでなく、基本培地の貯蔵形態によって培養体の反応が異なるか否かについて調べた報告はほとんどない。しかし培地の調合方法も検討すべき要因の1つに、今後、入れるべきかもしれない。
無菌操作
植物組織を培地に植え込む前に、使用する器具および組織片は無菌状態にしなくてはならない。無菌化の方法として
- 乾熱、高温蒸気、紫外線やガンマ線による殺菌処理
- エチレンオキサイド (EO) ガス、エタノール、次亜塩素酸による化学的殺菌
- ろ過および洗浄による除菌処理
が挙げられる (表5) 。
器具の消毒
- ピンセットやメス等の器具、培地容器のキャップとなるアルミ箔、耐熱性フィルム類、ろ紙はそれぞれ滅菌缶やシャーレ等の容器に入れ、器具の材質に応じて乾熱滅菌 (150-180 ℃、 1 時間) かオートクレーブ滅菌 (121 ℃、 1.2 kg/cm2、 15 分) を行う。オートクレーブを使用する場合、ネジコミ式の容器を密封するとフタが聞きにくくなるので注意する。滅菌後は、クリーンベンチのような清浄な場所で保管する。
- フラスコ、シャーレ、試験管といったガラス製の培養容器も培地分注前に同じ条件で乾熱滅菌する。耐熱性でないプラスチックシャーレ等はガンマ線またはEOガスで滅菌した物を使用する。
植物材料の消毒
培養を開始する前に植物材料を完全に無菌化(カビ、細菌の除去)することが必要である。 無菌化の手順は、
- 材料の粗調整と洗浄
- エタノールによる仮消毒
- 次亜塩素酸による消毒
- 滅菌蒸留水による消毒液の洗浄
の4段階からなる。
材料の粗調整では培養で不必要な部分や褐変部、病害虫に侵された部位を除去する。切除の程度は外植体を切り出す際の作業性および消毒による組織の損傷度も考慮して決める。組織表面の洗浄は、中性洗剤で行い、材料表面についた汚れを除く。流水で何度もすすぎ洗剤を落とす。エタノール消毒では 70 % 濃度のものを使用し、数秒-数10秒 浸漬する。次亜塩素酸としては次亜塩素酸ナトリウム (NaOCl) がよく使用される。次亜塩素酸ナトリウムは6-10 % の有効塩素漉度のものが市販されている。蒸留水で希釈し、有効塩素濃度 1 % で通常使用される。処理時間は 10数分-数10分 の範囲で行う。消毒する際にTween20 等の界面活性剤を添加し、マグネチックスターラで消毒液を攪拌すると消毒効果を高める。また液面に浮かびやすい材料はアスピレータを用いて減圧し脱気しながら処理を行うとよい。
消毒が完了したら、消毒液に材料を入れたままクリーンベンチ内に持ち込み、滅菌蒸留水で最低 3回 はすすぐ。滅菌蒸留水は、蒸留水をオートクレーブ処理(121 ℃、 15 分)して作る。すすいだ材料はろ紙をしいた滅菌シャーレに移す。植え込みまで時間がかかる場合、滅菌水でろ紙を湿らせ材料の乾燥を防ぐ。
実際には前述した無菌化処理を完壁に行っても、無菌化効率の著しく低い場合がある。例えば、ユリ球根のりん片組織を培養する場合、収穫直後に培養を開始したものと比較して、収穫後 2-3 カ月貯蔵してから培養を開始したものは無菌化の効率が著しく低いことがある。これは球根の貯蔵中に植物体内の微生物による汚染が起こるためと考えられる。今まで述べた無菌化方法は植物体表面の殺菌のみに限られるため、体内に浸入した菌体までは除くことができない。このような場合、もう一度球根をバーミキュライト等に植えて発芽させ、茎頂点を外植片として植える方がよい。シクラメンのようにもともと植物体内が微生物で汚染されやすい材料に対しては、培地へ植え付ける前にアクロマイシンのような抗生物質を添加したショ糖を含まない培地で 1-2 日間位前処理する方法等がとられている (Geier 1979) 。
しかし抗生物質は、
- 単独で使用した場合、殺菌効果が低い
- 培養植物の生長自体をも阻害する場合がある (Pierik、 1987)
- 抗生物質は熱に不安定なためオートクレーブによる培地の滅菌を避けてろ過滅菌を行わぬばならない
といった欠点がある。 特殊な場合を除いては、茎頂点等のように汚染頻度が低い組織部位やなるべく収穫したての新鮮な材料を外植体として選ぶ努力をすべきだろう。シクラメンの無菌化方法については塊茎組織のキュアリング (Okumoto & Takabayashi 1964) や黄化葉柄の使用 (村崎 安藤 1983) 等がある。
基本的無菌操作
クリーンベンチ
無菌箱、クリーンベンチまたはクリーンルームは培養体の植え込みや植え継ぎ等を無菌的に行うための場所である。これらは紫外線照射で大気を殺菌したり、エアフィルターで除菌した空気を一定の速度で、一定方向に流動させることで無菌状態を作っている。 クリーンルームの清浄度を表わすNASAの規格水準でいうと、クリーンベンチ内はクラス 100でなければならない。これは1ft3 (28 l) の空気中に直径 0.5 mm 以上の微粒子が 100 以内という規格である。通常の室内の粒子数を測定すると直径 0.5 mm 以内の粒子は約 400 万個はあるので、クリーンベンチやクリーンルーム内が如何に清浄であるか分かると思う。このような清浄な環境での汚染源は外から入って乗る人体や器具類である。したがって清浄度を保つように周辺区域の清浄化、服装の清浄化、持ち込む器具類の清浄化が要求される。
基本的無菌操作
- 器材
アルコールランプまたはガスバーナー、ライター、立てかけ器具、滅菌缶に入れたピンセット等の器具類、アルコール綿 (70 % エタノールを脱脂綿に含ませたもの) 、 99 % エタノールを入れた試験管、培養体を株分けするためのシャーレ等を用意する。
- クリーンベンチの電源を入れる。無菌箱または無菌室の紫外線殺菌灯の場合、器具配置の後、実験開始 30 分前には点灯する。実験開始時には消灯して使用する。
- アルコール綿または 70 % エタノールを霧吹きで直接かけて、手、指、机上、立てかけ器具をていねいに消毒する。クリーンベンチ内へ器具や培養器を持ち込む際にも必ず 70 % エタノールで消毒する。
- アルコールランプまたはガスバーナーに火をつける。移植や植え込みの前後に、フラスコや試験管の口を焼いて殺菌する。使用したピンセット、メス、ハサミ等は、先端を試験管内の 99 % エタノールにつけ、アルコールランプの炎で燃焼させ殺菌する。
その他の留意点
- 机上の器具の配置は作業効率および汚染率に影響する。
- クリーンベンチの場合、作業空間をフード内に保つことは大事だが、不必要にフード内へ上半身を入れない。
- 試験管やフラスコ等培養器の口や内側に手が直接または器具を介して間接的にふれないように努力する。この時、試験管やフラスコの口は必ずしも焼く必要はないと思われる。
- 既に汚染された培養体を汚染していないものと混ぜて移植しないように注意する。培養体が繁茂したりして試験管内壁にはえた菌糸を見落とす場合や培地中のバクテリアが植物側の分泌物と見分けのつかないことがある。培養体を株わけするための受け皿は 1回の使用毎に交換するなどして、汚染の伝播を最小限に抑える。
培養の外的条件
培養の外的条件を培養体と培地以外の条件として考えると、培養容器および培養室の条件となる。外的条件は温度、湿度、光条件、通気性、空気清浄度の 5因子に分けて考えられる。
これらの各因子の培養体に対する直接的および間接的影響については図6 を参考にして欲しい。
従来、培養の外的条件に関しては、培養体の生長や不定芽や不定根といった器官形成に対する光条件や設定温度の影響について数多くの研究がなされてきた。最近、培養体の光合成能力や水分生理等の観点にたっての研究がすすみ、培養容器のガス交換度、光の透過率といった素材特性の選択や培養器内の CO2濃度や湿度の外的コントロール等がクローズアップされている(古在 1988; Debergh 1988) 。後者の研究は、順化効率の上昇やショ糖フリー培地の使用による培養コストの低下につながる可能性を秘めており、発展が待たれる。
培地の場合と同様、培養品目および培養目的によって外的条件が異なる。したがって、いちがいに最適の光条件や温度をここで述べることは不可能である。ただし、一般的傾向をのべると設定温度は 15-26 ℃ にあり通常一定に保たれる。培養目的によっては低温 5 ℃ や高温 27-29 ℃ が最適温度となる。また一定温度に設定するのではなく、暗期の設定温度を明期よりも下げる (明期 26 ℃、 暗期 15 ℃) 場合もある。光条件については、光強度 1、000-6、000 lux の範囲で長日条件 (14-16 時間日長 または 連続照明) が一般的傾向といえる。いずれにせよ培養試験や従来の培養例の報告等から自分の培養品目と培養目的のための最適温度と光条件をつかんでおくことが重要であろう。 培養室の清浄度が低いと培養容器のキャップの性質によっては培地の汚染が起きる。また温度設定値を明期と暗期とで変化させたりしても培地の汚染が起き易くなる。各研究者の使用する培養容器やキャップ形態、温度条件等に合わせて培養室の空気清浄度も考慮すべきである。