PlantBiotech:Higuchi02

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: 植物調節物質とは植物における生理的過程を微量で促進,阻害あるいは何らかの形で変化させる栄養素以外の有機化合物である (増田ら, 1971) 。調節物質の中には植物自体で合成および代謝される植物ホルモンがある。植物ホルモンには,現在,オーキシン,サイトカイニン, GA,アブシジン酸,エチレン,ブラシノライドの 6 つが発見されている。植物ホルモンの培養 レベルでの生理作用について図1にまとめた。
 
: 植物調節物質とは植物における生理的過程を微量で促進,阻害あるいは何らかの形で変化させる栄養素以外の有機化合物である (増田ら, 1971) 。調節物質の中には植物自体で合成および代謝される植物ホルモンがある。植物ホルモンには,現在,オーキシン,サイトカイニン, GA,アブシジン酸,エチレン,ブラシノライドの 6 つが発見されている。植物ホルモンの培養 レベルでの生理作用について図1にまとめた。
 
: 植物ホルモンの中でも組織培養で頻繁に利用されるのはオーキシンとサイトカイニンである。培養体内のオーキシンとサイトカイニンの相対的関係は不定芽形成や不定根形成カルス誘導において重要な役割を果たしている (図1) 。通常,オーキシンの作用濃度は 0.001-10.0 mg・l<sup>-1</sup> ,サイトカイニンは 0.01-10.0 mg・l<sup>-1</sup> の範囲にあり,培養作物,品種毎に最適濃度を決定するための試験が必要である。培地に添加する濃度が高過ぎると逆に生育が阻害されたり,カルス形成率や奇形や水浸状個体の出現率が高くなることもあるので注意する。
 
: 植物ホルモンの中でも組織培養で頻繁に利用されるのはオーキシンとサイトカイニンである。培養体内のオーキシンとサイトカイニンの相対的関係は不定芽形成や不定根形成カルス誘導において重要な役割を果たしている (図1) 。通常,オーキシンの作用濃度は 0.001-10.0 mg・l<sup>-1</sup> ,サイトカイニンは 0.01-10.0 mg・l<sup>-1</sup> の範囲にあり,培養作物,品種毎に最適濃度を決定するための試験が必要である。培地に添加する濃度が高過ぎると逆に生育が阻害されたり,カルス形成率や奇形や水浸状個体の出現率が高くなることもあるので注意する。
: 図2に示したようにオーキシンおよびサイトカイニンという名前は,それぞれの生理作用をもつ類似化合物群のことをさす総称である。これらのグループ内には構造の安定性の差だけでなく,ホルモン作用の微妙な違いやホルモン活性の差が存在する。例えばオーキシンの1つである 2-4-D は比較的カルス誘導能が高い (表 4) ので培養変異の誘発を避けるため,クローン苗の培養生産には一般的に使用されていない。またサイトカイニンでも化合物によって培養体の増殖率の異なる場合がある (図 3) 。したがって培養試験においてはホルモンの最適濃度だけでなく化合物の選択も検討しなくてはならない。
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: 図2 に示したようにオーキシンおよびサイトカイニンという名前は,それぞれの生理作用をもつ類似化合物群のことをさす総称である。これらのグループ内には構造の安定性の差だけでなく,ホルモン作用の微妙な違いやホルモン活性の差が存在する。例えばオーキシンの1つである 2,4-D は比較的カルス誘導能が高い (表4) ので培養変異の誘発を避けるため,クローン苗の培養生産には一般的に使用されていない。またサイトカイニンでも化合物によって培養体の増殖率の異なる場合がある (図3) 。したがって培養試験においてはホルモンの最適濃度だけでなく化合物の選択も検討しなくてはならない。
 
: その他のホルモンでは,GAが茎頂点培養 (meristem culture および shoot tip cultur) にしばしば利用されている (George & Sherringtor, 1984) 。また培地に添加されることは滅多にないがエチレンも組織培養には関わりが深い。通気の悪い培養容器の場合,培養体の生成したエチレンが容器内に蓄積することで培養体に影響を与えると考えられる。エチレンは茎の生長や不定根形成を阻害すること (Meléら, 1982; Colemanら, 1980) 以外に,培養過程のある時期には,ユリりん片での不定りん茎の形成に重要な役割を持っていること (Van Aartrijkら, 1986) や細胞分裂の誘導に関与していること (Mackenzie &  Street, 1970) が報告されている。
 
: その他のホルモンでは,GAが茎頂点培養 (meristem culture および shoot tip cultur) にしばしば利用されている (George & Sherringtor, 1984) 。また培地に添加されることは滅多にないがエチレンも組織培養には関わりが深い。通気の悪い培養容器の場合,培養体の生成したエチレンが容器内に蓄積することで培養体に影響を与えると考えられる。エチレンは茎の生長や不定根形成を阻害すること (Meléら, 1982; Colemanら, 1980) 以外に,培養過程のある時期には,ユリりん片での不定りん茎の形成に重要な役割を持っていること (Van Aartrijkら, 1986) や細胞分裂の誘導に関与していること (Mackenzie &  Street, 1970) が報告されている。
 
: また生長阻害や休眠の誘導等で知られる ABA は,不定姪から植物体へ成長する時期において重要な役割をもつことを示唆する報告が最近増えつつある (Kamada & Harada, 1981; Ammirato, 1983) 。
 
: また生長阻害や休眠の誘導等で知られる ABA は,不定姪から植物体へ成長する時期において重要な役割をもつことを示唆する報告が最近増えつつある (Kamada & Harada, 1981; Ammirato, 1983) 。
: 組織培養では,通常,前述の植物ホルモンを選択し培地に添加する方法がとられるが,植物ホルモンが植物組織内で合成および代謝される点を考慮し,内成ホルモンの合成阻害剤または作用阻害剤を培地に添加して生理反応を誘導する場合もある( 図 4 参照) 。実用例としてはアンシミドール (Chir, 1982) やCCC (Hussey & Stacey, 1981) ,AgN0<sub>3</sub> の添加 (Colemanら, 1980) がある。
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: 組織培養では,通常,前述の植物ホルモンを選択し培地に添加する方法がとられるが,植物ホルモンが植物組織内で合成および代謝される点を考慮し,内成ホルモンの合成阻害剤または作用阻害剤を培地に添加して生理反応を誘導する場合もある( 図4 参照) 。実用例としてはアンシミドール (Chir, 1982) やCCC (Hussey & Stacey, 1981) ,AgN0<sub>3</sub> の添加 (Colemanら, 1980) がある。
 
: 実際にはいくら高濃度でオーキシンやサイトカイニンを添加しても目的とする器官の形成が低頻度にしか起きない場合がある。このような問題は単に培養条件だけでなく,培養される植物組織側の内生的な条件(遺伝子型や生理齢等に起因することがある。遺伝子型に起因する場合, <i>in vitro</i> における成長率や増殖率等の品種系統問差はほ場レベルでの差と似た傾向で現われるように思われる (Keyneら, 1981) 。ただしこれについては例外もある (Hansom &  Read, 1981) 。培養体の生理齢は,外植片を切り出す部域,植物材料を植え付けてから外植片を切り出すまでの期間や外植片を得る季節等によって変化するので,これらも検討要因となるだろう。
 
: 実際にはいくら高濃度でオーキシンやサイトカイニンを添加しても目的とする器官の形成が低頻度にしか起きない場合がある。このような問題は単に培養条件だけでなく,培養される植物組織側の内生的な条件(遺伝子型や生理齢等に起因することがある。遺伝子型に起因する場合, <i>in vitro</i> における成長率や増殖率等の品種系統問差はほ場レベルでの差と似た傾向で現われるように思われる (Keyneら, 1981) 。ただしこれについては例外もある (Hansom &  Read, 1981) 。培養体の生理齢は,外植片を切り出す部域,植物材料を植え付けてから外植片を切り出すまでの期間や外植片を得る季節等によって変化するので,これらも検討要因となるだろう。
  
 
;(5) 支持体,その他
 
;(5) 支持体,その他
 
: 回転培養あるいは振とう培養の場合を除き,通常は培養体を固定するための支持体が必要である。支持体の素材としては寒天,ジェランガム,ロックウール,ぺーパ-ブリッジ,ペーパーウイック,バーミキュライト等があり,いずれにせよ,植物材料にあった支持体を検討することが重要である。
 
: 回転培養あるいは振とう培養の場合を除き,通常は培養体を固定するための支持体が必要である。支持体の素材としては寒天,ジェランガム,ロックウール,ぺーパ-ブリッジ,ペーパーウイック,バーミキュライト等があり,いずれにせよ,植物材料にあった支持体を検討することが重要である。
: 前述の素材中,培地の支持体としてもっともよく使用されるのは寒天である。寒天は 0.6-1 % の濃度で培地に添加する。寒天は培地の pH が中性に近い所で固まり,酸性付近では柔らかくなる。またオートクレーブによる滅菌時間が必要以上に長いと柔らかくなる。培養時にしばしば問題となる水浸状再生個体の出現は,寒天を高めることで防げる場合がある。寒天は
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: 前述の素材中,培地の支持体としてもっともよく使用されるのは寒天である。寒天は 0.6-1 % の濃度で培地に添加する。寒天は培地の pH が中性に近い所で固まり,酸性付近では柔らかくなる。またオートクレーブによる滅菌時間が必要以上に長いと柔らかくなる。培養時にしばしば問題となる水浸状再生個体の出現は,寒天を高めることで防げる場合がある。寒天は海草から抽出される天然の多糖類であるから,精製されているとはいえ,無機物や有機物が混在しているという報告 (Romberger & Tabor, 1971) がある。また寒天の抽出物からサイトカイニン活性が検出された報告 (Koda & Okazawa, 1980) もある。これらの混在物がどれだけ培養体に影響するかは全く分からないが,寒天の製造会社の違いによって増殖率等培養体の反応に差の出てくる場合がある。寒天の種類も培地開発の際に検討要因の 1つとなるかもしれない (Pierikら, 1987) 。
海草から抽出される天然の多緒額であるから,
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: 寒天以外にガラス繊維,ペーパーブリッジ,ペーパーウイック法を用いる場合,その主たる目的はいずれも培養体が排出するフェノ-Jt,額等,
製されているとはいえ,無機物や有機物が混在
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しているという報告(Romberger & Tabor,
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組織培養技術
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1971)がある。また寒天の抽出物からサイトカ
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イニン活性が検出された報告(杖oda&Okaz・
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培養体に影響するかは全く分からないが,寒天
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有害物質の影響を小さくすることにある。それ
 
有害物質の影響を小さくすることにある。それ
 
と同じ目的で寒天培地に活性炭を0.2-03%
 
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Revision as of 15:46, 11 July 2011

組織培養技術

  • 著者:是枝一春(第一園芸株式会社 富士小山農場植物組織培養研究室)
  • 出典:「植物組織培養の世界」樋口春三監修 (1990) 柴田ハリオ硝子株式会社刊


培地

 培地の構成要素は表1 に示したように水,無機栄養素,有機栄養素,植物調節物質,支持体, pHからなる.これらの因子は独立して,あるいは相互作用しあい in vitro における器官形成や植物体の再生に重要な役割を演じている。
(1) 水
 培地には原則として純水が使用される。純水は蒸留器,イオン交換樹脂,活性炭,逆浸透膜等を組み合わせた純水製造装置で水道水を処理して得ることができる。純水といっても,各処理装置の組み合わせの違いで,純度が異なる。また装置の値段も,純水の単位時間当りの採取量も異なる。したがって培養体の種類や培養目的の違いによって純水の純度を使い分ける場合が生ずる。例えば生産ではイオン交換樹脂処理水で十分であるが,培地試験には活性炭,イオン交換樹脂,蒸留器で三重処理した比較的純度の高いものを使用することが必要であろう。
(2)無機栄養素
 無機栄養素は多量栄養元素と微量栄養元素に分けられる。各必須元素の培地中の濃度組成については,これまで多くの研究者が表2 に示したような既知物質による培地を既に発表している。またそれらと異なり構成要素の組成比は不明であるが,ハイポネックスを培地の無機栄養成分として使用した例がある (多田ら, 1978) 。培地開発の第一歩としては,文献を調べて自分の培養品目,培養目的,培養部位に応じて従来の培地の中から適当なものを選択し,必要に応じて改変することを勧める。これまで行われてきた培地改変例についてみると,
 ① 全体の塩濃度 (イオン強度)
 ② 窒素化合物の濃度 (炭素/窒素比)
 ③ NH4+/NO3-
 ④ Fe+ イオン濃度
 ⑤ PO4- イオン濃度等
  (George & Sherrington, 1984; Pierik, 1987)
がある。
(3) 有機栄養素
 試験管内で生育中の植物体は発芽中の幼植物に以て半独立栄養状態にある。そのため炭素エネルギー源としての糖,窒素源としてのアミノ酸,その他ビタミン塀等の有機化合物を培地に添加した方がはるかに植物体の生長が長い,
 糖の中でもショ糖が頻繁に使用される。ショ糖は単に増殖畳に影響を与えるだけでなく,不定根や塊茎の形成促進や水浸状再分化個体出現の抑制といった効果をもっており,培養目的に応じて濃度 2-9 % の範囲で培地に添加される。なおショ糖は浸透圧物質として培養体の吸水生長に影響を与えることも付け加えておく。培養生産の場合,市販の白砂糖やグラニュー糖で十分である。
 微量成分としては,ビタミンB群,ビタミンC,グリシンおよびアデニン等が挙げられる。これらの要素についても,無機栄養素の場合と同株に数多くの培地への添加例が報告されているので,それらを参考にされたい。
 また有機栄養素としてペプトン, トリプトン等の蛋白質の部分加水分解物ならびにココナッツミルクのような天然果汁物を培地に添加する場合がある (表1) 。天然物は表3 のココナッツミルク分析例にも示したように数多くの有機栄素や植物調節物質を含んでおり,ランの培養等これらの添加がないと生育の悪いものがある。しかしながら天然物は,
 ① 末同定の物質を含む
 ② 構成要素の組成が不明である
 ③ 原料の生理状態や保存状態等によって組成にバラツキのあることが予想される
等の特徴がある。したがって天然物の使用に際しては,それらの特徴をふまえておくことが必要であろう。
(4) 植物調節物質
 植物調節物質とは植物における生理的過程を微量で促進,阻害あるいは何らかの形で変化させる栄養素以外の有機化合物である (増田ら, 1971) 。調節物質の中には植物自体で合成および代謝される植物ホルモンがある。植物ホルモンには,現在,オーキシン,サイトカイニン, GA,アブシジン酸,エチレン,ブラシノライドの 6 つが発見されている。植物ホルモンの培養 レベルでの生理作用について図1にまとめた。
 植物ホルモンの中でも組織培養で頻繁に利用されるのはオーキシンとサイトカイニンである。培養体内のオーキシンとサイトカイニンの相対的関係は不定芽形成や不定根形成カルス誘導において重要な役割を果たしている (図1) 。通常,オーキシンの作用濃度は 0.001-10.0 mg・l-1 ,サイトカイニンは 0.01-10.0 mg・l-1 の範囲にあり,培養作物,品種毎に最適濃度を決定するための試験が必要である。培地に添加する濃度が高過ぎると逆に生育が阻害されたり,カルス形成率や奇形や水浸状個体の出現率が高くなることもあるので注意する。
 図2 に示したようにオーキシンおよびサイトカイニンという名前は,それぞれの生理作用をもつ類似化合物群のことをさす総称である。これらのグループ内には構造の安定性の差だけでなく,ホルモン作用の微妙な違いやホルモン活性の差が存在する。例えばオーキシンの1つである 2,4-D は比較的カルス誘導能が高い (表4) ので培養変異の誘発を避けるため,クローン苗の培養生産には一般的に使用されていない。またサイトカイニンでも化合物によって培養体の増殖率の異なる場合がある (図3) 。したがって培養試験においてはホルモンの最適濃度だけでなく化合物の選択も検討しなくてはならない。
 その他のホルモンでは,GAが茎頂点培養 (meristem culture および shoot tip cultur) にしばしば利用されている (George & Sherringtor, 1984) 。また培地に添加されることは滅多にないがエチレンも組織培養には関わりが深い。通気の悪い培養容器の場合,培養体の生成したエチレンが容器内に蓄積することで培養体に影響を与えると考えられる。エチレンは茎の生長や不定根形成を阻害すること (Meléら, 1982; Colemanら, 1980) 以外に,培養過程のある時期には,ユリりん片での不定りん茎の形成に重要な役割を持っていること (Van Aartrijkら, 1986) や細胞分裂の誘導に関与していること (Mackenzie & Street, 1970) が報告されている。
 また生長阻害や休眠の誘導等で知られる ABA は,不定姪から植物体へ成長する時期において重要な役割をもつことを示唆する報告が最近増えつつある (Kamada & Harada, 1981; Ammirato, 1983) 。
 組織培養では,通常,前述の植物ホルモンを選択し培地に添加する方法がとられるが,植物ホルモンが植物組織内で合成および代謝される点を考慮し,内成ホルモンの合成阻害剤または作用阻害剤を培地に添加して生理反応を誘導する場合もある( 図4 参照) 。実用例としてはアンシミドール (Chir, 1982) やCCC (Hussey & Stacey, 1981) ,AgN03 の添加 (Colemanら, 1980) がある。
 実際にはいくら高濃度でオーキシンやサイトカイニンを添加しても目的とする器官の形成が低頻度にしか起きない場合がある。このような問題は単に培養条件だけでなく,培養される植物組織側の内生的な条件(遺伝子型や生理齢等に起因することがある。遺伝子型に起因する場合, in vitro における成長率や増殖率等の品種系統問差はほ場レベルでの差と似た傾向で現われるように思われる (Keyneら, 1981) 。ただしこれについては例外もある (Hansom & Read, 1981) 。培養体の生理齢は,外植片を切り出す部域,植物材料を植え付けてから外植片を切り出すまでの期間や外植片を得る季節等によって変化するので,これらも検討要因となるだろう。
(5) 支持体,その他
 回転培養あるいは振とう培養の場合を除き,通常は培養体を固定するための支持体が必要である。支持体の素材としては寒天,ジェランガム,ロックウール,ぺーパ-ブリッジ,ペーパーウイック,バーミキュライト等があり,いずれにせよ,植物材料にあった支持体を検討することが重要である。
 前述の素材中,培地の支持体としてもっともよく使用されるのは寒天である。寒天は 0.6-1 % の濃度で培地に添加する。寒天は培地の pH が中性に近い所で固まり,酸性付近では柔らかくなる。またオートクレーブによる滅菌時間が必要以上に長いと柔らかくなる。培養時にしばしば問題となる水浸状再生個体の出現は,寒天を高めることで防げる場合がある。寒天は海草から抽出される天然の多糖類であるから,精製されているとはいえ,無機物や有機物が混在しているという報告 (Romberger & Tabor, 1971) がある。また寒天の抽出物からサイトカイニン活性が検出された報告 (Koda & Okazawa, 1980) もある。これらの混在物がどれだけ培養体に影響するかは全く分からないが,寒天の製造会社の違いによって増殖率等培養体の反応に差の出てくる場合がある。寒天の種類も培地開発の際に検討要因の 1つとなるかもしれない (Pierikら, 1987) 。
 寒天以外にガラス繊維,ペーパーブリッジ,ペーパーウイック法を用いる場合,その主たる目的はいずれも培養体が排出するフェノ-Jt,額等,

有害物質の影響を小さくすることにある。それ と同じ目的で寒天培地に活性炭を0.2-03% (W/v)の濃度で添加する場合がある。実際に不 定腔形成(Ammirato,1983)や木本性植物の器 官形成や生長(Evens,1984)等に促進作用が認 められている。ただし活性炭は有害物質だけで なく,培地中のホルモン,ビタミン,キレ- ト 剤等も非選択的に吸着するので,場合によって


は培地の効果を逆に下げることもある。 (6) 培地の貯蔵,調合および滅菌の方法 基本培地を調合する際,一番容易な方法は MS基本混合培地のようにあらかじめ調合してあ る市販培地を使用することである。しかし培地 の各成分について濃度を検討するには1つ1つ 秤量し混合するしかないとはいえ,培地成分を 秤量して培地を作っていたのでは時間がかかる。 そこで通常は,添加する成分をいくつかのグル ープに分け貯蔵液を作っておき,調合する方法 34 がとられる。この貯蔵液の組成や調合方法につ いては各研究室で若干の違いがある。図5にMS 基本培地の調合例について2つ示したので, そ れらを参考にして欲しい。 ①各成分の貯蔵法 i)無機成分は,通常,最終濃度の10-1,000 倍の貯蔵液を作り,プラスチックやガラス製 の試薬びんに入れ,冷蔵庫2-4pCで保存する。 無機成分の中にはFe-EDTAのように遮光の きく褐色びんに入れ,光を避けて保存するもの


もある。 Ii)ビタミン類やアミノ穀類のような微量有 機栄養素は最終濃度の100倍液を作製し,冷蔵 庫-20ccで保存する。この時,1回の調合で使い


切れるよう20-50ccずつに小分けしておくと便 利である。 lii)植物ホルモンは直接水に溶けにくい。そ こで微塵の1NのKOHやNaOH,DMSO,エ


タノ-ルであらかじめ溶かすことができる。試 薬びんやフラスコ等に入れ冷蔵庫で保存するQ天 然オーキシンであるIAAは光分解されやすく不 安定なので,なるべくならそのつど秤量し培地 に添加することを勧める。 ②培地の調合手順 詳しい培地の調合手月掛ま図5を参考にしてほ しい。調合手順の誤勤作を避けるためにも,作 業表を作ってチェックしながら作業を進めると よい。また誤動作の中でも,貯蔵液の入れ忘れ は無機イオン用の比色試験紙を用いてチェック することが可能である。 ③pHの調整 貯蔵液,ショ糖,植物調節物質の調合が終っ たらpHの調整を行うQ通常,培養の最適なpH は5.0-6,5の問にある。調整紋には0.1または 1.0規定濃度のKOHあるいはNaOH溶液と HCl溶液を準備する。培地をマグネチックスタ ーラーで汝はんし,pHメータの針をよみながら 調整液を滴下する。 ④ メスアップ,寒天の添加および分注 i)pH調整後,ただちにメスアップする。ll) 寒天の添加の際,11程度の培地であれば寒天を 混ぜて電子レンジ(5-8mm)で寒天を溶かす。 培地が4-5gと多い場合は,あらかじめ培地を 60oC以上に温めてから,培地を教拝しながら寒 天を少しずつ加えていく。特に培地畳が多い場 令,先に寒天を加えてから温めると,底にたま った寒天がこげつくことがあるので注意したい。 ill)寒天が溶けて均等にまざったのを確認した ら,培地をマグネチックスターラーで数拝しな がら分注器を用いて分注する。 ⑤培地の殺菌 分注が終了したら培地を殺菌する。殺菌は通 常オ-トクレープを用い,121cc,1.2kg/cm2の 条件で行う。容器あたりの培地量(10ml~1I) 36 に応じて処理時間は15-30分と多少変化する。 高熱処理のため培地中の有髄化合物,例えば ショ練,ゼアテン,GA,ビタミンB1やB12,ど タミンC,抗生物質等は一部の分解をまぬがれな い(Pierik,1987)。こうした分解菅避けるため, 有機化合物だけを串0.22mm孔のフィルターで ろ過滅菌し,オートクレーブで他の培地成分を 殺菌したものに添加する方法をとることがある (図5(2)参照)。DMSOはそれ自体が殺蔚効果 をもっているので,オーキシンやサイトカイニ ンをDMSOに溶かし,その溶液をオートクレー ブで殺菌した培地にマイクロシリンジで直接添 加する方法がある(Ardel・SOn,1975)0--椴に合 成オーキシンや合成サイトカイニンは熱に安定 であると考えられている。しかしオ- トクレー プで殺菌した場合に比べてろ過滅菌して,これ らのホルモンを培地に添加した方が,それぞれ の活性は強く現われるという報告もある(Harris, 1982)。なお殺菌処理後の培地の分注は,クリー ンベンチ内で滅菌した分注器を用いて行う。 殺菌処理が終了したら,培養室や無菌室等の 空気が清浄な場所へ培地を運んで冷却する。斜 面培地が必要な場合は,培地温度が45-60BC以 下になる前に試験管を傾けておく。培地はその まま室温で保存する。なおこの保存方法での培 地の有効期限は1カ月以内とした方がよい。 殺菌方法の遠いだけでなく,基本培地の貯蔵 形態によって培養体の反応が異なるか否かにつ いて調べた報告はほとんどない。しかし培地の 調合方法も検討すべき要因の1つに,今後,入 れるべきかもしれない0 2 無菌操作 植物組織を培地に植え込む前に,使用する器 具および組織片は無菌状態にしなくてはならな い。無菌化の方法として①乾熱,高温蒸気,紫 外線やガンマ線による殺菌 処理,② エチレンオキサイ ド(EO)ガス,エタノー/レ, 次亜塩素酸による化学的殺 菌,③ ろ過および洗浄によ る除菌処理が挙げられる(秦 5)0 (1) 器具の消毒 ① ピンセットやメス等の 器具,培地容器のキャップ となるア/レミ箔,耐熱性フ

ィ/レム構,ろ紙はそれぞれ 滅菌缶やシャーレ等の容器 に入れ,器具の材質に応じて乾熱滅菌 (150-180DC,1時間)かオートクレーブ滅菌 (121DC,1.2kg/cm2,15分)を行う。オートク レーブを使用する場合,ネジコミ式の容器を密 封するとフタが聞きにくくなるので注意する。滅 薗後比,クリーンベンチのような清浄な場所で 保管する。 ② フラスコ,シャーレ,試験管といったガラ ス製の培養容器も培地分注前に同じ条件で乾熱 滅菌する。耐熱性でないプラスチックシャーレ 等はガンマ線またはEOガスで滅菌した物を使用 する。 (2) 植物材料の消毒 培養を開始する前に植物材料を完全に無歯化 (カビ,細菌の除去)することが必要であるQ無 菌化の手順は,①材料の粗調整と洗軌②ェタ ノールによる仮消毒,③次亜塩素酸による消亀 ④滅菌蒸留水による消毒液の洗浄の4段階,か らなる。 村料の粗調整では培養で不必要な部分や褐変 部,病害虫に侵された部位を除去する。切除の 程度は外植体を切りLlけ際の作業性および消毒 による組織の損傷度も考慮して決める。組織表


面の洗浄は,中性洗剤で行い,材料表面につい た汚れを除く。流水で何度もすすぎ洗剤を落と す。エタノール消毒では70%濃度のものを使博 し,数秒~数10秒浸演する。次亜塩素酸として は次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)がよく使用 される。次亜塩素酸ナトリウムは6-10%の有効 塩素漉度のものが市販されている。蒸留水で希 釈し,有効塩素濃度1%で通常使用される。処 理時間は一10数分~数10分の範囲で行う。消毒 する際にTween20等の界面活性剤を添加し, マグネチックスターラで消毒液を掛まんすると 消毒効果を高める。また液面に浮かびやすい材 料はアスピレータを用いて減圧し脱気しながら 処理を行うとよい。 消毒が完了したら,消毒液に材料を入れたま まクリーンベンチ内に持ち込み,滅菌蒸留水で 最低3回はすすぐ。滅菌蒸留水は,蒸留水をオ ートクレーブ処理(121OC,15分)して作る。す すいだ材料はろ紙をしいた滅菌シャーレに移す。 植え込みまで時間がかかる場合,滅菌水でろ紙 を湿らせ材料の乾燥を防ぐ。 実際には前述した無菌化処理を完壁に行って ち,無菌化効率の著しく低い場合があるD例え

ば,ユリ球根のりん片組織を培養する場合,収 穫直後に培養を開始したものと比較して,収穫 後2-3カ月貯蔵してから培養を開始したものは 無菌化の効率が著しく低いことがある。これは 球根の貯蔵中に植物体内の微生物による汚染が 起こるためと考えられる。今まで述べた無菌化 方法は植物体表面の殺菌のみに限られるため,体 内に浸入した菌体までは除くことができない。こ のような場合,もう一度球根をバーミキュライ ト等に植えて発芽させ,茎頂点を外植片として 植える方がよい。シクラメンのようにもともと 植物体内が微生物で汚染されやすい材料に対し ては,培地へ植え付ける前にアクロマイシンの ような抗生物質を添加したショ糖を含まない培 地で1-2日間位前処理する方法等がとられてい る(Geier,1979)。 しかし抗生物質は,(∋単独で使用した場合, 殺菌効果が低い,②培養植物の生長自体をも阻 害する場合がある(Pierik,1987),③抗生物質 は熱に不安定なためオートクレーブによる培地 の滅菌を避けてろ過滅菌を行わぬばならないと いった欠点がある。特殊な場合を除いては,茎 頂点等のように汚染頻度が低い組織部位やなる べく収穫したての新鮮な材料を外植体として選 ぶ努力をすべきだろう。シクラメンの無菌化方 法については塊茎組織のキュアリング(Okumoto &Takabayashl,1964)や黄化葉柄の使用(村 崎,安藤,1983)等がある。 3 基本的無菌操作 (1) クリーンベンチ 無菌箱,クリーンベンチまたはクリーンルー ムは培養体の植え込みや植え継ぎ等を無菌的に 行うための場所である。これらは紫外線照射で 大気を殺菌したり,エアフィルターで除菌した 空気を一定の速度で,一定方向に流致させるこ 38 とで無菌状態を作っている。 クリーンルームの清浄度を表わすNASAの規 格水準でいうと,クリーンベンチ内はクラス100 でなければならない。これは1ft3(281)の空気 中に直径0.5mm以上の微粒子が100以内とい う規格である。通常の室内の粒子数を測定する と直径0.5mm以内の粒子は約400万個はある ので,クリーンベンチやクリーンルーム内が如 何に清浄であるか分かると患う。このような清 浄な環境での汚染源は外から入って乗る人体や 器具類である。Lたがって清浄度を保つように 周辺区域の清浄化,服装の清浄化,持ち込む器 具葉白の清浄化が要求される。 (2)基本的無菌操作 ①器朝 ア/レコールランプまたはガスバーナー,ライ ター,立てかけ器具,滅菌缶に入れたピンセッ ト等の器具塀,アルコール綿(70%エタノー)i, を脱脂綿に含ませたもの),99%エタノールを入 れた試験管,培養体を株分けするためのシャー レ等を用意する。 (卦クリーンベンチの電源を入れる。無菌箱ま たは無菌室の紫外線殺菌灯の場合,器具配置の 後,実験開始30分前には点灯する。実験開始 時には消灯して使用する。 ③アルコール綿または70%エタノールを霧吹 きで直接かけて,辛,指,机上,立てかけ器具 をていねいに消毒する。クリーンベンチ内へ器 具や培養器を持ち込む際にも必ず70%ェタノー IL,で消毒する。 ④ アルコールランプまたはガスバーナーに火 をつける。移植や植え込みの前後に,フラスコ や試験管のロを焼いて殺菌する。使用したピン セット,メス,ハサミ等は,先端を試験管内の 99%エタノールにつけ,ア)i,コールランプの炎

で燃焼させ殺菌する。


(3) その他の留意点 机上の器具の配置は作業効率および汚染率 ② クリーンベンチの場合,作業空間をフード 内に保つことは大事だが,不必要にフード内へ 上半身を入れない。 ③試験管やフラスコ等培養器の口や内側に手 が直接または器具を介して間接的にふれないよ うに努力する。この時,試験管やフラスコのロ は必ずしも焼く必要はないと思われる。 ④既に汚染された培養体を汚染していないも のと混ぜて移植しないように注意する。培養体 が繁茂したりして試験管内壁にはえた菌糸を見 落とす場合や培地中のバクテリアが植物側の分 泌物と見分けのつかないことがある。培養体を 株わけするための受け皿は1回の使用掛こ交換 するなどして,汚染の伝播を最小限に抑える。 4 培養の外的条件 培養の外的条件を培養体と培地以外の条件と して考えると,培養容器および培養室の条件と なる.外的条件は温度,温風光条件,通気 性,空気清浄度の5因子に分けて考えられる。 これらの各因子の培養体に対する直接的および 間接的影響については図6を参考にして欲しい。 従来,培養の外的条件に関しては,培養体の生 長や不定芽や不定根といった器官形成に対する 光条件や設定温度の影響について数多くの研究 がなされてきた。最近,培養体の光合成能力や 水分生理等の観点にたっての研究がすすみ,拷 養容器のガス交換度,光の透過率といった素材 特性の選択や培養器内のCO2濃度や湿度の外的 コントロール等がクローズアップされている(古 荏,1988;Debergh,1988)。後者の研究は,順 化効率の上昇やショ緒フリー培地の使用による 培養コストの低下につながる可能性を秘めてお 40 り,発展が挨たれる。 培地の場合と同様,培養品目および培養目的 によって外的条件が異なる。したがって,いち がいに最適の光条件や温度をここで述べること は不可能である。ただし,一般的傾向をのべる と設定温度は15-26DCにあり通常一定に保たれ る。培養目的によっては低温5oCや高温27 -29oCが最適温度となる。また一定温度に設定 するのではなく,暗期の設定温度を明期よりも 下げる(明期26oC,暗期15DC)場合もあるO光 条件については,光強度1,000-6,000luxの範 囲で長日条件(14-16時間日長または連続照明) が一般的傾向といえる。いずれにせよ培養試験 や従来の培養例の報告等から自分の培養品目と 培養目的のためのFE最適温度と光条件をつかんで おくことが重要であろう。 培養室の清浄度が低いと培養容器のキャップ の性質によっては培地の汚染が起きる。また温 度設定値を明期と暗期とで変化させたりしても 培地の汚染が起き易くなる。各研究者の使用す る培養容器やキャップ形敵,温度条件等に合わ せて培養室の空気清浄度も考慮すべきである。

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