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また空気には大地から染み出すラドンが含まれており、40  Bq / m<sup>3</sup> 程度あるようです<ref>原子力資料情報室[http://cnic.jp/modules/radioactivity/index.php/16.html ラドンの項]より</ref>。
 
 
これら天然の放射性物質のため、カリウムを豊富に含む食品から自然に放射線が出ています。
 
これら天然の放射性物質のため、カリウムを豊富に含む食品から自然に放射線が出ています。
  
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===ラドンによる自然放射線===
 
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1970年代より欧米では空気中のラドンが肺がんの原因物質としてよく調査されています。
 
1970年代より欧米では空気中のラドンが肺がんの原因物質としてよく調査されています。
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日本では 40  Bq / m<sup>3</sup> 程度あるようです<ref>原子力資料情報室[http://cnic.jp/modules/radioactivity/index.php/16.html ラドンの項]より</ref>。
 
自然放射線の世界平均は年間 2.4 mSv といわれますが、ラドン濃度が高いフィンランドやスウェーデンは年間 6-7 mSv の自然放射線があります。北米でも州によって屋内ラドン濃度が高い地域 (日本の約10倍) があります<ref>飯田孝夫「屋内ラドンとその健康影響」健康文化 1999年6月号 [http://www.kenkobunka.jp/kenbun/kb24/iida24.pdf pdf]</ref>。
 
自然放射線の世界平均は年間 2.4 mSv といわれますが、ラドン濃度が高いフィンランドやスウェーデンは年間 6-7 mSv の自然放射線があります。北米でも州によって屋内ラドン濃度が高い地域 (日本の約10倍) があります<ref>飯田孝夫「屋内ラドンとその健康影響」健康文化 1999年6月号 [http://www.kenkobunka.jp/kenbun/kb24/iida24.pdf pdf]</ref>。
 
* Radon.com による[http://www.radon.com/radon/radon_map.html 北米のラドン濃度]
 
* Radon.com による[http://www.radon.com/radon/radon_map.html 北米のラドン濃度]

Revision as of 19:45, 14 September 2011

もくじ 基礎知識 自然放射線 人体への影響 胎児と子供 ファイトレメディエーション 土壌汚染 移行係数 食品汚染 家畜汚染 Q&A とリンク

文責: 有田正規 (東大・理・生物化学)   質問、コメント、誤り指摘、リクエスト等は arita@bi.s.u-tokyo.ac.jpまで



最近はお茶から出る放射線で一騒動ありました。お茶の飲料メーカー各社が「消費者を安全させることが重要」(6月4日朝日新聞報道)として独自の安全確認をするとしていますが、その方法や基準等も明らかにされていません。報道では米国製の放射線測定器を輸入とありますが、ガイガーカウンターでは元素の特定はできません。

ここでは、自然界にある放射線の情報をすこしまとめます。ベクレルは Bq と記述します。

まとめ
  • 天然には放射性のカリウム40が存在し、これによる放射線は避けられない
  • カリウム40だけで、パセリは 300 Bq / kg, お茶(乾燥茶葉)は 700 Bq / kg, 乾燥コンブや乾燥ワカメは 1500 Bq / kg の放射線を出す。
  • カリウム40の実効線量 (ベクレル → シーベルトへの換算値) はセシウムのおよそ半分。

(例えば セシウムが 800 Bq / kg 混入した茶葉を 20 g 粉にして食べる際の実効線量 (シーベルト数) は汚染されていない焼き芋 200 g を食べる場合と同じ。)

  • 日本国内でも自然放射線量は地域によって異なる
  • 放射線測定器(ガイガーカウンター)だけでは、セシウムの放射線か天然カリウムの放射線かは区別できない
  • 放射線の検査では、何をどう測定したかを明らかにして判断することが重要

Contents

自然放射線

放射性物質は天然にも存在し、人体にはほぼ一定の自然放射性物質が溜まっています。 例えば、カリウム 1 g から必ず 30.4 ベクレルの放射線が出ています。 70 kg の成人男子は体中に 140 g のカリウムを含みます(元素の項を参照)。 カリウム40は核実験等に関係なく人類が共存してきた放射性核種です。

元素 存在比 (%) 成人男子の (70kg) 体内量 解説
カリウム40 0.0117 4260 Bq (61 Bq / kg) 140 × 30.4 = だいたい 4260 Bq
炭素14 ほぼ0 3680 Bq (53 Bq / kg) 同位体の存在比は 10-8 程度と大変少なく炭素 1 g あたり 0.23 Bq 程度[1]。 0.23 × 16000 = 3680 Bq
ルビジウム87 27.83 500 Bq? (8 Bq / kg)  同位体存在比は高いが、非常に低濃度しか存在しない。

これら天然の放射性物質のため、カリウムを豊富に含む食品から自然に放射線が出ています。

食品  カリウム量 (g / kg) ベクレル (Bq / kg)
パセリ 10 300
ひきわり納豆 7 210
ホウレンソウ 6.9 200
カツオ、タイなど 4 ∼ 5 120 ∼ 150
コンブやワカメ(乾燥)  52 ∼ 53 1560 ∼ 1590

この他の食品については、栄養成分表のカリウム量 をみて 1 g あたり 30.4 Bq をかければ放射線量が割り出せます。また、カリウム40のベクレル→シーベルトへの換算係数はセシウムの半分ほどあります。乾燥茶葉が 500 Bq / kg を超えたときに、お茶の粉末を食べる人もいるから危険である等の議論がなされていますが、乾燥茶葉として摂取する量はグラム単位です。同じベクレル数は、フリカケ中の乾燥ワカメや、魚の切り身でも摂取しているのです。

毎日のカリウム摂取による内部被曝量

ヒトのカリウム摂取目安量は一日当たり 2 g ですが、通常の食事でこれを下回るのは困難です。 腎臓透析を受ける人は 2 g 以下になるように食事制限を受けますが、基本的に生野菜等は食べられません。 一日あたり 3 g 摂取しているとして計算すると年間で

3 × 30.4 × 365 × 0.6 × 10-6 = 0.21 mSv

になります。このほか炭素14等による内部被曝もあるので、食べ物から年間 0.35 mSv の被曝をうけています[2]

ただし、人より2倍のカリウムを摂取しているからといって常に2倍の放射線を浴びているわけではありません。摂取したカリウム40は排出もされるからです。臨床検査における血清カリウム濃度は1リットルあたり 3.5~5.5 ミリ当量、すなわち 140 - 220 mg/l 程度です。1.5倍程度の個人差があることがわかります。

地域によって違う自然放射線 (大阪は東京の倍)

日本地質学会のウェブサイトでは、国内各所の自然放射線量 を公開しています。 このマップによると、大阪は地上1mにおける自然放射線が年間 0.9 mSv、名古屋で 0.5 mSv、東京は 0.4 mSv 程度であることがわかります。つまり東京と大阪で年間 0.5 mSv 違います。 サイトにある時間あたりのシーベルト(グレイ)を年間あたりに換算するには以下の式を使います。

大阪 0.1 (μSv) × 24 (hour) × 365 (days) / 1000 = 0.876 mSv
東京 0.04 (μSv) × 24 (hour) × 365 (days) / 1000 = 0.350 mSv

大阪と東京の差はセシウムの摂取基準値である 500 Bq / kg の食品を毎日 200 g 食べている量に相当します。 (ただしこれは外部被曝と内部被曝をシーベルト数だけで比較しており、実際の影響は、内部被曝のほうが大きい点に注意してください。)

500 (Bq) × 0.2 (kg) × 365 (days) × 1.5 × 10-5 (セシウムの換算係数) = 0.547 mSv

関西に住んでいるから放射線被害は関係ないと思う人も多いかもしれませんが、自然放射線は関西の方が多いです。逆の言い方をすれば、お茶や野菜のベクレル数の議論は、日本国内の地域差程度です。世界には自然放射線が高い地域もあります。たとえばイタリアのローマは大阪の倍以上あります。自然放射線やセシウムの換算係数については放射線の項を参照してください。

ラドンによる自然放射線

1970年代より欧米では空気中のラドンが肺がんの原因物質としてよく調査されています。 日本では 40 Bq / m3 程度あるようです[3]。 自然放射線の世界平均は年間 2.4 mSv といわれますが、ラドン濃度が高いフィンランドやスウェーデンは年間 6-7 mSv の自然放射線があります。北米でも州によって屋内ラドン濃度が高い地域 (日本の約10倍) があります[4]

日本はラドン濃度が低く、ラドン温泉等も各所にみられますが短期間に比較的高濃度のラドンを浴びることが健康に良いかどうかはわかりません。歴史的にみると、オーストラリアのバドガシュタインなどは湯治場として有名です。

食品における放射線の基準

日本の基準は緩い等の報道・意見が多いですが、食品における基準をみるとそうでもありません。

日本

以下の値は NHK科学文化部がまとめたブログから引用しました。 ヨウ素とセシウムでそれぞれ基準が定められています。飲料水と乳製品は両者を合計するとよく言われる 1kg あたり 500 Bq という値になります。

放射性ストロンチウム

放射性ストロンチウ ムには独自の規制値を設けず、チェルノブイリ事故後に測定された比率をもとにセシウム137の10%に相当するストロンチウム90が共存すると仮定し、放射性ストロンチウムの影響を放射性セシウムの影響に含めて規制する形をとるそうです[5]

放射性ヨウ素
  • 1歳未満の乳児が飲む水道水 100 Bq / kg
  • 牛乳 100 Bq / kg
  • 乳製品 300 Bq / l
  • 野菜(イモや根菜を除く)、肉、魚介類など 2000 Bq / kg
  • 飲料水 300 Bq / l
放射性セシウム
  • 乳製品 200 Bq / l
  • 野菜や肉、それに卵や魚などそのほかの食品 500 Bq / kg
  • 飲料水 200 Bq / l

原発事故より前は、日本の輸入規制値は放射性セシウムについて 370 Bq / kg でした[6]。上の値はそれより少し上昇したことになります。放射性ヨウ素は半減期が8日と短い点に注意してください。

ヨーロッパ

基本はEuratom Guidelineによります。ただし、日本から輸入される食品に関しては、より厳しい日本のレベルにあわせることが2011年4月11日に決められ、今後も見直しを続けます。6月18日、フランスは 500 Bq/kg を超えた静岡産の茶葉を輸入拒否しましたが、もしもこの茶葉が日本以外から輸入されていたらフランスで流通しているはずです。日本からの輸入品だけ規制が厳しく、そのために輸入拒否されています。

日本基準にあわせるニュース
日本基準とEU基準の違いの解説
日本基準の規制 (4/11)
上記基準の訂正
放射性ヨウ素
  • 幼児食 150 Bq/kg or (Bq/l)
  • 乳製品 500 Bq/kg or Bq/l
  • それ以外の食品 2,000 Bq/kg or Bq/l
  • スパイスなど少量使う食品 20,000 Bq/kg
  • 飲料 500 Bq/l
放射性ストロンチウム
  • 幼児食 75 Brq/kg o Bq/l
  • 乳製品 125 Bq/kg or Bq/l
  • それ以外の食品 750 Bq/kg or Bq/l
  • 飲料 125 Bq/l
10日以上残る放射性物質(放射性セシウムを含む)
  • 幼児食 400 Bq/kg or Bq/l
  • 乳製品 1,000 Bq/kg or Bq/l
  • それ以外の食品 1,250 Bq/kg or Bq/l
  • スパイスなど少量使う食品 12,500 Bq/kg
  • 飲料 1,000 Bq/l

ヨーロッパの基準が緩い(緩かった?)のは、チェルノブイリ事故によって多くの食品が汚染され、緩めないと仕方ないという状況を反映しています。

Codex Alimentarius Commission

この組織は、FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)によって作られ、「輸入食品」の規格、基準を定めています。放射性物質を含む毒物の基準(PDF)は以下になります。

放射性ヨウ素
  • 幼児食 100 Bq / kg
  • その他 100 Bq / kg
放射性セシウム
  • 幼児食 1,000 Bq / kg
  • その他 1,000 Bq / kg

ヨウ素の基準は 口にする全食品(飲料含む)の 1 割が放射性ヨウ素やセシウムで汚染されているとして年間被曝量が 1 mSv に届かないように設定されています。計算方法は放射線の項を参照してください。大雑把には以下になります。

  • 一日 350g ずつ 2,000 Bq / kg の野菜を 1 年間食べる ... 5.62 mSv (放射線の項参照)
  • 一日 350g ずつ 100 Bq / kg の食品を 1 年間食べる ... 0.281 mSv (上の値を 1/20 する。 350 g を食品の 1 割と考える。)

つまり 100 Bq / kg という値は、1 mSv に達しないようにする安全基準です。 1 割という係数を用いるのはこれが「輸入食品」のガイドラインだからです[7]。またセシウムの量が 1000 Bq / kg になっているのは、ベクレル数 (Bq) をシーベルト (Sv) に換算する係数がヨウ素よりも小さいためです[8]

ソビエト連邦

ソビエト連邦で1986-1991に定められた、食品における放射線の暫定基準値(Temporary Permissible Levels (TPL), Bq/kg)[9][10] を示します。現在の日本の基準値はこれよりも厳しくなっています。

TPL 4104-88 129-252 TPL-88 TPL-91
採択日 06.05.1986 30.05.1986 15.12.1987 22.01.1991
核種 131I β-emitters 134+137Cs 134+137Cs 90Sr
牛乳 370–3700 370–3700 370 370 37
乳製品 18,500–74,000 3700–18,500 370–1850 370–1850 37–185
肉・肉製品 3700 1850–3000 740
魚介類 37,000 3700 1850 740
37,000 1850 740
野菜・果実・根菜類 3700 740 600 37
パン・小麦・穀類 -  370 370 370  37

その他

香港中文大学のKwan Hoi Shanが香港の食物安全中心(Center for Food Safety)の資料を元に作成したスライドからの抜粋です。基準の出所は食物安全中心としかわかりません。このスライドは日本からの輸入食品の危険性を強調する内容になっており注意が必要です。(アジア諸国の受けとめ方をよく反映していると思います。)

国  放射性ヨウ素 放射性セシウム
Codex
  • 全て 100 Bq/kg
  • 全て 1000 Bq/kg
日本
  • 幼児食 100 Bq/kg
  • 牛乳 100 Bq/kg (香港のスライドで300とあるのは誤り)
  • 野菜、肉、魚介類 2000 Bq/kg
  • 牛乳 100 Bq/kg
  • 野菜、肉、魚介類 500 Bq/kg
米国
  • すべて 170 Bq/kg
  • 全て 1,200 Bq/kg
カナダ
  • 牛乳 100 Bq/kg
  • 食料および飲料 1000 Bq/kg
  • 牛乳 300 Bq/kg
  • 食料および飲料 1000 Bq/kg
中国本土
  • 牛乳 33 Bq/l
  • 食料 190 Bq/kg
  • イモ類 89 Bq/kg
  • 野菜、果物 160 Bq/kg
  • 肉、魚介類 470 Bq/kg
  • 牛乳 330 Bq/l
  • 食料 260 Bq/kg
  • イモ類 90 Bq/kg
  • 野菜、果物 210 Bq/kg
  • 肉、魚介類 800 Bq/kg
台湾
  • 幼児食、乳製品 55 Bq/kg
  • その他 300 Bq/kg
  • 幼児食、乳製品 370 Bq/kg
  • その他 370 Bq/kg
シンガポール Codex に準拠 (シンガポールは食品のほぼ全てを、水さえも、輸入に頼っていることに注意)
参考
  1. 原子力資料情報室炭素14の項より
  2. この値は原子力教育支援サイトより。
  3. 原子力資料情報室ラドンの項より
  4. 飯田孝夫「屋内ラドンとその健康影響」健康文化 1999年6月号 pdf
  5. 須賀新一, 市川龍資 (2000)「防災指針における飲食物摂取制限指標の改定について」保健物理 35(4), 449-466にセシウムの指標の算出法があります。この情報は先浜直子さんに教えていただきました。
  6. 輸入規制値は今でもそうなのかもしれません。知っている人がいたら教えてください。
  7. 間違えていたらどなたか教えてください
  8. 実際には、ヨウ素とセシウムでは換算係数は2倍程度しか違いません。正確には、 1000 Bq / kg は緩く、100 Bq / kg はきついと思います。ただ放射性ヨウ素は原発事故直後に牛乳に濃縮されること、摂取したヨウ素が甲状腺に蓄積することを考慮した判断だと推測します。また原発事故の場合、半減期が 8 日である放射性ヨウ素を 1 年間食べ続けるという仮定は非現実的です。しかし再処理工場から継続的に排出される放射性ヨウ素による汚染等を考える場合 (例えば六ヶ所村の再処理工場からの排水には多くの放射性物質が含まれます。ウィキペディアの記事を参照)、こうした仮定は成立します。
  9. IAEA. International Atomic Energy Agency. The International Chernobyl Project. Assessment of radiological consequences and evaluation of protective measures. Report by an International Advisory Committee. Vienna, IAEA; 1991
  10. Balonov MI (1993) Overview of dose to the Soviet population from the Chernobyl accident and protective actions applied. In: Merwin S, Balonov M, editors. The Chernobyl papers, I, doses to the Soviet population and early health effects studies. Richland: Research Enterprises, pp.23–45
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